Free Discussion

大阪大学大学院

中沢篤志、福田忠昭、山本一馬

ともにつくる

　まず､芦屋第8コーポラスの建替事業を事例として､「ともにつくる」というキーワードについて議論してみたい｡

震災で住むところがなくなって､本当に住むことを考えたことから､「ともにつくる」プロセスが始まった｡
第8コーポラスの建替プロセスを見てると､住民に「ともにつくる」ことができるポテンシャルがあるのではないか､と感じた｡
そのポテンシャルは､「住み続ける」ことを考えた結果､目に見える形になって現れたのではないだろうか｡
今までは､そういった「ともにつくる」ポテンシャルに期待しないような形で､まちの整備が行われてきたような気がする｡
弱者を捨て自己資金での建替をするなどがそれに相当するだろう｡
そうは言っても､事業のリスクを低減するためには､住民のポテンシャルに最初から期待することは難しい｡むしろ､プラスアルファのように考えられていたのではないか｡
今回の第8コーポラスの建替は､いわゆる「事業」ではないことが特徴だ｡住民の感情こそがポイントだった｡
震災からの復興で失敗は許されないから､ポテンシャルにかけることができたのだろう｡
住まいに限らず､ともによい環境をつくっていこうとする気持ちは元々誰もが持っているはずで､それを専門家が上手に引き出す方がより自然だと思う｡
第8コーポラスを位置づけるとすれば､震災という特殊な状況が契機となったが､結果としては､「ともにつくる」ことができた､ということだろう｡
震災が契機でなくてもできるかどうかが､他のマンション建替に第8コーポラスの事例を応用できるかどうかのポイントとなるだろう｡また､第8コーポラスについては､次の建替時には今回築いた住民間の信頼関係がさらに発展しているはずだ｡

ともに住まう

一般のマンションの印象は､「楽」な住まい方を志向する人々の住まいというイメージだ｡
他人のことまで考えて住むわけではない､ということが特徴ではないか｡
まちと個人の関係が深まるほど､自己を定位する場としてのマンションを意識せざるをえなくなり､「ともに住まう」（≠楽な住まい方）をするようになるはずだ｡
関係を深めざるをえない建替に直面して､はじめてマンションを意識する？
震災復興だから｡さっきも言ったが､震災からの復興で失敗は許されない｡失敗すれば即､住宅に困る人が続出するからだ｡
ヒアリングを見ていて感じたことだが､賃貸する人以外は､一戸もいわゆる「標準プラン」の住戸はなかった｡結果として､間取りも含めて一種のコーポラティブ方式の建替となった｡従来のマンションの「標準プラン」は､入居者のニーズの最大公約数的な解を目指しているとはいえ､どの入居者に対しての解にもなっていないことが実感できた｡あえてコーポラティブ方式を採用した設計事務所の皆さんの心意気に敬意を表したい｡
――「ともに住まう」住み方の展望や､「共住」の形のイメージは､どんなものだろうか？
キーワードは､弱者を基本にすることと､下町とは違う都市型コミュニティだろう｡近所付き合いはドライだが､互いに信頼しあえる｡下町や村を否定すると孤立するしかない､という状況からの脱却が目標だ｡都市コミュニティの在り方のひとつの選択肢となるはず｡
それは､今回の建替でよくわかった｡一緒に住むことの意味を考えて､まとまりをつくった｡意志の疎通を図り､役員会や総会にエネルギーを注いだ｡
第8コーポラスでは､多様な階層の人々の間のつきあいができている｡戸建て住宅地より階層が混在しているという､マンションが本来持っていた特性を生かしているのだ｡「現代的な集まり方」といえるだろう｡
その山本君のいう3から4のプロセスが今回の建替でひとつの形となるのでは｡そして､ 5の段階に､マンションが常にあれば建替は決して難しいことではない｡
マンションの住人自身､コーポラティブな住まい方ができていれば､まちとの連続性もつくることができる｡

まちとのつながり

自分たちの専門から言えば､マンションの建て替えも､まちの課題のひとつとして解きたかった｡震災復興という性格上､マンションなど大敷地の場合は特に､敷地単位で対応してしまうのは仕方のないことなのだが･･･｡
第8コーポラスの建替については､緊急避難的な解き方としてとらえた｡もっとも､被災地全域で「緊急避難措置」がとられているわけだが｡
普通､最初はまちとのつきあいを想定してマンションに入居する｡が､住み続けるために､そしてまちとの関係を確保するためには､マンションをまちに位置づけなくてはならなくなる｡
自分の部屋に自己を定位するのではなく､マンションそのものに自己を定位するようになる｡
それは「楽」な住まい方≠まちに住むことだ｡そして､芦屋のまちの中のマンションとしての住まいの定位が必要だ｡
一人の意志が影響を及ぼす「あつまり」を今回はマンションと考えられる｡
まちに住み続けるためには､マンションの住人たちの関係の中で自己を位置づけることが必要になる｡まちと個人とが直接向き合うのは､いかにも不安定だ｡間に住人のまとまりを象徴するものとしてのマンションが介在することで､安定したまちと人の関係づくりができる｡
今回､第8コーポラスが建替決議まで来れたのは､定位づけの方法がわかったからと考えてよいのだろうか？
個人がやるべきことがそれぞれわかったのではないか｡妥協するのもひとつ､協調するのもひとつ｡しかし､それがどろどろしていて､決して理想論ではないことは感じる｡
「ともにつくる」「ともに住まう」ことは､「まちとのつながり」があってこそ生きるのだろう｡
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