新アテネ憲章1998について
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第1部

都市と都市環境のための現在の協議事項

人口構成と住宅

  • 過去50年以上、 ヨーロッパの人口構造は変化した。 出生率の恐ろしい爆発は抑制されたが、 世帯数はかなり増えた。
  • その要因は、 離婚率の増加、 結婚適齢期が上がったこと、 核家族化、 高齢化社会、 より高水準での生活である。
  • 環境を保護する一方で、 ヨーロッパを通じて新しい世帯の配置と構成を如何にするかが課題である。
  • 労働市場の開放で国際的な移住が激しくなることが予想される。
  • グローバルな人口の動向と大衆旅行が、 影響を及ぼすものと考えられる。
  • 多くのヨーロッパの都市では、 人びとに社会住宅を提供する伝統と経験があるにもかかわらず、 ホームレス、 貧困者、 高齢者、 片親、 少数民族の人びとのために、 住宅や仕事の供給やコミュニティ設備の提供においてなすべきことがまだ多くある。
 
改行マーク人口構造が変化して世帯は増え、 地球環境を考えながら新しい人口構成をしていかなければならないということが認識されています。 また、 労働市場の開放によるグローバルな人口動向、 そして特に重要視されているのが大衆旅行で、 これらが都市のあり方に影響を及ぼすことが指摘されています。 そういう状況の中、 住宅困窮者に対する課題もまだたくさん残っているととらえています。

改行マーク続いて、 社会に対して問題が移っていきます。


社会的問題

  • 都市生活のエネルギーは、 世代・民族あるいは貧富によって決定される社会的集団の多様性に依存するという認識が高まりつつある。
  • 一般に古い都市に見られる多文化の街(neighbourhoods)は、 社会的・経済的活力を供給できる。
  • その一方で、 ある都市では、 剥奪と貧困、 社会的排除が明らかに存在している。 それは、 しばしば、 ある街(neighbourhoods)や地区(quarters)に集中している。
  • 同時に、 生活様式と住宅への要求の性質も急速に変化したが、 住宅供給とそのプランニングの特徴の大部分は、 文化やライフスタイル、 気候の相違により、 かなり地域間で異なる。
  • 都市計画における課題は、 社会的な持続可能性についてであり、 多様性と多元論への傾向を認識し、 人びとのより多様なニーズに対してより敏感になることである。
  • また、 都市計画はコミュニティ復興のための戦略を調和せることを通して、 ホームレスや貧困と剥奪などの負の効果を減らす役割も持っている。
 
改行マーク世代・民族・貧富の差が生み出す混合性、 多様性が生活のエネルギーに相関するという認識を持ちながら、 しかし同時にそういう街では問題が集中しているとも考えられています。

改行マークここで、 そうした社会的問題に対する都市計画の目標として、 次のようなことがあげられています。

  • 都市計画は都市の発展に影響を及ぼしている全ての問題に取り組むことはできないが、 引続く世代の文化的そして社会的なニーズに関する都市活動の新しいパターンを創出するという抜本的な解決策を、 実践者そして研究者としての都市計画家が生み出すことが必要とされる。
 
改行マークいい表現だと思うのが「(都市計画は…)引き続く世代の文化的そして社会的ニーズに関する都市活動の新しいパターンを創出する」というところです。 対象としているのは「今」ではないのですね。 いろんな問題が将来起こりうると予見されれば、 そのための新しいパターンを前もって作っておかねばならない。 その役割を都市計画が担っているというのです。 ひとつの役割認識です。


文化と教育

改行マークここでは、 自由な時間を仕事ではなく余暇として過ごすようになり、 それにつれてレジャーと都市観光が急速に発展するだろうと述べられています。

  • これらの活動が、 市街地における歴史的遺産の敷地とオープンスペースに大きな影響をもたらしている。
    • 歴史的遺産は、 世界の他の地域と比べて、 文化とヨーロッパの特徴を決定する主な要素である。
    • ほとんどの市民と観光客に対して、 都市の性格は、 建物と建物間のスペースの質によって決定される。
  • 多くの都市で、 歴史的遺産という資産を持つ都市構造が、 空間の再構築、 道路建設と不動産産業の無制御な活動という不適当な計画によって破壊された。
    • 今後は、 遺産資源を保護し、 保存と解釈の最良策を促進する努力を結集せねばならない。
    • この行動は、 適切な空間戦略とあいまって、 明日の都市の幸福とその特別な特徴とアイデンティティの表現のために重要である。
 
