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インビトウィーン・スペースに見る街と人のつながり

ザイール生まれ・永田・北野建築設計事務所

ルクムエナ・センダ
(Nsenda. B. Lukumwena)


牛は美しいか

   私は都市計画もやっていましたが、 今日は建築家の立場から、 都市に対してお話をします。

 

   デービッドさんはスケールの話をされました。

エリサさんは、 「これは美しい」「これは美しくない」といった言い方をされました。

そう言われているときにはベースがあるはずです。

 

   今も建築の学校で先生が言っていたことを思い出します。

「牛は美しいか」ということです。

答えれたらベースとなるものがあるということです。

皆さんは答えられますか。


ベクター、 ノード、 ビルディング、 インビトウィーン

   話を進めますと、 まちにはベクターがあります。

そしてノード(節)。

次に、 ビルディング。

さらにインビトウィーン(すきま)。

これから一つ一つを簡単に説明します。

 

   ベクターは例えば山道です。

いつも私が使っている言葉では、 チャンネル。

向き、 方向性を持っているものです。

 

   ノードはベクターが交わる所、 例えば交差点など、 人の集まる所(ガザリングスペース)、 いわゆるフォーカスポイント(焦点)です。

 

   大阪の場合、 ベクターとノードのつながりがうまくできていません。

大阪には大きなノードがあります。

神社とか交差点がそうです。

OBPや海遊館もひとつのポイントです。

南港あたりも、 ATCも含めて一つのポイントです。

新大阪もひとつ。

たとえばこの四つのポイントを見ると、 繋がりがよく出来ているかどうか疑問があります。

 

   ATCと海遊館は直線距離はわずかですが、 かなり遠回りしなければ行けません。

すぐに渋滞です。

対してパリでは、 大きなノードを簡単につなぐネットワークが出来ています。

 

   インビトウィーンとは建物と建物の間のことです。

私が興味があるのは、 ここです。

インビトウィーンにはスケール感があるからです。


見えるレイヤーと見えないレイヤー

   さっきのデービッドさんの話でとても面白かったのは、 まちにはレイヤーがいっぱいあるということでした。

ヨーロッパに行ったら確かにそうなんです。

期待を感じさせるものがあります。

日本のタウンスケープ、 ストリートスケープを見ると、 あまりそういうことがありません。

 

   そういうことがないということは、 いいかどうか、 簡単には言えません。

しかし、 レイヤーがないために、 違うコンセプトを輸入するという結果になりやすいことが問題です。

 

   建物をいくらつぶしても、 まちの空間構成は簡単には変わらない。

変わらないから見えるレイヤーはほとんどなくても、 見えないレイヤーがあります。

見えるレイヤーの下に見えない形が残っています。

美しいか美しくないか、 輸入したか、 していないか、 ということは、 その見えない形との繋がりが出来ているかどうかということなんです。


日本のコンテキスト

   だから、 美しいか、 美しくないか、 アーバンデザインがよくできているかどうか、 まちが汚いか、 その判断はとても難しいのです。

 

   建築を勉強してきた我々の場合、 そういった場合のコンテキストはヨーロッパがベースです。

そのようなコンテキストは日本には無いかもしれませんが、 そういったステージを超えたら日本にも空間コンテキストはあるんじゃないかと思います。

たとえばスケール感です。

 

   ヨーロッパ的なコンテキストから簡単に「まちがきたない」と言ってよいものかどうかと思います。

 

   とはいえ、 エリサさんに見せてもらった写真でも分かるように日本はどこにいっても同じ建物になっています。

まちの個性が理解しにくいのです。

だから、 都市計画の出発点として、 まちのなかの見えるポイントをノードか、 中心にしたら随分変わってくるだろう、 インフォメーションポイントとなるのではないかと思います。

 

   次に、 まちのつながりのポイントを考えることが大事です。

大阪は、 まちと人のつながりを余りにないがしろにしていると、 景色を見て感じます。

 

   では、 これから、 今までお話ししたことをベースとしてスライドをお見せします。


サンフランシスコの風景

画像r01    サンフランシスコのベイブリッチを通った時、 車から見たものです(図1)。

サンフランシスコでは高いものはほとんど海の方へ持ってきています。

山の方には、 小さいものを持っていきました。

だから、 山の景色がちゃんと作られています。

ベイエリアは、 山の景色をじゃましていません。

 

