今日は、 この国際建設展覧会IBAエムシャーパークの、 ドイツ的でユニークな部分に焦点をあてて話を進めたいと思います。
何故ないか。
まず日本では必ずあるマスタープランのないことですが、 ますます変動の早くなる社会のなかで、 近年、 都市計画の完成と同時にマスタープランの手直しが必要であったり、 完成する前に、 もうそのコンセプトの見直しが行なわれたりすることを私達は体験しています。 そのためここでは、 不確定な将来を固定した完成図ではなく、 プランに流動性あるガイドライン方式(後述)がとられたのです。
完成予定図がなければ予算が立ちませんから、 事業費はゼロです。
また、 特別法や地方自治体の参加の義務をつくらなかったのは、 従来のしかたで充分、 なくとも出来るという考え方です。 なければそれにこしたことはないという発想でしょう。
なお有限会社は日本での株式会社と同様にドイツではごく当たり前の会社のあり方です。 資本金50万マルク(約3500万円)、 運営資金として4000万マルク(約28億円)ですが、 すべて州の全額出資となっています。
IBAエムシャーパーク社は、 わが国の第3セクターのようなプロジェクト主体ではありません。 事業の実施は市町村とか民間の建設会社とかデベロッパーです。
IBAエムシャーパーク社はプロジェクト実現のための調整役です。 IBAエムシャーパークの趣旨に適ったプロジェクトを掘り起こし、 建設展に採用するかどうかを評価します。 またコンペを主催して案を公募し、 完成したものは公表して世間の関心を高め、 国の内外の知識の交流をはかります。 IBAエムシャーパーク社は地域全体の発展プロセスの調整役であり、 地域の力がつくまでの指南役なのです。
州がIBAエムシャーパークの事業にあたってこのような外郭団体を作った理由は、 1つには特別事業のためにさらに人を雇って、 役人を増やしたくないこと、 もう1つは、 民間会社で小さくまとまった組織は小回りがきく、 早い決定が可能であること、 また、 民活が重んじられる今日、 こういった民間形式のほうが都合がよいこと、 などの理由です。
展覧会事業をしていくガイドラインとして次の7つの方針テーマがつくられました。
IBAエムシャーパーク社は、 この目的に合致するプロジェクトを官民の事業のなかから掘り起こし、 IBAプロジェクトとして事業化していくわけですが、 様々なプロジェクトを、 相乗効果を考慮しながら結束させる必要があります。 そのためIBAプロジェクトへの採用には次ぎの大原則があります。
まず第一に、 IBAエムシャーパーク社は州の機関ですから、 州のプロジェクトをIBAプロジェクトとして取り上げることができます。 たとえば新しい研究所の設置とか緑地整備など、 州の行なう公共事業をIBA事業として展覧会区域内にもってくることができます。
また一方、 地方自治体には義務はないのですが参加するとメリットがあります。 IBAプロジェクトに採用されれば、 他のプロジェクトに優先して州の助成金が受けられます。 たとえば州の都市再開発とか社会住宅建設の枠は決まっていますが、 IBAプロジェクトではそれを少し優先的にまわして貰えることを期待できるわけです。 また、 州のプロジェクトなら、 長期の計画が可能となります。 さらにIBAエムシャー社が事業の認可手続きとか各種の助成金、 たとえばヨーロッパユニオン助成金といった考えてもみなかった補助金をアドバイスしてくれます。 これらは大きな魅力です。
さらに民間事業で特に重要なことですが、 IBAプロジェクトに指名されることは社会的信用が高まり、 宣伝効果が上がることになります。 IBAプロジェクトには道路沿いに看板がたてられ、 新聞やIBAエムシャーパーク社によって広報され、 話題になり、 会社の誇りとなるのです。
このようにIBAエムシャーパークでは、 定められたマスタープランに従って事業を進めていくのではなく、 州政府による構造政策に地元のさまざまな自主プロジェクトを組み合わせていく方法がとられています。
ないないづくめの展覧会準備
ないないづくしの運営方針