改行マークここで注目したいことは、 都市観光が強調されていることです。 「レジャーと都市観光は、 EU(ヨーロッパ連合)で急速に発展しつつある活動であり、 都市の歴史的遺産はこの現象には必須の構成要素となる」と指摘されているように、 都市の歴史的遺産が都市観光の対象であり、 都市観光資源と認識されています。 その一方、 レジャー・観光活動が盛んになるにつれて市街地の歴史的遺産やオープンスペースが負の影響を受けるとも予測されています。

改行マークまた都市観光の魅力は、 「建物と建物の間のオープンスペースの質によって決定される」と具体的に指摘されていますが、 ヨーロッパの町並みを思い浮かべると確かにその通りだという気がします。

改行マークそして「遺産資源の保護、 保存と解釈」との記述がありますが、 「解釈」の意味はまわりの街並みのコンテクストを読みながら新しいものを作っていこうということだと思います。 保存と新しいものを作っていくときの解釈を重要視している箇所がいくつか見られます。 明日の都市の幸福は空間の質を維持しようとする努力にかかってくるとし、 そのために面白いことに「教育」にポイントを置いています。 「読み書き、 算数だけでなく、 都市を教えよう」と提案しています。 教育は長期的なことになりますが、 それに価値を置いているのです。

  • 教育は、 都市の発展の主な構成要素である。 読み書きと算数の能力の基礎的な水準を満たすだけでなく、 歴史的なセンスと市民の誇りを生み出す。
    • それにより市民は都市を理解し、 本質的な情報を取り戻し、 市民権について学ぶ。 その結果、 都市生活においても意志決定プロセスにおいても、 より深く参加する機会が生まれる。
 

情報社会

  • 情報技術と電子通信の革命は、 すでに都市機能に著しい影響を及ぼしている。 移動の必要性が減少し、 職場の性質が変化し、 高速の情報と効果的な通信により人びとの能力が向上することが予想される。
  • さらには、 家庭を拠点とした遠隔学習の機会をより多く提供することにより、 教育システムが向上するであろう。
    • 情報技術と電子通信が土地利用にもたらす最も革命的な効果は、 大規模オフィスや生産施設のニーズを削減し、 都市空間への需要を減らすことかもしれない。 その結果、 より複合的な開発や社会的な相互作用の拡大へのプロセスが容易になるだろう。
 
改行マークここは文脈がわかりにくいのですが、 あとで触れる機会もあると思います。


環境

改行マークここは、 みなさんよくご存じのことですから、 簡単に紹介します。

  • 21世紀の都市計画家は、 地球環境問題に取り組むと同時に、 都市内または都市周辺の文化遺産やオープンスペース、 緑のネットワーク、 文化的景観を守ることも必要である。 また生物的多様性を維持する事は重大なことであり、 このことは、 田園地域にもそのまま当てはまる。
 
改行マーク環境問題と言えば地球環境のことばかり取りざたされて身近な問題はどこに行ったのかと思うことがよくあるのですが、 ここでは地球環境と共に身近な問題に取り組むことが「同時に」必要だと繰り返し指摘しています。 また、 これは都市だけではなく田園地域にも当てはまる問題だとしています。 「田園=自然が豊か」のイメージではもはや認識が甘いということです。


経済

改行マーク今回の新アテネ憲章で、 とりわけ重要視されていると感じたのは、 経済についてです。

  • 公共、 民間それにボランタリーなセクター間の連携含めて、 経済発展は、 基本的な役割をもつことになろう。 そのためには、 厳しく、 透明なプロセス(開発プロセスのことだと思われます/鳴海)や、 都市計画家を含むよく訓練された専門的な支援者(ファシリテーター)が必要とされる。
  • マクロ経済のレベルでみれば、 環太平洋諸国に見られるように、 国際的にも、 国内的にも、 都市間で仕事を取り合うという現象が増えるだろう。 この現象が、 テレコミュニケーションと情報テクノロジーの革命によって、 さらに促進されるのは明らかである。
    • また、 パートタイムやタイムシェアリング、 短期間の雇用契約をする人びとの増加とともに、 体系的に構成された経済構造も変化し続けるだろう。
 
改行マーク新アテネ憲章の中でヨーロッパ以外のことに具体的にふれているのは、 ここの「環太平洋諸国」という部分だけですが、 これは韓国、 台湾、 日本、 シンガポールなど太平洋西側の国々を意識しているようです。