   大阪の場合は、 山を削って平にして、 そこに建物を作っています。

そういうふうにしたら、 サンフランシスコのようにはなりません。

画像r02  

   図2はナスダというサンフランシスコのエリアです。

道はそんなに広くなく、 日本の道に近いものがあります。

このランドスケープを見ながらお話ししようと思います。

ここは、 まちの中で、 一つのメインの道ですが、 5mもありません。

画像r03  

   図3は、 メインの道からはいったところで、 日曜日になるとこの空間を使っています。


インビトウィーンスペース

   サンフランシスコのなかなかよくできている点として、 道を渡ってそのまま違う建物に行けるということがあります。

大きな道と、 小さな道を使いながらネットワークを作っています。

画像r04 画像r05  

   図4は裏の風景です。

インビトウィーンスペースで何ができるのか、 例として出してみました。

図5は、 同じ場所から建物を見ています。

このスペースは、 路地ぐらいの広さです。

画像r06  

   図6はサンフランシスコです。

日本と違っているところは、 小さな店があって、 花がおいてあって、 道と建物の間に一つの場ができあがっていることです。

画像r07 画像r08  

   図7と図8は、 さっき見た店の前です。

その、 建物と道の間に花があるわけです。


パブリックスペース

   外国から日本に来て余り長くない人は、 オープンスペースが足りない、 パブリックスペースが足りないと言います。

でもそう言っている時には、 結構、 あちこちに自由に使える場所はたくさんあることを見逃しているのです。

画像r09  

   サンフランシスコに行ったら、 そういうオープンスペースのスタイルはあまりありません。

代わりに会社のイメージとして、 パブリックなオープンスペースをよく作ります。

一回はいったら、 自由につかえて、 座って珈琲を飲めるといったスペースはかなりあります。

こういうものが、 たくさんあると、 一つの変わったポイントをつくることができます(図9)。


インフィル

画像r10    昔、 サンフランシスコに住んでいたときには、 図10の建物はありませんでした。

となりには、 かなり小さな建物があります。

隣の建物とはスタイルが違いますが、 スケールとしてはそんなに変化していません。

画像r11 画像r12  

   図11、 12は、 インフィルされた建物です。

ここに美術館があり、 すぐ入ったところにちょっと座れるベンチがあります。

 

   まちのなかで時間を潰せるところがいっぱいあるのは、 人とまちのスペースのつながりの上で、 とてもいいことだと思います。

こういうところが、 たくさんあると、 自分のまちがどういうものかが分かってくる。

きれいか、 汚いか、 どんどん気にするようになると思います。


商業空間

画像r13 画像r14 画像r15 

   図13、 14は、 商業空間ですが、 ここで一番おもしろいのは、 この低い建物と向かいにある建物とが、 お互いにランドスケープになっていることです。

 

   図15も商業空間です。

おもしろかったのは、 中にはいるとトップライトがあるので、 横からの照明と、 上から入ってくる光が、 少しソフトに見えていることです。


日本のインビトウィーンスペース

   ここから、 日本になります。

画像r16 画像r17  

   図16はサンフランシスコと考え方は一緒なのですが、 手すりみたいなものがあることが違います。

道と建物のつながりはなかなか良くできています。

 

   図17は、 インフィルされた一つの店の入口です。

これがいいのは、 入口に大きなスペースを作って空間を感じさせていることです。

心斎橋の方です。

画像r18 画像r19a  

   図18ではベンチを作っています。

最近できたものです。

道が広がったからこういうことが可能になったのだと思います。

 

   図19は同じエリアの、 日航ホテルの前なのですが、 ベンチがあって、 まちとつながりを感じさせる空間となっています。


電線

画像r20a    図20はお花やさんです。

違うのはここには自転車がかなりたくさんあることです。

自転車は、 どうしても必要なんです。

必要だから、 こういうことになってしまうんです。

 

   さっきの、 デービットさんの話の中で、 電線のはなしがありました。

私も、 来たときには、 なぜこんなにたくさん電線があるのかと思いました。

でも電線は必要です。

すぐにはかえられません。

最近は、 電線や電柱をランドスケープとして、 デザインし、 ビジュアルインパクトをもつものとしたらどうかと考えています。

 

   電線をなくそうということを言われる人は、 ヨーロッパやアメリカのようなところをベースにして、 電線がないところはきれいだと思っているだけだと思います。

画像r21  

   図21は、 オルガニックビルディングです。

お金を十分使って作ったものです。

誰でも気持ちがいいものです。

建物が美しいか美しくないかは別として、 街並みとしては一つのものができていると思います。


テンポラリーなものの意味

画像r22    図22は、 ちょうど心斎橋筋の中程に向かってみているものです。

これだけ看板があります。

2年ほど前のものですが、 こういうものがまちの中にあることが一つの情報にもなっています。

 

   こういうものをなくすよりは、 こういうものを活かして、 デザインして、 統一していくことで、 一つのランドスケープができていくと思います。

画像r23  

   図23は心斎橋の違う方向のお店です。

ここでは、 テーブルを出してお花を出しています。

これは車を止められないように店の人が置いているのです。

こういうものは一時的なもの、 いつも変わるものなのに、 街のひとつのエレメントになっています。

こういうものが日本には結構たくさんあります。

まちづくりにおいてそういったものをデザインポリシーの中にいれたら、 いろんなことができるだろうと思います。


骨格としての空間構成

画像r24    図24はさっきのオルガニックビルディングです。

これだけの努力を建築側がしても、 自転車があちこちに出ています。

 

   街路は昔からのもので、 できたときにはこれだけ車が走ることはなかったと思います。

車が走るようになっても、 こういう街路の空間構成は簡単に変えられませんから、 昔からのものが残っています。

 

