こういう風にアジアの視点で見ていくと、 アジアの都市の多くは現実には旧アテネ憲章の考え方に沿って動いているように思われます。 これはいったいどういうことを意味しているのか。 アジアの都市が今ちょうど発展段階にあるとしますと、 アジアの都市は旧アテネ憲章がいまだにリアリティを持ちうる状況にあると言えるように思います。
2。 アジアの都市という視点からのコメント
1 全ての人びとのための都市
新アテネ憲章では基本的なスタンスとして、 社会的弱者や民族的マイノリティを取り込んでいかなければならないというニュアンスが強いと思います。 しかし、 旧アテネ憲章や今のアジアの多くの国々では、 一部の富裕層と大部分の貧困層という図式で人びとをとらえています。 ですから、 アテネ憲章の概念の方が、 アジアの都市ではまだリアリティを持っているように感じました。
2 真の住民参加
新アテネ憲章で多く触れられていますが、 特に分権による参加の促進が強調されています。 しかし、 今のアジアの都市の多くは中央・地方を問わず民主化が問題となっており、 同時にまだ専門家による啓蒙という側面が強いと思われます。 そういう意味では、 旧アテネ憲章の方に対応していると言えます。
3 人間同士のふれあい
新アテネ憲章では、 コミュニティの再建によって孤独や受動性、 無関心を克服していくことが都市計画のひとつの目標としています。 しかし、 アジアの都市ではまだ伝統的なコミュニティが残存しており、 まだ大きな問題とは認識されていません。 ひょっとすると、 旧アテネ憲章でそうしたことに触れてないのは、 その時代のヨーロッパでもまだ伝統的なコミュニティが健在だったからかもしれません。
4 特質の継続
新アテネ憲章では伝統の継承とアイデンティティの確立が言われていますが、 アジアの都市では中国の例でも分かるように近代化が優先されています。 これはやはり、 旧アテネ憲章がアジアの都市で有効であるポイントのひとつではないでしょうか。
5 新しい技術からの利益
先ほども言いましたように、 新しい技術とは新アテネ憲章では「情報技術」がウエートを占めています。 現代のアジアの都市では、 この情報技術と機械技術の両方が同時並行的に社会を大きく変える要因として入ってきていると思います。
6 環境的側面
これも新アテネ憲章(ヨーロッパ)とアジアの都市では対照的です。 新アテネ憲章ではサステイナブルという言葉に象徴されるように、 現存する環境を持続させていくことが主要な課題になっているのに対し、 アジアの都市では現存する環境からの脱却が考えられています。 旧アテネ憲章も「現在の環境からの脱却」という意識が支配的だという面があります。
7 経済的活動
新アテネ憲章では、 都市計画の目標のひとつとして雇用の確保や経済基盤の強化があげられています。 しかし、 言い過ぎかもしれませんが、 アジアの都市では経済は都市計画の外部的条件としてとらえられているように感じます。
8 移動とアクセス
新アテネ憲章では、 土地利用と輸送計画の連携によって移動ニーズを抑制し、 マイカー依存も抑制しようということが強調されていました。 しかし、 今アジアの都市では、 ニーズを抑制するよりは輸送手段を近代化することで経済活動を活発化させようとしています。 これは、 まさに旧アテネ憲章の概念に沿った動きだと思います。
9 多様性と相違性
新アテネ憲章では、 過度のゾーニングへの反省について言及し、 混合土地利用や複合開発の推進を強調しています。 一方、 アジアの都市の場合は、 ゾーニング制度がまだ確立していないという状況にあり、 混合土地利用自体も健在です。 こういう状況は、 旧アテネ憲章が「混合土地利用をどうなくすか」と強調した当時のヨーロッパにもあったのだろうと推測します。
10 健康と安全
新アテネ憲章では、 地域紛争、 自然災害、 都市犯罪、 環境汚染が課題になっています。 しかし、 アジアの都市を見ると保健衛生がまだ大きな課題であり、 旧アテネ憲章の世界と共通している部分だと思います。
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