研究会では、 昨年の4月から9月にかけて、 海外6カ国のアパートやマンションの賃貸借のシステムに詳しい専門家と在住体験者等を招いてお話を伺いました。 今回は、 既に台湾とドイツは通信第1号で紹介したので、 フランス・アメリカ・台湾・香港について報告します。 なおこのまとめは、 ゲストのお話をもとにまち居住研究会が作成しました。
外国人入居差別は法律で禁止されているが、 差別の立証は難しい。 フランスの外国人住宅を研究した稲葉さんによると、 立ち退きをせまられるなど住宅難を抱える人の多くは外国人で、 北アフリカやマリ・セネガル出身者が多いという。
さて、 生活ルールに関してはどうでしょうか? 例えば音に対する感覚は、 日本以外のアジア諸国の方が寛容なようです。 (反対にドイツは日本よりも厳しい)
香港では「麻雀の音もお互いさま」という話を聞いて、 なるほど「うるさい!」と感じる基準がお互い異なることがよくわかりました。 こういう感覚的な問題は、 なかなか解決するのが難しそうですが、 まずはお互いにどのように感じているのか理解し合うことが大切だと思いました。 そこで、 研究会の中での議論を紹介します。 (稲葉佳子)
研究会では、 礼金・更新料は、 必要経費ならば家賃の中に組み入れて処理すべきという意見が多かったが、 現実には、 礼金・更新料があっても、 ユーザーは見た目の家賃が安い方を選択するという指摘があり、 ユーザー側の意識改革が同時に進まないと、 賃貸借契約のシステム改善は難しいと痛感した。
“目から鱗(ウロコ)”の海外賃貸借事情
人権や賃貸借の法律的対応はあるが、 別の事情も垣間見えるフランス
お話をしてくれた人:寺尾仁先生(新潟大学助教授/日本)と稲葉奈々子さん(フランス留学歴4年/日本)
(解説)寺尾さんから、 自らの経験と法律的な解説を交えてフランス賃貸住宅事情を伺った。 フランスでも賃貸借契約締結時に保証人は概ね必要だが、 これは経済的な信用チェックのためであり、 銀行に預金があることを示せばいいケースもあるという。 保証金(敷金)は借家法で2カ月以内と決められており、 礼金や更新料はない。 家主からの更新拒絶は可能だが条件が厳しく、 また70歳以上の高齢者の更新拒絶はできない。 賃借人による模様替え(改造工事を除く)は容認されており、 一般の賃貸住宅は基本的には自分の好みで内装する。 一方、 借家法の対象外となる「家具付住宅」があるが、 これはやや条件の悪い物件を主に短期的に借りたい人向けに家具付で提供するもので、 賃借人の立場は一般賃貸に比べて弱いという。
賃貸住宅の資産運用・管理がビジネスとして確立しているアメリカ
お話をしてくれた人:海老沼修さん(建設会社勤務/日本)と伊藤杏里さん(アメリカ留学歴2年/日本)
(解説)サンフランシスコ郊外のアパート開発業務を担当して米国在住歴5年の海老沼さんから、 アメリカ西海岸の賃貸借事情を伺った。 アメリカでは、 アパートはオフィスに次ぐ投資対象。 管理会社が賃借人とエイジェント契約をし、 家主に代わって資産運用・管理を代行する。 管理会社の評価はいかに資産価値を高められるかで決まるので、 プロパティ・マネジメントと呼ばれる管理業務の幅は広く、 また投資家(家主)に対する業務責任の範囲も明確で、 業務実績は投資家に情報公開されているという。 契約は、 賃借人と管理会社の間で行われることが多く、 両者の立場はもちろん対等で極めてビジネスライクな関係というのが、 いかにもアメリカらしい。 保証人は不要だが、 収入やクレジット歴による資格審査がある。 契約期間は6〜12ヶ月が一般的であるということだった。 契約期間途中での退居の場合は、 賃借人が残期間の家賃を支払う義務を負うこともあり、 伊藤さんも留学中に残家賃の支払いで多大な出費が必要だった体験を紹介してくれた。
不動産屋よりも口コミ、 法律よりも交渉力がものをいう台湾の賃貸借事情
お話をしてくれた人:伊藤健さん(会社勤務・台北留学歴1年/日本)
(解説)台湾の持家率は85%。 だから賃貸住宅は少なく、 特に単身者の場合は間借りが一般的だそうだ。 外国人のうち企業駐在員と出稼ぎ労働者は、 会社や雇用者が住宅を用意するので、 自分で住宅を探すのは留学生と現地採用の会社員。 しかし高級な賃貸住宅は別として家賃の安い物件は、 不動産屋を介さず、 口コミや街頭の掲示板で貼り紙を見つけて、 直接家主と交渉し契約することが多いという。 契約書は文房具屋で購入し、 金額を書き込み家主と賃借人で署名・捺印する。 敷金1ヶ月、 契約期間は半年以上が一般的。 しかし、 契約書を交わすと相手の権利が明文化されてしまうので、 口約束だけの方がよいと考える台湾人も多く、 その場合は家賃数カ月分を前払いする。 また家主から数室借りて自己用以外を又貸しし管理人も兼ねるという第二家主がいることもあるという。 生活ルールというものは特になく、 法律がどうのこうのというよりは、 家主と店子との力関係や地域の習慣で物事が決まるといってもよいくらいだそうである。