   OBPは新しい敷地でやった仕事です。

だから街路の空間構成にそういう意味での制約はなかったはずです。

全体計画を見ると、 ウイングがあって、 ウイングの中に店が出ていて、 ラ・デファンスにとても似たものになっています。

でも、 OBPとラ・デファンスの大きな違いは、 ラ・デファンスのほうは全部デッキでできていることです。

OBPは、 例えばIMPホールのように、 建物と建物のつながりがとても弱いのです。

 

   ひとつの建物を出たら信号待ちで、 道を挟んで向こうに行きます。

なにか忘れてしまって、 戻ろうとしたら同じことをするか、 オーバーヘッドブリッジに上がって、 と大変です。

 

   面白い空間ではない。

新しい敷地の計画であるにもかかわらず、 全体のプランはダウンタウンにあるものとまったく一緒なんです。

あそこは特殊なものを作れるはずだったのに、 残念ながら空間としては大失敗だったと思います。


デザイン規制

画像r25    図25は心斎橋のひとつのストリートにあるお店です。

こういうインフィルが日本の場合はけっこうたくさんあります。

都市計画、 アーバンデザインが、 そのインフィルをメインなものとして見て、 デザインオジェクティブ(デザインの目的となる発想)を作ったら、 そういうものはたくさんありますから、 まちの新しい顔ができるんじゃないかと思います。

 

   法律には、 デザインオジェクティブそのものはほとんどありません。

あるのは高さとか緑地とか、 セットバックとか、 避難とかだけです。

デザイン的なものはほとんどありません。

だから自由に何でもできる。

自由になると統一性はかなり作りにくいということです。


街路と人間の関係

画像r26a    図26のポイントは、 それぞれの建物の間口が狭いということです。

ここを歩いている人はゆっくり歩いています。

ゆっくり歩くと小さい建物がちょうど目に合う。

だから変化があります。

 

   ゆっくりと歩いていると、 大きなファサードだったら、 退屈になります。

 

   OBPにはスケール感の変化がぜんぜんない。

この写真にはあります。

画像r27  

   図27には町でよくみかける市の車止めはありませんが、 車をおかせないために、 ランドスケープのデザインとなるものをつかって、 例えばベンチをおいて、 その役割をはたしています。

 

   ベンチに人が座れば、 それがバーチャルな車止めになります。

こういったことは、 まだ日本の習慣になじみにくいのではないかと思います。

 

   車は必要なんです。

こういうスペースも必要です。

その車と道と建物と人の関係をうまくとるのはなかなか難しい。

車で動いている人は結構いて、 駐車違反している人も結構いる。

駐車場に入れようと思っても、 ほとんど置く場所がない。

例えば、 ヨーロッパのブルージュ(BRUGES)というまちは保存のために駐車場は全部まちの地下に入れているんです。

そうすると空きはできます。

まちの体験がスムーズにできるということです。

画像r28  

   図28は、 肥後橋あたりのミックスなエリアなのですが、 小さな店があって、 住宅があります。

ここでも自分のところに車とかバイクとかが止められないように、 花を出しています。

それが、 まちの一つのランドスケープになっています。

画像r29  

   さっきいったように、 日本ではストリートカフェは少ないのですが、 長堀の北や四つ橋と御堂筋の間に、 最近けっこう小さなカフェができています。

かなり小さな店もどんどんできています(図29)。


住宅街

画像r30    図30は、 住宅街です。

日本の住宅街の一つの問題は、 山を削って平らにして作るということです。

そうしたときに、 道はどうしても谷になる部分が多くなります。

この場合は違うのですが。

画像r31  

   図31の住宅街は人がいなくて寂しいものです。

しかしもっと寂しいのは、 ソフトなインターフェイスがほとんどできていないことです。

なぜかというと1mか2mの擁壁があって、 その上に建物を全部持っていっているからです。

歩いている人間には、 つまらない空間で、 余り行きたくないところです。


法律との関係

画像r32    建物のストリートスケープに影響があるのは、 日本の法律のゾーニングとか北斜線とかだと思います。

図32の建物の斜めの壁は、 その結果です。

最初は、 そういうつもりじゃなかったのですが、 法律の関係があって、 北側をカットしました。

これはうちの事務所が設計してできた建物です。

画像r33  

   図33のスタイルは、 全部法規の関係でこういうことになっているということです。


私の作品

画像r34    図34の建物は、 インビトウィーンのスペースからまちに向かって考えてみたものです。

小学校ですが、 坂倉にいたときに担当しました。

この図はホールから見ているからホールは写っていませんが、 ホールからみると中庭と向かいの公園はほとんど一体の空間になります。

この建物をやったときに、 一つのポイントとしたことは、 中庭を作って、 そこに近所と学校のつながりを持たして、 人が集まる空間としたいというこです。

画像r35  

   図35は先ほどのマンションの中庭です。

 

   これで、 終わります。

どうもありがとうございました。

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