昨年からは、 自治会の一部で、 役員に外国人を登用するようになった。 その背景は、 また外国人役員の活躍ぶりは、 どんなものだろうか。 連合自治会会長の金原徹氏、 連合自治会広報部長の小松秋人氏ほか、 関係者の方々からお聞きした内容を報告する。
相鉄線いずみ中央駅からバスで10分、 農地の中に大団地が林立する地域に、 神奈川県営いちょう団地はある。 中層住宅を中心に総戸数は2,238戸、 うち外国人世帯数は、 1997年3月現在で240世帯(約11.4%)である。
団地内は、 大きく8つに区分されており、 それぞれに単位自治会がある。 8つの単位自治会を統括する上部機関として、 連合自治会が設置されている。 今回、 外国人役員の登用を決めたのは、 単位自治会の中で外国人世帯の割合が一番高い第7自治会である。 第7自治会は総戸数390戸・世帯数358世帯であり、 1997年3月現在で外国人世帯数は50世帯(約14.0%)に上る。 国籍別の内訳は、 ベトナム25世帯、 中国帰国者等20世帯、 カンボジア3世帯、 ラオス2世帯となっている。
実際には選出といっても順番制なので、 10年に1度順番が回ってくる計算になる。 さらに代議員の中から、 4役といわれる役員(会長・副会長・事務局長・会計)が、 くじ引きで選出される。 また、 単位自治会には、 広報部、 青少年部など、 全部で9つの専門部が設置されており、 各部の部長、 副部長も代議員の中から選出される。 専門部は、 連合自治会の各専門部の活動を補佐するのが役割であり、 独自の活動はほとんど行っていない。 なお、 連合自治会の役員は、 単位自治会とは異なり立候補制により選出されている。
ところが、 第7自治会では、 代議員39人のうち外国人は実に10人に達していた。 この状態で、 外国人が役員にならないとすると、 日本人が役員になる確率が極端に高くなってしまう。 また、 外国人が多いにもかかわらず、 その意見や要求が自治会運営に反映されない結果ともなってしまう。 そこで、 日本人代議員の中から「外国人を含めた全代議員の中から、 役員を選出したらどうか」という意見が出てきた。 日に日に外国人は増え続ける現状を考えれば、 こうした意見が受け入れられるのは、 ごく自然な流れだった。 代議員たちは、 外国人の役員登用に同意し、 慣例は破られたのである。
さっそく、 くじ引きを行ったところ、 副会長、 広報部長、 青少年部長に外国人が選ばれた。 青少年部長に就任した中国人帰国者は、 その後、 妊娠のため業務から遠ざかってしまったが、 副会長、 広報部長に選ばれたベトナム人は、 日本人のバックアップを受けながら、 現在でも順調に仕事を行っているという。 広報部長は、 「掃除の日を知らせる、 祭りの連絡をする、 ポストに紙を入れることなどが役目です。 日本語はいま勉強中なので、 難しいことは通訳に聞かないとわからないので大変です。 でも、 また順番が来たらやるつもりです」とたいへん意欲的である。
役員に外国人が就任したことによって、 自治会が得た収穫は少なくない。 外国人のために、 自治会が何をすべきかがわかってきたのである。 連合自治会広報部が毎月発行する通信「広報いちょう」の最近の変貌ぶりに、 それは如実に示されている。 まず、 今年度から外国人の寄稿が掲載されるようになった。 原稿の作成にあたっては、 外国人が、 自ら翻訳を行ったり、 翻訳者を紹介するなど、 積極的な役割を果たしている。 そのほか、 広報を外国人に周知徹底させるために、 外国語(ベトナム、 カンボジア、 ラオス、 中国語など)に翻訳しようという模索も始まっている。
そこで、 日本人と外国人の溝を埋め、 また外国人同士の交流を深めるために、 自治会は毎年「外国人交流会」を行っている。 外国人交流会がはじまったのは、 中国残留孤児が帰国し始めた頃に、 日赤が企画したバスツアーをきっかけとしている。 バスツアーの参加者の多くは、 いちょう団地に住んでいたことから、 その後は、 日赤の補助金を受けて、 自治会が外国人交流会を主催している。
