このように世界各国で、 一時期におなじ技術的要素で作られた工業地域が、 現在、 同じような時期に入って、 再生が必要となってきています。
しかし、 再生事業に取り組む場合、 世界共通の方法はありません。 文化的要素や社会的諸条件を充分に考慮して進めていかなければなりません。 世界に先駆けて旧工業地域の再生に取り組み、 ある程度の成果をあげているドイツのIBAエムシャーパークでの様々な工夫から、 その点を読み取っていただきたいと思います。エムシャー地域になぜイベントが必要だったか
旧工業地帯の再生事業―世界の共通性と独自性
日本とドイツは経済発展や都市化について、 特に近代よく似た発展をしてきました。 産業革命による工業化で生れた初期の工業地帯は、 汚染された産業跡地の放置とか高い失業率などの問題を抱えています。 これはわが国では北九州の炭鉱地帯に代表される問題であり、 世界共通の問題です。
IBAエムシャーパークの位置図 |
IBA エムシャーパーク全域図 |
対象地域は長さ40km、 幅7km、 面積およそ800平方キロメートルというとてつもなく広い地域です。 人口は約200万人、 指定区域には17の地方自治体が含まれています。 その自治体のなかにはドゥィスブルクとかドルトムント、 エッセン、 ボッフムといった大きな都市がはいっています。
全盛期のルール工業地帯 |
また、 このルール地方北部では、 炭鉱や製鉄所を中心として町や都市が形成されていますので、 炭鉱や製鉄所が休業してしまった現在、 地域の中心までもなくなってしまいました。 町はセンターを失い、 人々は心のよりどころを失ってしまったのです。
以上の経済的要因とならんで、 もう1つ重要ことは、 この地方の政治的な要因です。
ルール地方は炭鉱労働のための地域として位置付けられていましたが、 知識は労働運動につながるとして、 この地域には高度な文化や教育施設の設置が行なわれない政策が意識的にとられてきました。 ボッフム、 ドルトムンドに大学が設置されたのはやっと1960年代に入ってからで、 それもルール地方南部に限られていたのです。
ただ誤解のないように申し上げますと、 日本のように津々浦々に無数の大学があるわけではありません。 全ドイツで数十です。
エムシャー地域では、 過去20年から30年の間に人口が約15%減少しました。 また失業率は平均12%、 また長期失業者の割合も高く、 東西統一以前のドイツで最悪です。
ここには、 これまで黙認されていた土壌や水質汚染、 放棄された工場跡地といった「マイナスの遺産」が山積みとなっていました。 しかしその反面、 道路や軌道など優れたインフラストラクチャーや安価で広大な敷地、 高度な技術者が多数いることなど、 欧州の中心的位置と合わせて発展のポテンシャルは決して少なくない地域です。
ここに今回、 国際建設展覧会というお祭りを持ってきて経済の活性化を図ろうというのが、 IBAプロジェクトです。