住宅時事往来No.11
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公営住宅における外国人居住者と地域社会

公営住宅は日本で200万戸以上供給されているが、 この公営住宅の一部で外国人の入居者が急増している。

公営住宅自治会では、 この急増する外国人世帯をいかにして地域社会の一員に組み入れていくことができるかが大きな課題になってきている。

神奈川県横浜市と愛知県豊田市の公営住宅(県営)を取材した


公営住宅に何故外国人入居者が増加するのか

改行マーク日本では外国人登録をしている外国人に対して、 公共賃貸住宅(公営住宅・公社住宅・公団住宅など)への入居を基本的に認めている。

公営住宅は公共賃貸住宅の中でも福祉施策的な意味あいが強く、 低額所得者に対する居住の安定と住宅水準の向上を図ることを目的に供給されてきた。

 

改行マーク公営住宅に入居している外国人世帯は、 これまでは永住資格をもつ在日韓国・朝鮮人等がほとんどだったが、 ここ数年来「日系人」「中国帰国者」「インドシナ難民」と呼ばれる外国人の入居者が増加している。

彼らは「定住者」「日本人の配偶者等」という在留資格を持っているので、 他のニューカマーズ外国人とは異なり、 製造工場や零細企業の単純労働者として働くことができる。

実際彼らの多くは、 そういう職場で働いている。

雇用関係が不安定で年収も高くない外国人世帯にとって、 家賃の安い公営住宅は魅力的だ。

 

改行マーク一方地域によっては、 古い公営住宅団地を中心に空き家が発生してきているところがある。

「交通の便が悪い」「古くて部屋が狭い」「設備が悪い」といった公営住宅は、 日本人に敬遠されているからだ。

空き家が多いと、 抽選もなく順番待ちですぐ入居できる。

だから「日系人」の多い東海地方や「インドシナ難民」の多い神奈川県の古い公営住宅では、 外国人が数世帯入居すると、 同国人がその団地を希望して次々と入居してくるので、 特定の公営住宅に外国人が増加してしまう。

公営住宅への優先入居制度のある「中国帰国者」の場合も同様だ。


団地自治会と外国人居住問題

改行マーク外国人世帯にとっては、 同国人が集まることにより母国料理のレストランや食材店が出現したり、 小学校にも日本語学級がつくられるなど多くのメリットが生まれてくる。

ところがこの状況を日本人居住者側からみると、 ここには実に多くの問題が山積している。

 

改行マーク日本の公営住宅では自治会組織が置かれており、 行政や住宅管理組織の末端として回覧板での伝達業務や団地内駐車場料金の徴収、 共用部分の清掃、 草取りなど屋外部分の管理、 子供会や団地祭りなどコミュニティ活動など多岐に渡る役割を担っている。

生活習慣の違いなどから発生する外国人居住者とのトラブルは、 大概自治会へ苦情として寄せられるため、 外国人世帯の入居は、 多くの自治会にとって負担になっている。

また自治会の役員も居住者の回り持ちが多く、 外国人世帯を除いて当番制にすれば日本人の負担が増えるし、 外国人を入れると今度はコミュニケーションが取れず自治会活動が円滑に進まないというジレンマがある。

自治会は県の住宅の管理担当者などに「何とかしてくれ!」と陳情しているが、 いっこうに埒があかない。

どこの現場もおおよそこのような状況にある。

公営住宅の管理業務は、 現状では住宅というハード部分の管理を対象とているため、 居住者の日常生活に関わる問題まで持ち込まれてもなかなか対応できない。

しかし住宅をつくって人を住まわせれば、 そこには当然生活があり、 生活ルール、 外国人子弟の教育、 保健所や医療施設での外国語での対応などの問題が生まれてくる。

住宅管理者と自治体や国際交流協会などとの連携が早急に求められている。

 

改行マークさらに1996年「公営住宅法」が改正され、 高額所得者の転出を促し、 同時に居住の安定を図るため高齢者や障害者に対する収入制限の上限が緩和された。

公営住宅自治会は、 この改正により若い活力のある世代が転出し、 高齢者・障害者・外国人ばかりが増加し、 団地の清掃や草取りなど自治会活動にも支障をきたすと心配している。

しかし見方を変えてみれば、 現在入居している外国人世帯の多くは、 まだ若いファミリー世帯である。

外国人世帯をお荷物にせずに、 団地コミュニティの一員に組み入れていくことができれば、 むしろコミュニティの活性化につながる。

ここでは、 外国人世帯との共生を模索しはじめた2つの公営住宅の事例を紹介する。

外国人に対しても日本人と同等に公営住宅の門戸を開放したからには、 入居後の問題にも対応していく必要がある。

「共生社会」の実現がなるかどうか、 公営住宅が今やその試金石になっているとも言えるだろう。

(文責:稲葉佳子)

参考資料/「外国人居住者の公的施策に関する調査研究」(財団法人 住宅都市工学研究所)

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