自治会は、 外国人交流会の準備作業を通じて仲良くなった外国人に、 昨年、 「連絡窓口」になってもらった。 各国出身の外国人のために、 日常生活上の相談窓口や通訳をやってもらおうというわけだ。 「将来的には、 外国人の国別自治組織を成長させ、 自治会が協力して、 きめ細かい生活のフォローを行いたい」と自治会は考えている。
今年11月に行われた外国人交流会には、 家族ぐるみで多数の外国人が参加した。 会場で行われたさまざまなアトラクションを、 みんな存分に楽しんだようだ。 参加者の声からは、 教育問題に対する関心の高さをうかがい知ることができた。 いちょう団地周辺では、 保育園児の過半数、 小学校児童の約25%、 中学校生徒の約10%は外国人なのである。
中国帰国者家族の小学校6年生の娘さんは、 「クラスは21人だが、 そのうち中国人が3人、 ベトナム人が2人います。 一番仲良しなのはベトナム人の友達です。 学校には全学年の外国人の子どもたちが参加する‘ふれあい教室’があります」と現状を語ってくれた。 また、 「両親は日本語があまり話せないので、 家の中では中国語を使っているけど、 私は日本語の方が得意です」ともいう。 ご両親は、 「まだ日本語はあまりよく話せません。 娘の日本語は早すぎてほとんど理解できません」と苦笑する。
親は母国語、 子供は日本語が第一言語というケースが多いので、 親子のコミュニケーションギャップが問題になることもあるらしい。 この辺りの事情について、 小学校の先生は「子供は、 親に十分に心を伝えられないので、 自分の悩みをなかなか解決できず、 ストレス状態に陥る場合もあります」と解説してくれた。
そのひとつが、 新入居外国人向け説明会である。 外国人は、 日本の生活習慣や集合住宅の住まい方に慣れるまで、 やはり数年はかかるという。 自治会は、 県が発行している「入居のしおり」だけでは不十分と考え、 生活上の細かいアドバイスを行う説明会を、 独自に開いている。 そのほかに自治会は、 行政への陳情活動にも力を入れている。 例えば、 学校や教育委員会に対しては、 日本語教育の拡充などについて特段の対応を要請している。 また、 今年8月には、 他の大規模県営団地と共同で、 外国語の説明書の作成、 外国人相談窓口の設置、 などを内容とした陳情書を県に提出した。
むしろ、 各行政機関が相互に協調して、 総合的な対策をたてることを重視している。 なぜなら、 団地内の外国人の居住環境の改善という戦術レベルで自治会が努力を払っても、 外国人の住宅・雇用問題について行政が戦略レベルで対応しない限り、 自治会の負荷は増すばかりだと考えるからだ。
外国人の増加に対応するために、 自治会だけでなく、 行政にも変化が求められているわけである。 「これまでは、 日本人が外国人にあれこれ要求を押しつけてきたが、 今度は、 日本人が外国人の要求を聞く番になった。 あと5年、 10年もたてば、 外国人の役員は当たり前になるだろう」と自治会は感じている。 いまのところ、 連合自治会の役員に立候補した外国人はいないが、 この調子でいけば、 しばらくしたら出てくるに違いない。
事例報告1
神奈川県営いちょう団地の自治会
神奈川県営いちょう団地(横浜市泉区)では、 外国人世帯が急速に増加しており、 現在では全体の10%以上を占める。
自治会の組織
第7自治会に
外国人役員が選出された経緯
外国人との交流
行政への要望
外国人入居者が多いいちょう団地の商店街の中には、
アジア食材店もできた。
今年の外国人交流会11月16日に開かれた。
まず連合自治会役員が開会の挨拶。
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