住宅時事往来No.11
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事例報告2

保見団地の日系ブラジル人

新入管法施行から7年、 ブラジルやペルーから大量に来日した日系人たちは、 今どのように暮らしているのだろうか。

急激なブラジル人居住者の増加に戸惑いつつ、 対応に取り組み始めたある団地を例に、 東海地方に住む日系人の現状について報告する。

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環境改善へ動き出した団地自治区

改行マーク愛知県豊田市の保見団地は、 高度経済成長末期に建設された巨大団地である。

ずらりと建ち並ぶ中高層住棟の足下には、 ポルトガル語の張り紙が溢れている。

ブラジル食材の販売、 レストランの紹介、 キリスト教の集い、 空港までの荷物配送サービス…。

ゴミ出しや違法駐車への注意を促す掲示も日本語・ポルトガル語併記だ。

この団地には県営・公団住宅に約1万1千人が居住するが、 そのうち約2千人がブラジル人である。

 

改行マーク1990年6月の新入管法施行に伴い、 来日する日系人の数は瞬く間に増え、 自動車関連産業など製造業が盛んな東海地方などで働き始めた。

県営保見団地では、 町の中心部から離れており空家が多かったため入居しやすく、 92・93年頃からブラジル人世帯が目立って増え始めた。

また公団では法人契約を認めていたため、 ブラジル人を雇う請負業者が契約して寮とするケースが増え、 単身のブラジル人の若者も増加した。

 

改行マーク当初は習慣の違いで摩擦もあったが、 ゴミの出し方や自治区のお知らせをポルトガル語訳したり、 祭にブラジル料理の屋台を出すなどにより、 95年末頃までは良好な関係にあったという。

しかしその後さらにブラジル人が増え、 違法駐車が多くなったりゴミ出しが守られなかったり、 ベランダでバーベキューをしたり夜騒ぐなど、 問題が目立ってきた。

それでも県営住宅では定期的な清掃などで知り合った日本人とブラジル人の交流もあった。

しかし、 寮として公団へ入居した若者は、 日本の若者と同様、 なかなか“地域参加”はしない。

加えて入居者がよく入れ替わり、 誰が住んでいるかといったことさえわからない。

日本人から「これ以上ブラジル人を入居させないで」「管理者がもっと対応すべき」という声が上がった。

 

改行マークそこで、 この問題を保見団地の4自治区が共に考えていこうと、 97年6月、 4自治区役員による「保見ヶ丘を明るくする会」が発足した。

会の結成にあたり、 まずブラジル人側の意見も聞くべきだと、 団地内3自治区と(財)豊田市国際交流協会(TIA)が中心となってアンケートを行った。

TIA事務局次長の岸孝雄さんは、 「ブラジル人の中でももっと住環境をよくしたいという声はある。

『日本人はあいさつしても無視して冷たい』という意見もあった。

お互いにあいさつくらいはしようとか、 公民館や団地の運動広場を使って一緒に文化活動やサッカーをやって交流できないだろうか」と、 まずは交流の機会を持つことを強調する。

 

改行マーク「保見ヶ丘を明るくする会」は、 9月末に日本人と外国人の入居バランスの適正化や住宅管理者・外国人雇用者・企業の責任、 警察のパトロール強化、 自治区への加入促進などを謳った「保見ヶ丘4自治区の住環境改善に関する要望書」を市に提出した。

ブラジル人の意見は一応アンケートから集約され反映されたものの、 10月に開かれたブラジル人の集会では、 ほとんどの人が「明るくする会」で何が話し合われたか具体的には知らなかったという。

県営住宅にはブラジル人とのパイプ役として、 ブラジル生活経験20年の国際部長が8月に誕生している。

対立するのではなく“共に住む”ために、 お互いに何を考えどうすればいいのか。

保見団地の取り組みはまだ始まったばかりである。


住民としての日系人の声を聞くこと

改行マーク現在、 日本全国には約20万人、 愛知県だけでも3万6千人のブラジル人が住む。

日本語ができず右も左もわからずに来日した90年代初頭とは、 随分状況が変化した。

今では、 手続きなど一般的なことはお互いの情報交換でほとんど問題なくできる。

行政でも、 各国語の生活ガイドの作成や外国人相談窓口の設置など対応を始めた。

約10年前から日系人を支援してきた豊橋市の日系インフォメーションセンターの伊藤育雄さんは、 「これからは、 住民としての日系人の声をもっと行政に反映させることが必要ではないか」と指摘する。

居住の長期化に伴い、 日本で結婚し家族を形成する日系人が増えてきた。

出産、 子供の保育・教育など、 住民の1人としての対応が必要になっている。

単に情報を提供してあげる、 という時期は過ぎた。

聞こえにくい日系人側の意見をどのように吸い上げ、 そして、 同じ地域住民としてどのように一緒に話し合っていくのか。

受け入れ社会の日本人側に、 そして日系人自身にも問われている課題である。

(文責:塩路安紀子)

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