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ブラジルでみた興味ある住宅地開発
−ファベーラ・インバゾン・ロッテアメント−

兵庫県まちづくり部都市計画課 難波 健

 震災後、 兵庫県で密集市街地対策の担当をしていてファベーラということばは、 ブラジルの密集市街地として聞いていた。 ポルトガル語の「スラム」で、 サンパウロとかリオの大都市の土地を不法占拠して、 地方から出てきた貧しい住民が都市生活をはじめる都市内集落とでもいうのだろうか。 日本の昭和30年代に川の端などによく見かけたバラックの住宅地のようなものを想像していた。

 サンパウロでガイドさんに頼んで連れていってもらったファベーラは、 空港の近くの幹線道路脇であった。 また、 リオの空港から街に行く高速道路から見たものは、 山全体が細かい住宅で埋まっているといったもので、 いずれもだいたい想像どおりのものであった。

 今回、 ブラジルを旅行してインバゾンとロッテアメントという2つの住宅地の開発形態を見ることができた。

 インバゾンは、 ロンドリーナのエクスカーションで案内してもらったのだが、 これはプロのスラム開発者がいて、 主にファベーラの居住者(センテーラ:ポルトガル語で土地のない人々といった意味のようである)を組織し、 ある日、 大挙して目をつけておいた土地に集団移動する。 数時間の間にベニヤ板とか廃材でファベーラ式の小屋を造ってしまい、 市がこれに気づき、 撤去命令を出すと、 スラム開発者が住民代表として市の住宅政策の不備を訴え、 占拠した地区の合法的な住宅地としての認証を求める。

 ファベーラと異なる点は、 この不法占拠は占拠した土地を新規開発住宅地として売却することに目的があるので、 最初の占拠の段階から宅地割りが整然とされている点にある。 当局との交渉が長引く間に、 電気が引かれ、 水道が引かれ、 さらに植栽も施され、 建物以外の区画割りなどは立派な住宅地の様態を整えていく。

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ロンドリーナ郊外のインバゾン
 私たちが案内してもらったインバゾンは、 面積約2.4haに747所帯、 約3,000人が居住し、 各戸への水道はまだ来ていないが、 電気はすでに引かれていた。

 道路の舗装はされていないから宅地との境界は明確ではないが、 道路のような空間を挟んで隣棟間隔は非常にゆったりとしており、 植樹もはじめられていた。 生活施設としては、 ちょっとした食品店とかカフェにBARもあった。 近くにバス停があるが、 まちまで毎日通う労働者はいなく、 一時労働者(セスタバージカ)がほとんどで、 土地が合法的になった時点で住み続ける人は現居住者の2割に満たないということであった。

 インバゾンが不法開発であるのに対し、 ロッテアメントは当局の許可に基づく開発で、 ブラジルの郊外地開発のプロトタイプと言えるのであろう。

 ロンドリーナで私たちが訪れたロッテアメントの現地販売事務所は、 道ばたのバラックではあったが、 常駐らしい販売員がいてパンフレットとか造成図面も置いてあり、 それなりの体裁を整えていたが、 話の具合では最終的な開発許可はまだ下りておらず、 いわば青田売りをしているようであった。

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コーヒー園の跡地をロッテアメントとして造成分譲中
 元コーヒー農園であった土地を端から順番に宅地として販売しているということで、 長方形の平坦な土地に短冊状に一区画250m²(12.5m×20m)の整然とした宅地355区画が販売されており、 代金は200レアル/月の60回払い、 総額12,000レアル、 日本円で90万円弱というところである。 当然、 道路や上水、 下水も現在、 工事中であるとのことであった。

 もう一つ、 ブラジル第3の都市ベロホリゾンテとオーロプレットとの中間地点で通りがかりに立ち寄ったアルファビラ(Alphaville)というロッテアメントは、 レークサイドの住宅地全体に高さ2mぐらいの塀を巡らせた、 東急あすみが丘のハンドレットヒルズといった風情の宅地開発で、 まだ住宅は1軒も建っていないが宅地は完売していると、 販売事務所の管理人と思われる人が話てくれた。 この事務所は最近の日本の霊園にあるような明るくすっきりした建築で、 折しも購入者とおぼしき夫婦が赤い乗用車で自分の買った土地を確認するように散歩していた。

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現在のアルファビラ
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アルファビラ計画図
 当初40,000〜50,000レアル(300万〜370万円)で販売された宅地が現在市場価格で130,000レアル(960万円)になっているという。 ベロホリゾンテからは車で20分ぐらいはかかるだろうか、 交通機関は何もないところだが、 学校に通うのも車で送り迎えするから不便はなく、 要するに治安の良い環境の優れた郊外の高級住宅街を目指す開発、 さしずめ芦屋の奥池といったところなのであろう。

 震災後、 全国的に密集市街地整備が急務といわれ、 いろんな研究会に参加して震災や復興の話をしたが、 密集市街地整備では、 莫大な時間と金がかかり、 今の事業が完了するころには次の不良住宅群が発生し、 密集市街地整備はへたをするとエンドレスという話になってしまう。

 エンドレスに終止符を打つには、 かねてから現代都市の形成に果たした密集市街地の役割をみつけ、 それをどう活かすかを考えた方が建設的だと思っている。 今やっている住宅開発が不良資産にならないようにするとともに、 スクラップアンドビルドから密集市街地のストック化への転換を図る考え方を探ってみるのだが、 なかなかいい答えは出てこない。

 ブラジルのサッカー選手はファベーラ中で育つという。 あのエネルギーを創り出すファベーラは、 完全ではないが人間が住むのにいいまち、 という評価ができるならば、 これまでとは違った尺度で新しく都市を考える重要な手掛かりが生まれるかもしれない。

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