新アテネ憲章1998について
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第3部

明日の都市のニーズの充足と市民の念願

改行マーク10のキーワードをつくり、 それぞれに提言しています。


1 全ての人びとのための都市

  • 新しい都市への来住者を含めて、 全てのグループは、 開発計画や社会経済的な手法を通じて、 社会、 経済、 そして都市における文化的な生活に組み込まれなければならない。
 
改行マーク「新しい都市への来住者も含めて」となっているのは、 都市計画は既存住民だけを対象にしているのではないということです。


2 真の住民参加

  • 地方レベルや中央レベルの選挙システムしかない場合には、 特に日常生活や地域環境の質に関する問題に対する市民の権利、 ニーズや願望などが、 実現されることはほとんど不可能である。 このような状況に置かれている地方政府は、 しばしば住民から離れているように見える。
  • 都市計画の枠組みを階層的な形に再構築し、 その結果、 市民が参加しやすくする必要がある。
 
改行マーク市民参加は新アテネ憲章の中でもとりわけ重要視されていますが、 ここではその姿勢がかなり明確に打ち出されています。 「市民の願望が実現されることがほとんど不可能」とは、 議会とまちづくりの関係だと思います。


3 人間同士のふれあい

  • 都市の中心部における人口の集中が進むと、 ヒューマンスケールが失われ、 フィジカルな構造だけではなく、 社会的な腐食がはじまる。
    • 人間同士のふれあいの枠組みを提供し、 都市計画の運営における住民参加を可能にするには、 街区、 近隣、 「カルティエ」といった、 より小さな単位がこの構造において重要な役割を果たすであろう。
    • 公共の領域を、 コミュニティのセンスや社会的な活動や活力が生み出される場所として再び利用されるよう再整備しなければならない。
    • 遺棄された土地やもはや使用されない建物の再開発は、 公共スペースの枠組みと関連付けられなければならない。 と同時に、 古くなった工場や軍の施設のような放棄された施設において、 社会的な機能が結びつかなければならない。
 
改行マーク「ふれあい」が提言の上位にくるということが、 今の時代を反映しているように思います。


4 特質の継続

改行マークこれは一般的にアーバンデザインの課題として認識されるところでしょう。 都市の質的なものに関する記述です。

  • 文明の原動力としての都市のコンセプトは、 何世紀にもわたって確立されてきた。 そしてそれはすべての歴史的な都市のフィジカルな特質に要約されている。
 
改行マークこの認識も非常にヨーロッパ的です。 都市のフィジカルな特徴が文明の原動力であるということが、 ヨーロッパの都市の基本概念だということがわかります。

    • 都市計画は、 都市の特質を重要視する質のよいデザインを守るという明確な役割を持っている。 しかし、 建築における創造性や建物の間の空間の構成やマネージメントにおける創造性を抑制するものではない。
 
改行マークつまり、 保存も大事だけど、 新しく作るものも都市計画の課題だということです。

    • 都市計画は、 建物、 歴史的な地区、 オープンスペースや緑地を含む、 伝統的な要素と都市環境のアイデンティティを守るように努めなければならない。
    • これらの要素は、 都市デザインの原則に基づき、 連続的なネットワークのなかに組み込まれるべきである。
    • 将来、 都市計画は、 個々の都市や地域に特色ある性質やアイデンティティを与える建物の伝統を強め、 より発展させなければならない。
    • 建築と建築の計画は、 都市全体およびその周辺環境を考慮に入れなければならない。 デザインの解決は、 その地域、 その特別な質に関する視覚的、 文化的、 機能的、 歴史的な評価に基づいてなされなければならない。
 
改行マークこの辺の記述は、 日本の都市計画の範疇からははずれますが、 建築的な都市の基本原則が述べられていると思います。


5 新しい技術からの利益

改行マーク情報技術は重視されていますが、 その利益はコミュニケーションや多様な経験への可能性を高めるとしています。 コミュニケーションの質の問題です。 コミュニケーションの質をどうするかによって都市の姿も変わってくるというふうに読みとれます。

  • 情報技術の世界的な発展は、 社会の変化や輸送システムを含めた将来の都市構造に密接な関係がある。 それにもかかわらず、 電子コミュニケーションが取って変ることのできない人間同士のふれあいは、 重要であり続けるだろう。
  • むしろ、 情報技術は、 コミュニケーションや多様な経験への可能性を高めている。
 

