既存のアンケート調査等では、 多くの留学生が「民間アパート等を探す時に、 不動産業者に斡旋を断られたり家主に拒否され入居差別を受けた」と訴えている。この調査は、 東京都特別区内の不動産業者・家主を対象とし、 不動産業者は宅建取引業協会名簿から、 家主は主に内外学生センター登録リストから抽出した。不動産業者や家主は、 留学生に住宅を貸すことをどのように考えているのだろうか。
拒否している人たちは、 留学生の何を問題としているのだろうか。
1994年に内外学生センターが実施した不動産業者・家主へのアンケート調査では、 これまであまり定量的に把握されていなかった彼らの留学生受入れに関する実態や意識、 留学生を受け入れる上での課題等が明らかになった。
ここでは、 その主な内容を報告する(*)。
回答業者は、 主に近隣〜沿線地域のワンルーム〜1DK程度の物件を扱う業者を中心となっている。
また回答家主は、 2階建アパートが2/3 を占め、 また総戸数は10戸未満が約6割など、 小規模経営者が中心である。
調査時期 | 配付票数 | 有効回収 | 回収率 | |
不動産業者 | 1994.8 | 1,000票 | 139票 | 13.9% |
家 主 | 1994.11 | 1,012票 | 191票 | 18.9% |
回答では、 外国人への住宅斡旋を全く拒否している業者は約1割、 外国人の“タイプ”(留学生、 就学生、 働いている人等の分類)により条件付きで斡旋する業者は約6割、 “タイプ”にはこだわらず斡旋するという業者は2割弱であった。
ところで、 斡旋する外国人のタイプを限定している業者の中で、 他の外国人に比べると「留学生」は比較的斡旋を受けやすい。
但し、 留学生の種別によってやや対応が異なり、 国費留学生あるいは大学の留学生に比べて、 私費留学生や専門学校の留学生は斡旋を受けにくい状況にある(図1)。
まず保証人の条件が重視される
次に、 留学生への斡旋経験を持つ業者92社の回答から、実際の留学生への住宅斡旋の状況を見てみよう(図2)。
留学生に斡旋する場合の条件や判断基準は、 何といってもまず“保証人の条件”。
保証人の条件とは具体的に、「日本人」「本人との関係が明確なこと」「職業・地位など信頼できる人」「印鑑証明書を提出」「収入証明を提出」「連絡先がはっきりしている」など。
また、 入居契約時にはほとんどの業者が保証人の印鑑証明を提出させると回答しており、 保証人の身元がいかに重視されているかが窺える。
保証人の条件以外には、 日本語能力や本人の人柄、 家賃負担力の指摘が多い。
また「出身国・出身地」も約2割と、 本人の資質に関わらず国籍等で判断されるケースも少なくないことがわかる。
その内容は、 友人との同居問題や夜間の騒音、他人への又貸し、 ゴミの出し方の問題など。 こうした経験を踏まえてか、 留学生の入居の際には、 予想されるトラブルを避けるための指導を行っている業者が多い。
ところで、 留学生に斡旋しやすい物件の条件として、 多くの業者が「自社管理物件」をあげている(図3)。 つまり自社で管理も請け負っている住宅ならば、 業者の裁量の中で留学生に斡旋し、 仮にトラブルがあっても対処していけるというのである。 しかし、 家主が自分で日常管理を行っている物件では、 家主が入居後のトラブルを恐れて留学生を敬遠することも多い。 また業者側も留学生を斡旋し、 もしトラブルが発生すると家主との信頼関係を失いかねないことから、 家主を説得してまでなかなか斡旋に踏み切れない。
斡旋が進まない原因として、 業者はまず家主の理解や保証人の問題を指摘している。 また、 物件説明の手間や入居後のトラブルの心配など、 不動産業者としての対応の大変さに関する指摘も多い(図4)。
今後留学生へ住宅を斡旋するつもりはない、 という業者は33社、 全体の約1/4 に上る。 その理由は、 まず「留学生に見合う物件がない」。 これは、 家主の拒否や留学生の希望に合わない等の内容と考えられる。 次いで、 日本人の方が心配がない、 物件や契約の説明に手間がかかるなど、 対応の手間等を理由とする業者も多い(図5)。
まず、 留学生を入居させた経験のある家主 110人の集計結果をもとに、 留学生の民間賃貸住宅への入居実態を見てみよう。
