これまで次のような話を展開してきました。
こうして振り返って見ると、 古い時代、 あるいは文化が濃い地域では、 普通の生活が呼応する環境の中にたくさんのメッセージがある。 それは文化としての環境のコンテキストであるといえる。
これに対し、 現代社会、 現代都市では、 そうしたコンテキストがなかなか見えない。 そこで、 「きついメッセージ」や「美味しいサワリ」が効果を発揮するように見える。 しかし、 それでは環境があまりにも饒舌になってしまう。
どうして「豊かで」「和らかく」「人間的な」環境がデザインできないのだろうか。 その手掛かりはこれまで述べてきたことにあると思います。 つまり、 私たちのデザイン作業においてもっと感覚を総動員する必要があるように思います。 単に「格好よく」あるいは「奇抜に」装うのがデザインではないのです。 発している意味や自分との関係、 あるいはそれらが置かれた状況から、 私たちは環境に対する好奇心や安堵感をうるのです。
そうしたデザイン手法の手掛かりの一つが、 「天−地−人」にあるように思います。 ここには、 「ある現象を言葉で説明して、 伝達し、 理解、 再表現する」というプロセスがあります。 つまり、 現象から物語を読んでそれを形に織り上げていくということです。 それが私達にできれば、 もうちょっと深みのある景観ができるのではないかと思うのです。
最後にまた最初の話題に戻りますが、 すでにあるテキストを読んでああ面白いというのが最近のテキスト研究なんですが、 そうした思考を実際のデザインに反映させるためには、 まず自分でテキストを作ってみることが必要だと思っています。 先ほど紹介したプロジェクトの経験なども経て、 そう認識するようになってきました。
普通テキスト研究は、 上の左側の流れですが、 右側の流れの作業が作れないだろうかと考えています。 つまり従来の教養的なテキスト研究から、 景観の構成を知り、 環境設計に「使える」ものにするために、 何かやってみる必要はないだろうかと考えたわけです。
ただ、 いろんな文化や国の違いがあり、 それをどう見るかという問題があるのですが、 とにかく先入観なしにどこまで読めるか。 また、 日本人とアメリカ人、 日本人とインドネシア人の感覚はどこまで違うかなどの問題もありますが、 とにかく解読してみよう。 そういう実験を一種の基礎研究として行ってみる必要があると思います。
次に紹介する試みは、 まだ十分出来上がって成熟したものではありませんが、 ひとつの方法としてあり得るということを示そうとしたものです。 これを皆さんに紹介し、 ディスカッションの素材にしていただければと思います。
最後になりますが、 一つ提案をさせていただきたいと思います。 200字戦略です。
《200字戦略》
デザインというのは、 単に鉛筆をなめながら図形を描くものではなく、 意味やイメージを産みだすことだと思います。 つまり、 メッセージを発する作業です。 ですから、 そのねらいを、 設計者自身が理解しなければならないと同時に、 発注者にも解るようにしなければならないと思います。 そのために、 我われは、 達成すべき空間像をイメージ化し、 言葉でそれを伝達し、 理解してもらい、 それを実際の空間に表現していく作業をしていくべきだと考えます。
そうした方法をわたくしは「200字戦略」と呼んでいます。 それは、 デザインイメージを文章で説明することで、 特に公共空間のデザインにおいて独りよがりを避け、 単に形を写すだけという薄っぺらさを免れることにつながります。
たかが200字ですが、 それを言葉で表そうとすると、 相当考えなければならないことに気がつきまして、 プロジェクトがあるたびにそれを200字にして説明するよう提案しています。 実際やってみると、 デザインについて普通程度の理解力の人でも「なるほどそうか」と納得してもらえます。
これから公共空間や公共施設を手がけるとき、 「相手が理解不足だ」で終わるわけにはいきませんから、 納得させるためにはこちらも理解してもらえる表現をしなくてはいけない。 やはり、 A41枚の用紙に200字書いて、 その上にスケッチを添付するということもやっていく必要があるのではないでしょうか。
4 自らテキストをつくり
コンテキストを読む
(1) 小説や絵に描かれた景観、 環境イメージといってもいいが、 これを読むことの意義と面白さ。
(2) それぞれの地域には独特の環境観。 例えばバリ、 あるいは日本の空間意識。 〈心のけじめ〉として の結界。 環境におかれたさまざまなメッセージ。
(3) 自らを納得させる環境づくりのシナリオとしての風水。
(4) 枕詞、 絵合せ。 組合わせで強調するアイデンティティ。
(5) 自然な形態をもつ要素の言葉によるデザイン。 天−地−人。
(6) これらから環境構成する要素が、 あるシナリオでそこに存在し、 ある意味をもっていることによって、 環境は豊饒性をもつ。 こうした指摘はこれまでも多いが、 それを新しい形で実践したのがサイトグループであった。
(7) サイトの試みはそれはそれで面白いが、 饒舌であり、 メッセージがきつい。 和らかく、 美味しく表現する方法として多用されるのが「サワリ」のデザインである。
(8) 「サワリ」のデザインの究極としてのテーマパーク。
(9) 「サワリ」のデザインは面白いが、 普通の街にもちだすと、 メッセージが過剰になってしまう。
(10) 都市環境デザインはさまざまな分野の人の協働で行なわれることが多く、 「言葉で議論しながら、 デザインを進めていく」ことになる。
(11) 特に、 「地域への調和」が議論される場合、 それをどこに求め、 どのように表現し、 伝達するかが課題になる。
新たな都市環境デザイン手法の模索
(1)環境・景観 (1)自分の気に入った
| 環境・景観を発見
| する
↓ ↓
(2)それに刺激され、 (2)自らがそれに刺激
人は絵を描き、 され絵を描き、 歌
歌を詠む を詠む
↓ ↓
(3)それを「読み」 (3)それを「読み」、
景観を知る 景観の構成を知る
↓ ↓
(4)それは教養とな (4)それを環境設計に
り、 また景観創 活用する
造への手掛かり
となる
参考文献
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1)1996年度建築学会大会都市計画部門研究懇談会資料
2)鳴海邦碩他編著『神々と生きる村 王宮の都市:バリとジャワの集住の構造』学芸出版社、 1993
3)コリン・マックフィー著、 大竹昭子訳『熱帯の旅人』河出書房新社、 1990
4)高取正男著「生け垣・柴垣・卯ノ花垣」『生活学のすすめ』高取正男著作集4、 法蔵館、 1982
5)黄 永融著『歴史都市の計画規範としての風水論に関する研究』大阪大学博士論文、 1996
6)足田輝一著『樹の文化誌』朝日新聞社、 1985
7)鳴海邦碩著「形態のアナロジー」、 上田篤他編『空間の原型』筑摩書房、 1983
8)中川理著『偽装するニッポン』彰国社、 1996
9)伊藤ていじ著『日本デザイン論』鹿島出版会、 1966
10)「サイト:ナラティヴ・アーキテクチュア」『a+u』1986年12月臨時増刊号
11)オギュスタン・ベルク著、 篠田勝英訳『都市のコスモロジー』講談社、 1993