6 環境的側面

  • 全ての計画は、 持続的開発の原則に基づくべきである。  計画が奨励すべきことは……
     ・再生不可能な資源の保護
     ・エネルギーの管理と
      クリーン・テクノロジー
     ・汚染の低減
    • 浪費の忌避、 廃棄物の削減、 リサイクル
    • 地域のコミュニティを支えるための意思決定の柔軟性
    • 資源としての土地の節約と荒れ地の再生
  • 生物の多様性は、 都市計画において不可欠な構成要素でなければならない。 例えば、 都市をつらぬく「緑の回廊」によって、 エコシステムを維持しようと努めるべきである。
 
改行マークこれまでに何度も出てきた課題がここでも強調されています。 「生物の多様性」も繰り返し出てくる話です。


7 経済的活動

  • 全ての市民にとって最大の利益となる一連の開発を成し遂げるために、 公共と民間のセクターが協力するという、 積極的な枠組みが構想されている。
 
改行マークこれはヨーロッパで以前から行われてきた協調型開発(行政と民間が両輪となって開発すること)の認識の表現だと思います。

    • 都市計画には、 民間セクターならびにビジネス・コミュニティが利益を得ることを保証する、 特別な責任がある。
    • この観点から、 都市の質は、 それ自体資源であると同時に経済的繁栄に貢献する。 都市が外部世界へ提供する文化的イメージだけでなく、 都市の歴史的中心地区や新しいエリアにおける計画やデザインの質も、 歴史的遺産や自然環境の保護と同じくらい重要である。
    • 都市計画は、 市民にローカルな仕事を提供し、 さらに都市の経済基盤を強化するために、 小規模なビジネスの開発を促進しなければならない。
 
改行マークこの部分は覚えておけばあちこちで使えそうな文章です。


8 移動とアクセス

  • 移動へのニーズは、 効果的な輸送の中継地点の開発に加えて、 活動の配置と利用の強度への慎重な配慮と混合利用地区の促進によって、 減少されるだろう。
    • マイカーへの依存は、 価格による締め出し(pricing)と駐車場政策により妨げられるべきである。
    • 公共交通の発展の実現性を高めるため、 さらには歩行と自転車のための施設を改善するために、 利用者圏域(catchment area)の調整計画が存在すべきである。
 
改行マークいろんな機能の配置と混合土地利用によって、 移動のニーズが少なくなるだろうと言うことです。 マイカーへの依存もいろんな方法で制御しなければならないと指摘されています。 そのための公共交通の仕組みとして、 歩行と自転車施設の再編の必要性が述べられています。

  • 化石燃料の消費を減らし、 輸送機関からの排出物と他の汚染物質を削減するために、 汚染のない輸送システムのための投資が目標にされるべきである。
 
改行マークこれは、 交通の問題がエネルギー問題と関係してくると指摘しているわけです。


9 多様性と相違性

改行マークこの問題がここで出てくるのも面白いと思います。

  • 都市の計画において、 公共の衛生や安全の点から利用が分離される必要がある場所を除いて、 大規模単一機能の土地利用を放棄することを一般的な目的とする必要がある。
    • 特に都市の中心部において、 都市構造の中に多様性と生命力を取り入れるために、 混合土地利用の原則が推進されなければならない。
  • 住宅と仕事場は、 他の共存できる土地利用と共に、 移動ニーズの低減や省エネルギー、 汚染の削減のために、 時間的にも空間的にも密接に関連されるべきである。
 
改行マークここで述べられている環境などの問題は住宅に収斂していくのですが、 それは次のように提言されています。

  • 住宅における省エネルギーとよりよいプライバシー確保(insulation)のため、 想像力豊かなデザインによる解決が、 新しいタイプの建物のデザインに活用されるべきである。
  • デザインは、 地域社会で不利な立場にあるグループが手に入れやすい低価格の住宅を提供するために、 新しい技術と材料によって、 コストの節約を最大にする努力をしなければならない。
 
改行マーク住宅は機能性があり、 安ければ良いというわけではなく、 デザインの役割を強調しています。


10 健康と安全

改行マーク最後に提言されているのが健康と安全の問題で、 本文には「都市で戦いをしてはならない」という記述もありましたが、 まとめると次のようなことになります。

  • 都市計画は、 個人的な安全と都市の安全保障のレベルを引き上げるため、 コミュニティと社会的な幸福のセンスを再構築することに努めなければならない。
 
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