路地から見たまちづくりの作法
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リレートーク1

尾道の路地と
現代都市のあり方について

地元まちづくり活動家

大崎義男

 

はじめに

改行マーク私が路地を意識したのは、 15年ほど前になるでしょうか。 その頃、 父の経営するタクシー会社にいまして、 よく無線配車でドライバーに、 「荒神堂にどうぞ」と路地名を連絡していました。 誘導するのに路地の地名はとても便利なのです。 路地の名前さえ言えば、 その場所(地点と空間)のイメージがパっとドライバーの頭に浮かび迷うことがない。 それが路地を意識するようになった最初だと思います。

改行マークその後「路上観察学会」の活動を知り、 その魅力に取りつかれ、 まちをめぐり歩きました。 それで路地の面白さが一段とよく分かってきました。


路地の面白さ

改行マーク1992年に自分の企画会社を立ち上げたのですが、 その年に建設省の後援で、 「中国・地域づくり交流会」主催のイベントがあり、 中国地方の各地でシンポジウムが開かれることになりました。 尾道でもやろうということになり、 我が社の最初の仕事になりました。 私達は、 尾道でのテーマを「画面の中の路地考」として、 建設省が対象としない道路である「路地」を取り上げることを提案しました。 この時は、 映画監督の大林宣彦さんに基調講演をお願いし、 その後参加者全員がチームに分かれ、 街を探索して楽しみました。 そんなイベントを通して、 身近な所に路地はあるのだと感じるようになりました。

改行マーク路地の面白さの一つは、 ある場所に行きたいと思ったとき、 いろんな経路の道を、 そのときの気分に応じて、 自由気ままに選べることです。 これは実に面白い。 車社会に合わせて計画された道路と違って、 自然発生的に出来た「路地」は、 人間臭くて、 思いもよらぬ新しい発見が出来て、 実に楽しいものです。

改行マークまた、 尾道の人は他のまちの人と違って、 「尾道はいいまちだ」とわがまちを自慢する人が多いのです。 私もその部類ですが、 なぜそうなのかと考えると、 やはり尾道という都市空間には、 昔から引き継がれてきたある種の魅力に満たされている。 その魅力が何らかの形で自分とつながっている。 それがとても心地いいんでしょう。


尾道の特徴

改行マーク尾道は人口が少ないわりに、 昔から文化人など多くの人材を輩出してきた街です。 何故なのかはよく分かりませんが、 やはりそれも尾道の街のあり方と深く関わっているのではないかと考えています。

改行マークまずは、 尾道水道です。 川のように蛇行しながら東から西へ、 西から東へと流れる海が、 すべてを浄化してしまうこと。

改行マークそれから路地と坂道です。 これは同じものが、 場所によっては全く違うものに見えてしまうという視覚的効果があります。 そうした効果は、 人間の心や頭に心地よい刺激を与えてくれるような気がします。

改行マーク路地も、 漁師さんが住むところもあれば歓楽街もあり、 それぞれ違う個性を持っています。 しかも、 路地は都会でも田舎でもない曖昧なところがいい。 光が射しているところもあれば陰もあり、 広い道路から突然隠れることができるのも路地の面白さです。

改行マーク路地にある家は、 狭い空間に軒を出したり引っ込めたり、 それなりに収まっています。 そうした中で育まれたコミュニティの良さもいいところです。 プライバシーが漏れてしまうまずさはあるのですが、 それだからこそお互いが信頼しあって生活している良さもあります。 今晩のおかずのやりとりができる生活環境ですから、 誰もがリラックスできるのです。 だから路地の中では、 猫は実にのんびりしています。


車社会における路地の役割

改行マークしかしながら、 今の時代は車社会です。 「尾道のまちも車社会を積極的に受け入れたまちづくりが必要ではないか」ということで、 2年前に「車考クラブ」という市民会議で議論しました。 しかし、 その議論では「尾道では車の入らない路地空間が大事ではないか。 車の入らない空間は、 住む人にとってもプラスになる」という結論に達しました。

改行マーク車社会はたかだか百年にすぎませんが、 路地はもっと長い歳月をかけて成立してきたものです。 どんどん新しくなる、 刺激的で緊張する現代都市も大事でしょうが、 人をリラックスさせるゆるやかな空間も大事だと思います。 尾道が人をほっとさせる和みの空間をもつ街として、 今後も成立し続けて欲しいというのが、 生活者の立場です。 そして、 今住んでいる人の欲求だけでなく、 過去に住んでいた人間(つまり、 死者)、 このまちを愛する人々の意見も交えて、 まちづくりを考えられないものかと思います。

改行マークまた、 現代の都市計画は、 まるで図面の上に線を引くように画一的に作られますが、 そうすると曖昧さがなくなってしまうのです。 路地は計画性がなく成立した空間ですが、 その曖昧さが住んでいる人間にはプラスになるのではないかと思うのです。 ちょっと視点がずれて計算ができない街、 完璧ではない街がこれからのまちづくりの目指すものではないかと、 私は考えています。

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