国際展覧会をはじめるにあたって、 完成予定図(マスタープラン)がなく、 事業費もゼロ。 また官が事業を行なう場合、 特別法をつくるとか、 関係諸機関に参加義務を負わせることができるのですが、 ここではその特別法もなく、 展覧会会場区域に指定された地区の17地方自治体には参加の義務もありません。
金がなければ頭を使おう
展覧会の開催主体はノルトライン・ウェストファーレン州です。 州はIBAという大事業の遂行のために、 1つの頭脳集団を設立しました。 IBAエムシャーパーク社です。 これは州の外郭団体で有限会社(IBA Emscherpark GmbH)の形式をとり、 展覧会の期限10年間にかぎって存在させることとしました。 運営費は州が負担し、 州からの役人2人が社長と副社長を担当し、 その他の33人の作業員は期限付きで雇用されています。
完成図にかわるガイドラインの設定
頭脳集団が第一に行なったことは、 展覧会の目標作りです。 ここでつくられたのは、 完成図ではなく、 将来の方針、 理念を示すガイドラインでした。
1)エムシャー・ラントシャフトパーク(エムシャー地域の緑地景観づくり)
このように方針テーマは地域的なまとまりではなく、 プロジェクトの性格ごとにまとめられています。 すなわちIBAエムシャーパークの目的は、 展覧会場に指定された地域内の緑地と水系の保存と回復、 雇用の拡大、 住環境の整備、 産業遺産の保存です。 「社会・文化活動の場の提供」には文化といった掴み所がないものを都市計画の中に取り込んでいこうという意気込みが感じられます。
2)エムシャー水系システムの改善(水質改善)
3)体験・学習の場としての運河(住民に親しんでもらう)
4)歴史の証人としての産業文化財(旧工業地帯の歴史的遺産を生かす)
5)緑の中の職場(よい環境の職場にはよい労働者が集まる)
6)住宅建設と地域開発
7)社会・文化活動の場の提供
1)斬新なアイデア、 枠にとらわれない考え方をとりあげ援助する。 この地域には頭でっかちな石炭や鉄鋼産業があり、 小回りがきかない、 この体制を変える必要があるからです。
これでみられるように、 この展覧会ははじめから何を作るかが決まっているのではなく、 地域改善に必要な事項を決めておいて、 それに合う事業を「展覧会事業」として援助しながら作っていく方針です。 そして、 そのプロジェクトにはレベルの高さが要求されています。
2)どのプロジェクトも環境を考慮しただけではなく、 環境に関する全ての観点の総合点が自然生態にプラスになるようなものでなければならない。
3)どのプロジェクトも文化・美観の価値をもたねばならない。 機能的で経済性が高いのは当然であるが、 それに加えて文化、 芸術の価値がなければ住民からの支持は得られない。 住民からの支持が得られないプロジェクトは実行不可能である。
IBAエムシャーパーク社のプロジェクト対応方法
7つの方針テーマと5つの原則に合致する、 として取り上げられたプロジェクトは、
1)まず、 民間公共を問わずIBAエムシャーパーク社と契約が結ばれ、 IBAプロジェクトとして事業目標が明確にされると同時に、 計画意図が正しく実現されるかどうかが監視されます。
2)IBAエムシャーパーク社は各プロジェクトについて、 コンセプトの設定、 助成金のアドバイス、 設計コンペや事業実施の指導をします。 ここでは助成金のアドバイスが特に重要です。
3)実施設計案や都市計画構想は設計競技(コンペ)で募集します。 国内ばかりでなく国外にもよびかけますので、 ここから国際建設展覧会の呼称がついています。
4)前例のない問題にぶつかった場合、 専門家セミナーを開催したり委託研究を行なったりします。 これらもすべて公開されていることに大きな意味があります。
5)あるいは国の内外の専門家や参考人を招き、 ワークショップを開催します。 これらは公開で行なわれるので地域住民の関心を喚起することにも繋がります。
予算ゼロでどうして事業を行なうか
IBAエムシャーパーク社は「予算ゼロで権力も強制もなく、 展覧会の開催準備にあたる」と申しましたが、 実際には少しの優先権があり事業の見通しもあります。
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