都市案内の研究
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2.「移動体への案内」をめぐる論点

改行マークこれまで案内表示は、 駅を起点として人は移動するものとして書かれてきました。 しかし、 これからは「移動する人」への案内の仕方も変わってくると思われます。


カーナビに判断を委ねる快楽

改行マーク例えば今の人気商品であるカーナビは、 自動車で移動中の人に対する都市案内です。 これは、 人間と機械が一体となった私的空間が公共空間(道路)を走っている状況だと言えます。 そこに様々な案内が提供されているわけです。

改行マーク面白いことにカーナビには方言版があるそうです。 大阪弁や東北弁で「右曲がってや」「右さ行ってくれ」と言うそうです。 ある東京の人の意見では大阪弁の案内はうるさくていやだけど、 東北弁は案内がないときは「しばらく黙ってるサ」と優しく言ってくれるので好評だそうです。

改行マークつまり、 自分の好みに応じて情報が受け取れるようになっているのです。 従来だと自分で地図を見たり、 経験で判断していたことが、 カーナビが全て引き受けてくれるようになって判断を委ねるようになりました。 安心して判断を委ねる背景には、 標準化された情報への信頼があります。 人と情報との信頼関係です。


「移動する社会」における案内環境

改行マークこのように「移動する社会」がますます進むことを考えると、 人々は情報を求めながら町を移動するのではないかと思います。 現に女子大生は、 ポケベル、 PHS、 携帯電話を持つのは当たり前、 その上にたまごっちやキティちゃん型歩行計を身につけて町を歩いています。 彼女たちにとっては、 「情報化された生活」こそが、 ごく日常的なライフスタイルなのです。 移動しながら人とのコミュニケーションを図る社会がこれからの都市の姿だろうと思います。

改行マーク「ケータイグッズ」という言い方をしますが、 (範囲の限られたコミュニケーションしかできない)情報端末を持って行って、 先々でいろんな情報を交換し合うライフスタイルが、 今見えてきているようです。 従来インターネットなどで考えられていた「部屋に閉じこもって情報を受け取る」のとは違う、 生活の情報化です。 そういう人々に対する案内の仕方が、 今後問われるのではないかと思います。

改行マークその一つの答えとして、 PHSによる居場所案内サービスが登場してきました。 京都の業者が始めたのですが、 PHSを持って歩いている人の位置を知ることができるものです。 ほとんど昔のスパイ映画のような時代に入ろうとしているのです。 もともとは現金輸送車の場所を知らせるサービスだったのですが、 一般向けのサービスとしては幼児や老人の安全確認に使われることになります。

改行マークこれは一例ですが、 こんな案内のありようがもっと出てくるのではないかと思います。

改行マークもう一つの例として、 金沢の観光ガイドシステムがあります。 金沢の駅前や有名な観光地で、 いくらかの保証金を払うとイヤホンを貸してくれます。 町中おもだった観光地にゆくと、 イヤホンから観光ガイドが流れてくるのです。 従来は博物館にあったシステムですが、 最近では携帯電話のようなスタイルも生まれ、 そういう発想を都市にまで広げることができるようになった。 金沢のガイドシステムはなかなか面白いと思いました。 これなどは、 都市をさまよう観光客向けに、 適切な情報を必要な時にだけ、 サービスできる案内システムだと思います。


「移動体への案内」をめぐる本質的課題

改行マークつまり、 「移動体への案内」をめぐる本質的課題を考えると、 選別され、 限定され、 個々に分化した情報の提供が可能かというところに行き着きます。 必要とするときに必要な情報が、 移動している人に提供できるのかということです。 これが今後考えられるべき問題だと思います。

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