メルカテルロとイタリアの都市計画
(株)竹中工務店
井口 勝文
1。 メルカテルロの概要
写真1 メルカテルロのチェントロ全体像 |
そのチェントロ(centro 中心市街地)に人口の80%が集中しており、 そのうちの30%がチェントロ・ストリコ(centro storico歴史的都心)の内に住んでいる。
就労人口約600人の内、 農業13%、 工業49%、 その他38%である。 小中学生130名、 高校生96名で、 14歳以下の人口に対する65歳以上人口の比率は81年109%であったものが91年には163%と高齢化している(いずれも1991年国勢調査)。 1995年の統計によれば90年代に入って人口の減少傾向は弱まってほぼ横ばい状態になっている。
都市基本計画の位置づけは日本の都市計画地域の指定に相当する。 しかし2つの点で大きく異なっている。 まず、 イタリアでは都市基本計画で定められた地域の範囲にのみ建築行為が許可(確認ではなく)されるということであり、 しかもその範囲は極めて限られている。
もう一つの相異点は、 都市基本計画によってチェントロ・ストリコの範囲を定めることである。 都市の歴史的な資産を守り、 活用しながら時代に即した都市の発展の方向をコントロールしようとする意図がそこに含まれている。
2。 都市基本計画と地区詳細計画
写真2 メルカテルロのチェントロと周囲の山並み |
写真3 丘の上の要塞集落 |
ジャンカルロ・デ・カルロは1994年、 パオロ・スパーダと協働して新しいウルビーノの都市計画を発表した。 そしてそれは、 1985年のガラッソ法に基づく風景計画に重点が置かれている。
パオロ・スパーダはウルビーノの新しい風景計画について「今までは富士山を美しくする計画にすぎなかったものが、 今度は富士山と富士山をとりまくすべての風景をひとつのものとして考えているようなものだ」と語った。 チェントロから眺める周りの風景、 遠く離れて眺めた時のチェントロや山や丘、 田園や木立ちの風景、 それ等の景観の質をどのようにつくっていくのか、 ウルビーノの風景計画はそのことに挑戦している。
メルカテルロはまだ、 この新しい風景計画を持っていない。 広大で豊かな山々と丘、 そして田園を持つメルカテルロにとって新しい風景計画の策定は重要な課題であると、 市長のアルフィエロは語る。
そして風景計画も、 チェントロ・ストリコや丘の上の集落の地区詳細計画も、 いずれもメルカテルロの環境を美しくすること、 そして美しくすることが自分たちの生活の質を豊かにすることになるという意図を持って策定される。 町を美しくすることで観光客を集めたい、 商業を活性化したいということが直接の目的ではない。 それは自分達の生活の質を高めるために欠かせない課題であると考えられている。
イタリアの都市計画に学ぶべきところは実はそこにあると今回は考えさせられた。