住宅文化に関する研究的関心の所在
茶道の家元の家のプラン |
二つめの事例の家には娘さんがいました。 親は娘さんが結婚し、 夫婦で2階に住んでくれることを望んでいました。 そのため2階に大きなベッドルームを増築し、 娘さんの夫のために書斎をつくり、 1階にはリビングルームもつくりました。
増築された家のプラン |
こうした家の物語は私たちに何を教えているのかを考えなければなりません。
それはともかく、 この例もそうですが、 一戸建ての住宅は増改築など、 手を加えやすい住宅です。 家族のライフステージに合わせて、 どのような機能や形態が求められているのか、 また、 どのような空間要素が重視され、 望ましい住宅像が追求されているのか。 それを明らかにすることによって、 住宅が持っている世代間の文化伝達の媒体としての役割が明らかにできると思います。
伝統的な都市住宅である町家には、 洗練された中庭である〈前栽〉があり、 〈トオリニワ〉という土間の屋内通路がありました。 現代の一戸建て住宅は、 これらの影響を受けながらも、 全く新しい文化として生まれたと言ってよいと思います。 そして私的な庭の緑は、 地域の緑のネットワークを形成する上で、 重要な役割を担っているのです。
日本の一戸建て住宅は、 多くの場合、 生け垣で囲まれています。 この生け垣は、 武士の屋敷に用いられることもありましたが、 農家の垣として一般的なものでした。 防風機能をも兼ねているため高いものが多くありました。 高取正男によると、 垣の内は、 神社が鎮守の森によって守られているように、 「青葉の霊力」によって守られていることを意味しているといいます。
また、 この生け垣はパブリックな空間である道路に、 重要な緑の環境を提供しています。
ウチ・ソト関係を表示する境界は、 日本では多くの場合、 強く分かつものではなくシンボル的な性質を持ったものです。 たとえば、 「敷居が高い」という表現があるように、 床の高低によって境界が設定されることもあります。 住まいの内外にはこうした結界が多数見られ、 伊藤ていじはその結界性を支えているのは「心のけじめ」であるとしています。
庭と垣根
庶民住宅の庭についてみると、 農家では母屋の前方の空き地を〈カド〉と呼び、 〈ニワ〉というのは母屋内の土間のことです。 しかし今は、 ニワは庭(garden)のことです。
生け垣で囲まれた農家
生け垣で囲まれた現代風の住宅
生け垣で囲まれた現代風の住宅
一戸建ての玄関 |
これは武家屋敷の伝統を汲むものとされ、 今日の集合住宅の入り口にも、 一種の玄関性の残存をうかがうことができます。
集合住宅の玄関 |
日本では床座が伝統ですが、 居間や食事室に椅子座が導入され、 一つの住宅の中で、 床座と椅子座が併存しています。 ここでもJapan meet West Through chairということができるでしょう。
日本人はどこで部屋のくつろいでいるか |
日本の家庭内の景観 |
この図は部屋の中にビデオを据え付けて家の人たちがどこにいたかを調べ、 プロットしたものです。 図ではほとんどの場合こたつでくつろいでいて、 ソファやダイニングテーブルは利用されていないことが分かります。 みんなこたつに集まってテレビを見ているのです。 床に座る方がくつろげるということです。
その結果、 椅子座と床座の二つの視点に基づいて家具調度が配置されるために、 室内景観に混乱が生じています。 図は日本の家庭の典型的なインテリア景観です。