とうとうイスラームの最も基本的な教え「カリマ・タイイバ」を、 訪問者一同、 大声で3度斉唱することになった。
アッラーのもとに結ばれるムスリムたち
―伊勢崎市・境町
伊勢崎周辺のモスクを訪ねる
いざ、 モスクへ
ジョミア・モスク・モハマディア
礼拝堂でイマーム(中央)を囲んで
聖クルアーン(コーラン)
新伊勢崎駅近くのハラール・フード店
ダルサラーム・モスク(境町)
群馬県の伊勢崎市にムスリム(イスラーム信奉者)たちがモスク(礼拝所)を自分たちの力でつくり、 信仰をよりどころとしながら生活を送っているそうな。 信仰のためとはいえ、 今まであまり縁のなかった日本の社会に、 自力で礼拝所をつくるとはスゴイ。
なにはともあれ実態観察、 というのが、 まち居住研の行動パターンである。 初夏めく日の早朝、 有志数名が乗った東武伊勢崎線電車は関東平野をひた走り、 埼玉県との県境を流れる利根川を越えて群馬県に入る。 東京から約2時間、 やはり遠い。 終点、 伊勢崎に降りたら、 ともかくモスクをめざす。 その見当へ歩いていくと、 向こうから自転車を引いてくるそれらしき男性3人に出会った。 声をかけると、 3人ともUターンして、 わたしたちをモスクへ案内してくれた。
モスクの名はジャミア・モハマディア礼拝所。 駐車場跡に建てられたプレハブ造りだが、 ちゃんとドームもつくってある。 礼拝室に請じ入れられると、 イマームと呼ばれる説教師が現われ、 わたしたちの質問に快く答えてくれた。
このモスクは3年半前に東京および近県に住む信徒たちによって建てられた。 師はバングラデシュからやってきた。 同席者は先ほどの案内者3人で、 みなパキスタン人、 30代前の働き盛りである。 組立・溶接・プレスなどの工場で8時間労働し、 会社が保証人になってくれて3人で2DKに住んでいる。
礼拝室でのヒアリングが終わると、 同じ敷地に建つイマームが起居するプレハブ「スーパーハウス」に案内された。 2坪ほどの室内で、 かしこまって師のお説教をひとしきり聞くことになったのは礼儀にもかなうことだった。
「神さまは、 どこにいますか?」
「あの、 あちこちに……」
「なに? もそっと前、 もそっと前へ。 神は、 アッラーお一人です。 はい、 みんなで、 唱えましょう。
ラー イラーハ イッラッ=ラーフ、
ムハンマドゥン ラスールッ=ラーフ
(アッラーの他に崇拝する神はなく
ムハンマド=マホメットはアッラーの使者である)はい、 もっと大きな声で!」
お説教が済むと、 昼時なので、 みなで食事をという師の申し出である。 どうも、 招待するつもりらしい。 わたしたちは、 もはや時の流れに身を任せ、 ムスリムたちとともにイマームの後につき従った。 食事の席にもう一人のパキスタン・ムスリム、 ムハンマド・ハーンさんが一行に加わったが、 彼は食事の済んだわたしたちにさらにシークカバブーをご馳走してくれたのだった。 新伊勢崎のこのインド料理店でたっぷり時間をかけてから、 さて店を出たときは、 もう日もだいぶ傾いていた。
食事代は当方が支払うことでどうにかケリをつけたが、 その足でハラール・フード店(イスラーム式食材店)に立ち寄って、 またもお土産を持たされた。 客人をとことんもてなすのが、 ムスリムの信仰生活上の慣習らしい。 境町にある、 もう一つのモスクを訪ねるというと、 はじめから参加していた無口な好人物のアブドゥール・アリさんが案内するという。
そのダルサラーム礼拝所は、 もとパチンコ店だったが4年前にムスリムたちが購入、 モスクに改装したものだ。 1階が礼拝室、 2階が休息所。 7〜8人のバングラデシュ・ムスリムたちが応じてくれたが、 ジャミア・モハマディア礼拝所の人たちよりはやや打ち解けず、 写真撮影も許してもらえなかった。 国の違いか、 もしかしたら、 不浄な女性が3人も訪れたからかもしれない。 (モスクには原則として女性は入れない)。
二つのモスクを訪ね終わり、 境町駅近くのインド人が経営するハラール・フード店に立ち寄ってから、 わたしたちは東京へ帰る電車に乗りこんだ。 日はすでに落ち電灯の点りはじめた駅の改札口のところで、 最後までつき合ってくれた人懐こいアリさんが、 はにかみがちに手を振ってくれていた。
多様な国籍の外国人労働者が集まる伊勢崎市
伊勢崎市は、 かつては伊勢崎銘仙などを産した有名な絹織物の産地だった。 現在は、 家電メーカーや、 中小の組立工場などが集中する都市に変貌している。
この都市に、 約10年ほど前から、 あらゆる国籍をもつ外国人労働者が働き手として流入してきた。 その数5,748人。 伊勢崎市の総人口125,656人の約5%にあたる。 国籍はブラジル(2,459)、 ペルー(1,447)、 ベトナム(420)、 フィリッピン(349)、 中国(171)、 韓国・朝鮮(163)、 パキスタン(122)、 その他じつに49ヵ国にわたる。 そのうちイスラームを信奉する国はアフガニスタン、 バングラデシュ、 インドネシア、 イラン、 パキスタン、 トルコなどで、 外国人登録者総数の約7%(410)になる(1998年12月末現在)。
異国にあって心の支えとなるのは、 同じ信仰のもとに集うことであろう。 その点、 信仰の規範と生活の規範を等しくし、 聖地メッカを中心に上下の関係なく祈りの場をもつことが許されているイスラームは横のつながりが強い。 現在、 神戸、 東京、 埼玉、 長野、 沼津などにさまざまな形態のモスクが設立されているが、 日本社会の国際化がすすめば、 これからもさらに多様に出現する可能性は高い。
*文中の個人名はすべて仮名です。
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