改行マーク都市間で仕事を取り合うことがヨーロッパでも起きることを認識した上で、 次のようなことが書かれています。

  • 国際的には、 大きな事業の縮小や労働力の削減傾向があり、 このことによって、 大規模な長期間にわたる失業がもたらされよう。
 
改行マーク一方、 ミクロ経済のレベルでは、 持続可能な社会、 仕事と活動のアクティビティが関係してくることが指摘され、 都市計画が重要な役割を果たすと言及しています。

  • ミクロ経済のレベルでみれば、 地方の経済活動の台頭が予想される。 ヨーロッパでは、 既に、 小中規模企業(SMEs) の増加という形で反映されてきている。
    • より持続可能な都市への推進政策がとられるということは、 ローカルな仕事や活動が創造されることが必要であることを意味している。 これは活力を増進させ、 生活の質を高めることにも貢献する。
  • 経済成長やローカルなコミュニティの再生を目指す上で、 都市計画が極めて重要な役割を果たすということは、 過去10年の経験から明らかである。
 

移動

改行マークこれは交通の問題と言い換えてもいいでしょう。 西側の水準に追いつきたい中央・東ヨーロッパの願望によって、 ヨーロッパでも自動車利用はさらに拍車がかかると予測されています。

  • 全ヨーロッパにおいて車の所有者やその利用者が1970年代から急激に増えており、 またこの状態は今後も続き、 これから25年で恐らく200%に増えると考えられている。
  • そして、 西側の水準に追いつきたいという中央・東ヨーロッパの国々の願望によって、 さらに拍車がかかるであろう。 この交通革命の影響は、 特に、 汚染、 渋滞、 健康への危険性、 再生不可能な資源の利用という点において、 広く知られている。
 

選択と多様性

改行マークこれをどう読むかですが、 土地利用や都市形態のひとつのイメージとして論じられているところです。

  • 拡大するグローバル社会において、 21世紀の市民は、 生活の便益や生産物、 サービス、 都市が提供すべき施設に対して、 より多くの選択や多様性を期待するだろう。
  • これまでのように、 社会で最も力のあるセクターの人びとは、 さらに多くの選択を行うことができるようになり、 彼らは自分の基準で都市を選択し地域の経済を先導し、 その結果、 雇用の特質に影響を与え市民の役に立つことができるであろう。
 
改行マークここで言う「社会で力のあるセクターの人びと」というのは、 簡単に言えば金持ちのことです。 金持ちがどういう生活を望むかによって、 未来が見える。 彼らは、 新しい時代の生活パターンを先取りしていると見る必要がある。 そういう文脈だと思います。

  • 都市の経済構造を計画しビジネス活動をサポートするという計画の文脈において、 従来の商業地や居住地として、 一つの用途に集中させる土地利用に対して、 混合土地利用地域の優位性が考慮されなければならない。
  • 既に古い街(cities)で見られる混合土地利用地域は、 社会経済的な活動を増加させるとともに、 多様性をもたらす、 ということを指摘しなければならない。
 
改行マーク「混合土地利用地域の優位性」はあちこちに出てくる言葉ですが、 なぜかと言うことには言及していません。 しかし、 そこにひとつのヒントがあるということだと思います。


総合

改行マークここで、 第1部の現状認識のとりまとめが述べられています。

  • これらの要素はすべて、 都市計画の空間的側面、 つまり都市の形態についての考えや、 何が未来都市の理想的な形かという議論に収斂してくる。
 
改行マークこれはやはり、 ヨーロッパの都市計画家による考え方の着地点で、 日本だと現状の問題点を議論してもこういう結論にはならないでしょう。 日本だと、 結論に「都市の形態」を持ってくると「違う!」と言う人が圧倒的に多いと思います。

  • 多くの配置上の問題や管理上の問題が、 都市形態の決定に重要な役割を果たす。
 
改行マークサステイナブルな都市構造、 都市の運営は形に関係があるという認識です。

  • 都市形態は本質的に都市の特徴とそのゲニウス・ロキ(地霊)にリンクするのである。
  • 「ヨーロッパの環境:ドブリス・アセスメント」で5つの主要な問題が明らかにされた。 大気の質、 騒音、 交通、 住居の質、 そして緑地やオープンスペースへのアクセスとその広がりである。
  • これらの要素は都市それぞれに異なるが、 ゴミ問題や空気や水の質の問題に取り組む一方で、 地域の質の状態を高めたり、 エネルギーや資源をあまり使わない解決策を促進することによって、 持続可能な発展に貢献するために地方自治体が一般的にできることは概して多い。
 
改行マーク取り組むべき方向としてまず「ヨーロッパの環境」があり、 問題は都市ごとに違うけれど、 それぞれの都市が取り組むことによって問題が解決するという認識を改めてここで述べています。

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