私の知り合いに藤井さんという人がいて、 98年の春名古屋でFM・DANVOを立ち上げました。 彼の方法論が面白いのは、 放送局を名古屋市で一番の繁華街とちょっとはずれにある若者達の町のちょうど中間に置いたことです。 これは両方の町からFM局に人を呼び集めようとする試みで、 二つの町の回遊性を高めるために情報発信の拠点であるFM局を置いたわけです。
藤井さんの戦略で面白いのは、 誰でもFM番組に出られるシステムを作ったことです。 会費を払って会員になると誰でも放送局で話すことができるのですが、 経験を積むとクラスアップして長く話せるというシステムになっているのだそうです。 リスナーが状況に応じて話し手になり、 出世していく仕組みです。 従来は公共の電波には個人のメッセージは流せなかったのですが、 このFM局ではそんなメッセージも流せます。 詳しい法律は判りませんが、 ミニFMという比較的電波の届く範囲が狭い放送ではその辺の規準も緩いようです。
ともあれ、 人々はFM局からの情報を聞いて「今日はあそこで何か面白いことがあるらしい」と盛り場に行き、 その途中で自分も情報の発信ができるという仕組みを作ったのです。 つまり、 町に関する情報を自ら発信できる状況を作ったわけで、 私はそれを「相互性」「参加性」の問題と考えたいと思います。
またそのアイデアで面白かったのは、 町の面白い情報を放送局が集めるのではなく、 リスナーの情報をもとにした(「今あの町ではこんな面白いことをやっている」という情報をそのまま流す)ことです。 それも「相互性」「参加性」を前提とした都市案内の一形式だと言えます。
「ゼグシィ」という結婚情報誌がありますが、 掲載料を払って結婚関係の会社の記事を入れるのですが、 それを見た読者がリクルートに問い合わせ、 それらの反響を集めてそれぞれの会社に戻してゆく仕組みになっています。 私の知人でブライダル会社を経営している人によると(この人も障害者同士の出会いの場の企画などユニークな発想を持つ人です)、 このゼグシィのみが読者からの反応を会社に戻してくれるそうです。 他の結婚情報誌は、 その点全然駄目だそうです。 業者と読者をつなぐサービスが優れていて、 それが注目されている。 これもある分野に特化した都市情報で、 人と人とをつなぐ役割を果たしていると思います。
その時の課題として、 受発信における「偶然性」―例えば、 町でたまたま見たことを伝える―の意味を考える必要があると思います。 結婚情報を例に取ると、 たまたま雑誌を見て面白そうだと思ったから連絡し、 縁が結ばれていくという事例が重なっていくでしょう。
つまり、 最初から予定されていた情報提供ではないわけで、 どんな回路でどんな情報がつながっていくかは設定されていないのです。 「相互性」「参加性」に着目すると、 偶発的な情報提供というものだけが持ち得る可能性が見えてきます。 堅い言い方をすると、 社会的文脈によって制度化された情報を伝えるのではなくて、 一種の出来事、 ハプニングとしての情報が案内される回路が、 成り立ちうるのかという課題が浮かんできます。
3.「相互性」「参加性」をめぐる論点
コミュニティFM
次に「相互性」「参加性」について考えたい。 この論点は、 「移動体への案内」とも関係してくるのですが、 一つの事例として最近面白いと思っているのが「コミュニティFM」という新たな媒体です。
リクルート「ゼグシィ」の情報化戦略
同じような発想の案内は、 雑誌媒体ではかなり前から登場しています。 例えばリクルートが展開している、 ありとあらゆる媒体のマーケティング戦略には、 「相互性」「参加性」の発想がかなり入っているそうです。
「相互性」「参加性」をめぐる本質的課題
以上のように、 案内という分野で、 今後さらに「相互性」「参加性」が必要になってくると思っています。
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