また、 バリでよそから来た人達がバリの文化を理解できなくて、 全く違う環境をつくっていくことをどうしたらよいのか。 ここではそういった問題について考えていきたいと思います。
3 メッセージとしての表現
図36は奈良で見かけた風景ですが、 こういう不思議な空間が日本のあちこちにあります。
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図37はポルトガルのリスボンの街角のものですが、 最も分かりやすいメッセージの例です。 昔こういうことがあったということを陶板にして張ってあり、 直接的なメッセージです。 奈良の例はなかなか分からないんですが、 これはよそから来た人にもよく分かるメッセージです。
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《サイト−ジェームズ・ワインズ》
サイトというグループが数年前に博覧会用の造形を作ったことはご存じのことだと思います。
この中のジェームズ・ワインズは、 それを「ナラティブ・アーキテクチャー」として、 次のように説明しています。
「建築界ではいまだにモダニズムに広く影響されており、 ヴォリューム/構造/空間操作というかって形態至上主義者だけが熱中したような鍛練によって作品をつくり出そうとすることに執着している。 (中略)残念ながら、 このような建築に対する狭い考え方では、 20世紀以前の歴史的建造物に見られる象徴的/神秘的/隠喩的/引喩的/形而上学的世界のもつ豊饒さを理解することはできない。 (中略)多様で秩序の見えない複合性の強い現代社会において、 適切な言語を用いて建築に物語性をつくり出すにはどのようにしたらよいかということである。」
〈ジェームズ・ワインズ〉
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「ナラティブ」の「ナラ」はナレーションの「ナレ」と同じ意味で、 訳せば「しゃべる建築」ということになります。
ボリュームや構造、 空間操作だけではもの足りない、 それだけでは豊饒、 豊かさがないというのがジェームズ・ワインズの考え方です。
《ナラティブ・アーキテクチャーの特徴》
ワインズは、 ナラティブ・アーキテクチャーを次のようにイメージしています。
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つまり、 単にボリュームや空間の構成がかっこいいということではなくて、 意味を持つためにどういうことが可能かを述べているわけです。
実際に彼らがどういうものを作ったかを見ていきます。
《サイトの作品》
あたかも崩れかけたような建物をわざとつくった「崩壊のファサード」と名付けられた建物(図38)は、 建築の成長と崩壊の過程をメッセージとして表わしています。
彼らがどうしてこういうものをつくるかについて、 ワインズがこう述べたことがあります。
「日本では同じ文化の中だから柔らかいメッセージでもいいけど、 アメリカには共通して理解できる環境言語が見つからないからこういうきつい表現をあえてやったのだ」。
「幽霊駐車場」という作品は実際にも駐車場として使われているところに駐車している車をかたどったアートを置いたものです。
動かない車をわざわざ置いてどういうメッセージを発しているかは見る人によっても違いますが、 強いものを感じます。
図39の「ハイウェイ86」はカナダで行われた万博のメインゲートです。
うねる高速道路を作って、 そこに実際の交通機関をおいて白で塗った作品です。
これを見ると、 すさまじい運動エネルギーが我われのすぐ横を日々通り過ぎていることが実感できるわけです。
写真では小さくてわかりにくいのですが、 スニーカーまで張り付けています。
ジェームズ・ワインズはそのデザインの狙いを「古典的な形・機能・シンボルとしての建築を人間の内的対話としての建築として取り戻したいから、 そのために意味を持った豊かさを作っていかなければならない」と説明しました。
それについてみなさんがどう評価するか分かりませんが、 こういう狙いを今の都市化した社会あるいはアメリカ的つまり多文化的な地域で行っていくと、 非常に表現過剰になり街が饒舌になってしまいます。
必ずしもこうした狙いばかりがいいとも言えない状況になってしまいます。
しかし、 これは非常に重要な問題提起だと思います。
《Bプロジェクト》
設計は丹田悦雄さんです。
テーマは「中・低層の町並みに調和する」ことです。
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町家における「ミセ空間」や表長屋に見られる「ニワ空間」を集合住宅の中に作り上げられるかどうかを試してみました(図61〜63)。 複雑な形をしながら、 それぞれが「ニワ」を持てる仕組みを追求したわけです。
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《Cプロジェクト》
設計は喜多隼紀さんです。
非常に長い敷地で長さ43mもあり、 表面・背面とも道路に接しています。
裏表が作れない条件で、 この場所をどうしようと話しているうちに「トオリニワ」という発想が出てきました。
町家のトオリニワとは違うんですが、 それが言葉として出てきて設計に結びつきました。
図64は全景です。 単身者の寮ですから外から見える通路を下着姿一枚でウロウロしている可能性もあるんですが、 そういう居住者の生活を垣間見させる空間も面白いんじゃないかという発想です。 トオリニワは朝夕、 子供達や通勤の人達も通れるところです。
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図65はトオリニワを上から見たところです。 図66は全体を写したものです。
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《Dプロジェクト》
ダイキンの独身寮で、 喜多隼紀さんの設計です。
ここは区画整理でつくられた地域で回りにはまだ空き地がたくさんあるのですが、 将来マンションが建ち並ぶ可能性もあるので「地区の景観をリードしていく低層の住宅町並みの形成」をテーマにしました。
そこで10人を一家族として、 三つの家を中庭をはさんでつくるという発想になりました。
ただ、 こういう地域は車社会ですので車が必要になりますが、 寮は駐車スペースが普通の住居の3倍ぐらいの比率になってしまいます。
住居空間に対して駐車場のスペースが非常に大きい、 奇妙な空間になってしまうので、 それをどうするかは大きな課題になりました。
結局、 広すぎない程度の駐車場を周囲にとり、 残りは中庭に配して外からは見えないように工夫しました(図67、68)。
《Eプロジェクト》
難波のOCATにある地下道です。
基本イメージは「二つの世界をつなぐ」で、 「注視されるものがもたらす移行のプロセス」等をデザインイメージとしました。
このプロジェクトの場合、 最初は文章とイメージを作りました。
「時の流れ」と「光」「多様な色彩」等。
それを理解していただいて設計につなげるという作業を経ました(図69)。
図70はその結果、 出来た地下道です。
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図71が「注視されるもの」で、 知らない人は知らないんですが、 ゆっくり歩く人は「発見」するものがあります。
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これらの小品群(図72)は、 若い作家の人達に一人当たり10個ぐらいのガラス作品をつくってもらい、 はめこんでいったものです。
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