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都市づくりの健康優良児:クリチバ

地域計画建築研究所大阪事務所 堀口浩司

 日本では中南米の計画的な都市としてはブラジリアが有名ですが、 アメリカではクリチバが計画的な都市づくりの先進地として紹介されているようです。 これまで日本では主として欧州型の都市計画をキャッチアップすることが多かったため、 今回ブラジルを訪問して、 その新世界的な都市計画の発想がとても新鮮でした。

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 クリチバ市は、 サンパウロ州の南、 パラナ州(日本の4分の3の広さ)の州都、 面積は420km²、 人口146万人(36万世帯)の大都市です。 近代都市計画に基づいて建設された環境都市として有名で、 市内には一方通行の道路が何kmにもわたって整備され、 チューブ状のバス停とともに、 3両連結のバスを中心としたバス網の充実もクリチバの特徴です。

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バス駅
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バス駅
 クリチバ市の名前の由来はインディオの言葉で「たくさんの実を意味する"core etuba"、 あるいは「Let's go」の意味の"curitim"などの説があるそうです。 17世紀前半にはインディオだけが住む地域であったのが、 その後黄金を目当てにポルトガル人が入り、 さらにイギリス、 ドイツ、 ポーランド、 イタリア、 そして日本などから入植が始まりました。 戦後は、 1970年代の始めに自ら都市計画家でもあるジャーミ・レナー氏(現在パラナ州知事)が市長になり、 12年間の任期の間、 次々と斬新な都市政策を実践し、 クリチバ市はブラジルだけでなく、 世界でも最も都市計画が成功した都市の一つとして知られています。

 最近では、 福祉や環境教育など社会的なプログラムにも重点が置かれ、 子供や貧困層がリサイクル可能な資源を集めてノートや食料と交換する「Green Exchange Program(1989)」などが有名です。 都市政策の中で環境問題を重視しており、 福祉、 教育、 環境教育、 産業政策などの社会的なプログラムと交通計画、 土地利用、 廃棄物処理、 公園・緑化などを総合化した政策を打ち出しています。

 クリチバ市の都市計画を考えると、 1950年代から人口増加が始まっていますが、 1960年代後半から近代化・工業化とともに人口が増加し、 本格的な都市化プロセスに入ります。 第3世界においては工業化なき都市化が比較的多いのですが、 ここは高原で冷涼な乾燥地帯なため、 比較的すごしやすい地域とあって、 1973年には工場団地を開発し企業誘致を始めています。

 パラナ州にはアウディ、 フォルクスワーゲン、 ルノー、 クライスラー、 BMWなどの自動車産業が立地しており、 クリチバにもフルカワやデンソーなどが立地しています。 クリチバ市では教育や安全性、 快適性が企業活動にとっても重要なインフラであると強調しています。

 このように都市計画の優等生のような町ですが、 その背景にはいくつか特異点があるように思います。

(1)在来市街地のしがらみが薄い

 旧市街の放射状の街区構成を中心に、 1965年のマスタープランから再生都市づくりを始めています。 旧市街地も300年程度の歴史があり、 植民地時代の街区形成ですから、 これを変えるのは難しいのですが、 大部分は戦後の都市拡張に対応したものです。

(2)第2次世界大戦後の都市計画

 ブラジリアは政治の中心として、 大規模な都市開発が進められていますが、 先輩として、 あるいは反面教師として、 その反省とともに計画されています。 ご存じのようにブラジリアはル・コルビュジェの弟子であるルシオ・コスタがマスタープランを作成しました。 チャンディガールと共にコルビュジェの思想を忠実に空間化しようとした壮大な実験です。 その一方、 クリチバはもう少し後の時代になって、 J。 ジェイコブズなどの思想を反映し、 モータリゼーションや公害問題の反省など今日的な問題を解決すべき都市計画を先取りしています。

(3)合意形成は苦手である

 市民参加や合意形成といった言葉には関心が薄いようです。 地縁・血縁のしがらみは薄いし、 都市政策を強引に実施しないと、 目覚ましい効果は期待しにくいのでしょうか。 どちらかといえば「結果オーライ」の発想です。 拘るべき風習や社会的コモンセンスが乏しく、 嫌なら転地すればよい、 まさに新世界的といったところです。

(4)政治的な継続性

 都市計画家が市長になり、 さらにその後、 敵対する政党が政権を握っても、 都市計画研究所(IPPUC)が残ったことで、 都市政策が継承されたことは大きな意味を持っています。 都市計画には政治的な側面が強く反映されるため、 政治環境の変化に追随できたことが一貫した都市計画を実現しうる大きな要因だと思います。


印象的なプロジェクト

クリチバの都市政策全体を印象づけるようなプロジェクトを紹介します。

RUA DA CIDADANIA(市民権通り)

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市民権広場
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市民権広場
 通り(Rua)ではなく、 市役所の派出所・コミュニティセンターです。 公共サービスだけではなく、 店舗、 銀行、 郵便局、 図書館、 福祉事務所、 劇場、 体育館・バスケットボールコートなど、 コミュニティの核となる機能を集めた施設です。 この施設は、 公共交通機関(バス)のターミナルに隣接してつくられ、 人々が活用しやすいように配慮がなされています。

 外周部の8つの核(地域生活核)にそれぞれこの「通り」がつくられ、 これにより中心市街地への不必要な移動をしなくてもよくなるとしています。 一施設当たりの利用者はおよそ20万人を想定しています。 この中には、 "Armazon da familia"という低所得者向けマーケットも付属しています。 所得が一定額に満たない人を対象に、 月3回を上限に、 格安で購入できる食料品マーケットです(市場価格の約30%引きだそうです)。

環境自由大学

 大学(univercite)と名付けていますが、 市民と専門家向けの環境教育講座というところでしょうか。 講座は1日から最長でも5日で、 市民向けや専門家養成などさまざまなカリキュラムで環境教育を行っています。 ちなみに講座は最大20人程度だそうです。

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環境自由大学
 このようなユニークな施策には、 人を引きつけるようなネーミングも一役かっているとおもいます。 我々日本人は「名は体を表す」と、 大それたネーミングをとかく恥ずかしがる傾向もありますが、 志は大きく、 大胆なキャッチコピーにも感じるところがありました。

 

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