住宅時事往来NO.8
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留学生の住宅事情

 “21世紀初頭にはフランス並みに留学生を10万人受入れる”。

この目標の下、 1983年に「留学生受け入れ10万人計画」がスタートしてから既に13年が経過した。

当時から比べると、 留学生数は5倍以上に増加している。

日本政府が積極的に来日を支援し計画的に受け入れてきた「留学生」だが、 その住宅確保にはどのような配慮がなされてきたのだろうか。

彼らは現在どのような住宅事情を抱えているのだろうか。

   

留学生受け入れの現状

 「21世紀への留学生政策に関する提言」(1983年)、 「21世紀への留学生政策の展開について」(1984年)の2つの有識者からの提言を踏まえ、 文部省では2000年を目標として「留学生10万人受入れ計画」を推進し、 教育・研究環境や生活条件の充実を図ってきた。

この計画は、1983年当時約1万人であった留学生を、 前期期間の終了する8年後の1992年までに4万人、 さらに8年後の2000年までには10万人に増やそうというものである。

1992年の留学生数は、 実際には計画を上回る48,561人に達した。

   

 しかし、 1995年5月1日の留学生数は53,847人、 前年に比べてわずか60人増と対前年伸率が1980年以来最低の 0.1%に留まるなど、 ここ数年は増加傾向が鈍り「2000年に10万人」の計画達成を危ぶむ声が聞かれている。

   

図1 留学生受け入れの進展状況

 留学生は、 アジア出身者が9割以上を占める。

国籍別には多い順に中国24,026人、 韓国12,644人、 台湾 5,180人であり、 これらの合計は全留学生の77.8%に上る。

在学段階別にみると、 大学43,611人(学部24,966人、 大学院18,645人)、 高等専門学校 511人、 専修学校 9,725人。

   

 また、 日本政府から奨学金を受ける国費留学生は7,371人(13.7%)、 外国政府派遣留学生は1,231 人( 2.3%)であり、 残りの45,245人(84.0%)が私費留学生である。

国費留学生は着実に増加を続けているが、 私費留学生は前年に比べ 332人の減少となっており、 1990年前後の増加を支えていた私費留学生が、 円高や不況など経済状況を反映して減少傾向をみせ始めている。

   

留学生4人のうち3人は民間賃貸住宅に住む

 留学生はどのような住宅に住んでいるのだろうか。

   

 「留学生10万人受入れ計画」では、 留学生の住まいについて、 留学生宿舎や学生寮の建設を進め、 これらの公的住宅で留学生全体の40%の収容をめざす、 とした。

これを受けて、 文部省では国立大学の留学生寮の建設や公益法人・民間等の留学生寮の建設を支援する各種制度を実施している。

しかし、 留学生寮等の整備がなかなか留学生数の増加に追いつかず、 1994年5月1日現在、 大学や公益法人等の留学生宿舎・学生寮に住む留学生は24.2%に留まり、 残りの75.8%は民間の賃貸アパート・マンションに居住している。

「留学生10万人受け入れ計画」前期期間の終了に伴い報告された「21世紀を展望した留学生交流の総合的推進について」(1992年)では、 この点について、 留学生宿舎・寮で40%という整備目標の達成に向けて最大限の努力を払うとしながらも、 現状を踏まえ、 良質な民間アパート等での受け入れが進むよういくつかの方策を提言するなど、 民間アパート等での受け入れ推進施策の必要性を以前に増して唱えている。

   

留学生への住宅対策

 留学生の住宅確保についての具体的な対応をみてみよう。

一つは、 「留学生の40%の収容をめざす」とした留学生宿舎の整備がある。

1994年5月1日時点では、 大学が設置する留学生宿舎に住む留学生は11.3%を占め、 一般学生寮も含めると15.5%が大学の寮に居住している。

財日本国際教育協会や財内外学生センター、 財国際学友会など、 公益法人による宿舎は 3.8%、 また地方公共団体でも財日本国際教育協会の助成事業として留学生宿舎の建設が行われている。

公共住宅については、 建設省の指導により、 公団賃貸住宅では外国人登録を行っていれば入居資格を認め、 公営住宅でも入居を認める自治体が増えてきており、 公共住宅に住む留学生は 2.1%となっている。