住宅は木賃アパートが2/3 、 鉄筋コンクリート造・鉄骨造マンションが2割で、 小規模な住宅が多い。 また、 便所共用など設備水準の低いものが4割弱を占める。
また、 調査対象抽出の経緯から、内外学生センターの紹介・大学等の紹介も多い。
留学生の入居条件・判断基準としては、 本人の人柄や、家賃負担力、 保証人の条件、 日本語能力など(図6)。 不動産業者に比べると、 家主は本人の人柄をかなり重視しているという特徴がある。
留学生の入居経験のある家主の中で、 「トラブルがあった」と回答しているのは31人(約3割)、 トラブルの内容は、 友人等との同居問題、 夜間の騒音の問題、 他入居者からの苦情等の近隣関係、 家賃滞納や未払い、 住まい方の問題など。 トラブルのあった31人にその解決方法を尋ねたところ、 「自分で直接注意」が約7割と、 多くは家主自ら対処していることがわかる。
これに「留学生を特に区別しない」「一般外国人は困るが留学生なら可」を含めると、 留学生を前向きに受け入れる意向の家主は全体の56.5%と5割を超えている。 「本来は日本人がいいが仕方ない」という消極的受入れは 6.8%、 留学生拒否は17.8%。 このような意向の違いはどこから生じているのだろうか。
集計を進める中で、 留学生受入れ意向には、 外国人(留学生)を入居させた経験の有無が大きく影響していることがわかってきた。 外国人の入居経験のある家主では、 留学生拒否は 4.3%。 ところが入居経験のない家主では40.0%と拒否の割合が極めて高い。 一方、 受入れ経験のある家主についてトラブル経験の有無別にみると、 トラブル経験は必ずしも受入れ拒否に結びついていないこともわかった(図7)。
また家主の抱く不安の内容は友人との同居問題や夜間の騒音、 言葉が通じない心配等であるが、 外国人入居経験の有無別にみると、 不安の項目全体にわたって入居経験のない家主の回答率が入居経験のある家主を上回っている(図9)。
なぜこのような不安を感じているのだろうか。 その要因をみてみると、 外国人受け入れ経験のない家主が“外国人”に何となく感じる不安やトラブルの噂・マスコミ報道等が大きく影響していることがわかる(図10)。
留学生へ住宅を貸すための条件を選択してもらったところ、 外国人入居経験のない家主では管理面での手間・不安の解消が特に求められていることがわかった。
留学生を受け入れるための具体的方策の要望をみると、 大学や公的機関が何らかの形で留学生との間に介在することが強く望まれていることがわかる(図11)。 特に受入れに消極的な層では大学や公的機関関与の要望が強く、またトラブルに対処する方策を求める声も多い。
他方、 最近は「不況の影響で家主の姿勢が随分変わってきた」という声も聞かれる。 この機会をとらえて、 大学や公的機関等が家主により積極的に働きかけてはどうだろうか。 広く民間で留学生を受け入れる土壌をつくることは、 お互いの交流のきっかけ、 そして他の外国人の入居差別を解消していくきっかけにもなるのではないだろうか。
比較的斡旋しやすいのは「自社管理物件」
留学生の入居に伴い、 何らかのトラブルを経験したという業者は74社、 留学生への斡旋経験を持つ業者の約8割に上る。課題は家主の理解、 手間、 トラブル対応の体制
では、 留学生への住宅斡旋を推進するための課題は何だろうか。家主調査の結果
回答家主中、 外国人入居経験のある家主は 115人、 また留学生入居経験のある家主は 110人である。家主は特に入居者本人の人柄を重視
留学生が入居した経緯は、 不動産業者の斡旋が約4割、 入居者の紹介が約2割。外国人入居経験のない家主が受入れを拒否
家主の今後の留学生受入れ意向は、 「積極的に貸したい」が14.7%。噂や報道が“何となく不安”と受入れ拒否を生む
留学生への賃貸に関して不安を持つ割合は、 外国人入居経験のない家主が経験のある家主を大幅に上回っている(図8)。求められる大学・公的機関の介在
では、 どうすれば家主は留学生を受入れてくれるのだろうか。
調査の結果、 不動産業者にも留学生への説明や入居後の管理の手間等の課題はあるものの、 外国人を入居させた経験のない家主の不安を軽減し、 いかに最初の垣根を取り払っていくかということがまず大きな問題であるとわかった。(文責:塩路安紀子)
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