イタリアの生活
築500年の家を修復して住むメルカテルロ・井口邸の場合
(株)ジイケイ設計大阪事務所
森重 和久
図1 メルカテルロ・スル・メタウロのチェントロ・ストリコ |
また、 梁は木製でまるで電信柱を梁材とした感じである。 隅部屋の梁は外壁に沿わせてあり、 内側の壁や梁と緊結されて建物全体の剛性を保つ引張材として組構造の壁を支えている。
床は、 梁の上に垂木を34cm間隔に架け、 その上に構造用煉瓦(170×340×45mm)を並べてその上にモルタルを流し、 化粧煉瓦を敷いて仕上げられている。 修復の終わった所を階下から見上げると、 一層の煉瓦で仕上がっているように見える。 その煉瓦や梁をはずして修復するのだから、 構造は一体何によって支えられているのかわからない状態である。
こうした建築のありようは、 歴史的な都市を再生させることに努めているイタリアの伝統と文化も一因であるが、 そのための職人が養成されていること、 自分たちが育ったまちを愛し地域にある素材を利用あるいは再利用するのが気候ともあった一番長持ちするやり方であると信じていることも大きい。 環境や自然を破壊しないことで自分たちの生活を守るという信念のようなものを自然に身につけて住み続けている住民に、 ある種の凄さを感じた。
図2 修復前の家屋の実測図―3階平面図
図2 修復前の家屋の実測図―2階平面図
図2 修復前の家屋の実測図―1階平面図
次に修復前の平面(図2)を見ると大小あわせて23室と屋根裏部屋1室で3つの暖炉と煙突がついている。 ここで不思議に思うのは、 1、 2階は同平面であるが3階の一部は隣接持主のものとなっていることである。 日本の集合住宅でも時々見かけるが、 構造体は共用で触ることの出来ないのが普通である。 しかし、 井口邸の修復では構造体は見事に溝斫り(幅1m、 深さ30cm)がなされ設備配管が埋設されている。
写真1 未修復の倉庫部屋 |
写真2 修復された玄関ホール |
その日は翌日のセミナーの準備と夕方到着する本隊の宿泊先の手配などに忙しく、 一階の部屋は床が見えるだけのままで隣町のホテルに移動した。 セミナーの公式行事が終了したあとメルカテルロを離れたため掃除に取りかかった部屋のことが気に掛かっていたが、 帰国の際に集合したミラノで、 メルカテルロに残留したメンバーが旅行の目的を果たすべく床ブロックを一枚一枚剥がして掃除をしたと聞き、 我々以上の大変な思いであったろうと推測した。 また別のチームは近隣住民から鎌や鍬なども貸していただき、 中庭の草抜きと整地もして見違えるように綺麗になったと後日掃除後の写真を見せられたときは感激であった。
この様にして築500年の家に住み続けるのは大変な事ではあろうが、 私の周りで今日も壊されていく日本の住宅の様子を見ると、 何だか空しい気持ちがこみ上げてくる。
この旅行ではメルカテルロのまちの人々の親切や暖かさを十分に感じることが出来た。 それにもまして、 井口邸から宿に帰る途中の真っ暗な夜道で見かけた動物の光る目、 そして井口邸の暖炉の前で食べた奥さんの作られたおにぎりが良い思い出となった。
井口夫妻に、 心からありがとうございました。