1994年に福岡県内の留学生を対象として行われた調査(*1)では、 公営住宅に住む留学生は回答者全体の約1割に上り、 家賃が安く人気が高い。

しかし、 公営住宅では同居親族が必要であること(*2)、 公団住宅では収入が基準月額以上必要であること、 そしてどちらも応募し抽選待ちであることなど、 入居に制約がある。

これらの他には、 経済同友会の提唱により、 1988年から留学生の民間企業社員寮での受け入れも行われている。

   

 もう一つは、 留学生の民間アパート等での受入れ推進方策であり、 内外学生センターによるいくつかの施策があげられる。

「指定宿舎事業」は、 内外学生センターが家主と指定宿舎契約を結んで私費留学生に提供するもので、 家主には協力金が支払われ、 また改修費用の助成を受けることもできる。

「貸間物件確保促進事業」は、 内外学生センターが不動産業者と提携し、 物件情報の提供を受けるものである。

さらに1994年度から「留学生民間宿舎保証人支援事業」が始まった。

これは、 保証人を引き受ける人の不安を軽減するため、 留学生に住宅総合保険・借家人賠償責任担保特約に加入してもらい、 事故が起こった時の金銭面をある程度カバーできるようにしようという制度である。

   

 また、 この他には、 1994年度に建設省により創設された「特定目的借上公共賃貸住宅制度」がある。

これは、 民間地主等が建設する良質な賃貸住宅を地方公共団体や地方住宅供給公社等が借り上げて家賃補助により適正な家賃で提供するもので、 住宅に困窮する高齢者や障害者等と共に、 留学生も制度の対象となっている。

   

東京の私費留学生に特に厳しい住宅事情

 しかし、 留学生の3/4 が民間の賃貸アパート・マンションに住む現状の中、 特に東京在住の私費留学生にとって住宅事情は厳しい。

まず家賃や入居時の敷金・礼金・仲介料の負担の問題がある。

国費留学生は、 授業料免除に加え、 奨学金として日本政府から毎月学部で141,500円、 大学院で184,500 円が支給されるなど、 生活費の心配をせずに勉学に励むことができるよう配慮されている(支給額は1995年度)。

私費留学生を対象とした授業料減免制度や奨学金制度もあるものの、 1993年の調査(*3)によれば奨学金を受けている私費留学生は6割弱であり、その平均月額は約7万円と国費留学生との差が大きい。

しかも、 留学生の約4割は東京都内の大学に在籍する。

アジア諸国を中心とした留学生にとって、 所得格差の大きい日本での生活、 特に東京など大都市での住居費は大きな負担となる。

東京の私費留学生の平均住居費は月額約4万4千円、 関東圏以外の地域ではほぼ2万円台に留まっているのに比べて突出している(*3)。

   

 では、 住宅の質はどうだろうか。

東京都の1991年の調査(*4)によれば、 東京在住の留学生の住宅に関する不満の第1位が「狭さ」。

また、 「家賃」に次いで「設備」の不満も強く、 実際に留学生の住む住宅の設備(浴室・台所・便所)は、 民営借家全体の設備状況に比べて共用(またはなし)の割合が高く、 設備水準が低い。

またこれらの問題に加えて、 民間賃貸アパート・マンションでは家主や不動産業者から入居を拒否されることが少なくない。

1991年の調査によれば、 国費留学生の5割、 私費留学生の6割以上が住宅探しで困ったことがあったと回答し、 その内容は「外国人だから断られることが多かった」が全体の3/4 を占めている(*4)。

その後の日本の経済事情の変化に伴い、 入居拒否は以前に比べると少なくなってきたものの、 1994年の内外学生センターの不動産業者・家主調査(*5)にみられるように、 入居差別は依然としてなくなっていない。

(文責:塩路安紀子)

   

  1. 「福岡県における外国人留学生の生活実態調査」福岡県留学生生活実態調査実行委員会(1994.3)
  2. 留学生の入居条件を緩和している自治体もある。
  3. 「私費外国人留学生生活実態調査」財日本国際教育協会(1993年度)
  4. 「留学生・就学生の生活に関する実態調査報告書」東京都生活文化局(1991年度)
  5. 「外国人留学生の民間宿舎事情に関する調査」財内外学生センター(1995.3)

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