仲介はしても管理はしない不動産会社のおかげで香港の大家さんは大変
お話をしてくれた人:メンリさん(香港在住/香港)とジャネットさん(滞日歴6年/香港)姉妹
(解説)国際結婚して東京で暮らすジャネットさんは、 香港に分譲マンションを購入して賃貸に出し、 姉のメンリさんが管理を手伝っている。 香港では、 独身者の9割は親と同居しているので、 賃貸に住むのはまだ分譲を購入できない新婚世帯が多いという。 住宅は不動産会社か新聞広告で探す。 一般に敷金2ヶ月、 仲介手数料1ヶ月、 契約期間は2年間で、 最初の1年間は解約できない。 身分証明書は必要だが、 保証人や更新料は不要である。 物件の仲介をする不動産会社はあるが、 管理会社が存在しないので、 マンションの所有者(家主)自身が管理をする。 何かトラブルが発生した時にも自分で解決しなくてはならない。 ジャネットさんは、 マンションの共用管からの水漏れ事故で自分の貸している部屋が被害を受けたが、 結局自分で修理費用を負担させられたそうだ(建物修繕等を話し合う管理組合はある)。 香港では、 ゴミは毎日回収される。 住宅がコンクリートなので騒音の問題も少なく、 また香港人はみな麻雀が大好きなので「騒音はお互い様」だと語っていた。
前号と併せて6カ国の賃貸借事情を紹介しましたが、 皆さんはどんな感想を抱きましたか?
これは個人的な感想ですが、 欧米諸国は契約社会という概念が確立しているのに対して、 アジアの国々は、 慣例・慣習や、 主張した者勝ち的な力関係があるように思えました。 これまで、 外国人が日本で住宅を借りるときに、 欧米出身者の場合は、 慣例・慣習に基づく「礼金」「更新料」といった契約の仕組みがトラブルのもとになるという話を、 一方アジア出身者の場合は、 契約書を交わしたにもかかわらず、 友人との同居や又貸しが問題になるケースが多いという話を不動産屋さんからよく聞きました。 契約社会という意味では、 日本は、 ちょうど欧米とアジアの中間に位置しているようです。 とはいえ今回の事例のアジアの国々にも、 日本のような「礼金」「更新料」はありませんでした。 この問題は、 やはり考え直してみる必要がありそうです。
礼金・更新料・保証人
簡単にはなくせないけど何とかしたい礼金
「礼金」は不要と言いたいが、 礼金を含めて賃貸経営の事業収支がようやく成立するというのが現実ならば、 礼金を前払い家賃として考えるか、 礼金を24ヶ月に振り分けて家賃に上乗せするかすべきである。 ただし、 礼金を家賃に振り分けた場合には、 契約期間中途解約が発生した場合の家主側のリスクに備えて、 米国・香港式に、 残家賃を補償する仕組みが必要だろう。敷金
家賃滞納の担保として必要なのは理解できる。 外国にも保証金はある。 しかし敷金が、 退去時のリフォーム代や清掃費に充当されてしまい、 全額返却されないのはおかしい。 リフォーム代や清掃費は、 当然家主が負担すべき費用である。 一方、 新築に近い状態までリフォームが必要というのは無駄が多く、 ユーザー側の意識にも問題がある。更新料
「更新料」と称しているが、 実は不動産会社への管理委託料的意味が強く、 本来は家主が支払うべき経費。 それでは事業採算が成立しないのであれば、 家賃価格自体を見直すべきである。保証人
家賃滞納の担保という意味ならば、 保険制度や保証協会の利用、 米国式にクレジット歴を調べる方が確実であり、 不要ではないか。 今後は高齢単身世帯の増加が予測されているので、 そういう意味からも見直しが必要。 外国人の場合も、 家賃支払い能力・生活適応能力が十分にあれば不要である(現状では、 生活面でのトラブル発生時への対応策として日本人の保証人が必要と考えられている)。入居審査
何らかの基準は必要だろうが、 非常に難しい。 特に外国人の場合、 日本語能力の有無が審査基準になると不当な入居差別につながることになる。 そういう外国人でも入居できるよう(家主側も困らないように)方策を考えるのが、 この研究会の役割だろう。
生活ルールに
グローバル・スタンダードなんてあり得ない生活ルールは地域ごとに異なって当たり前
生活ルールは、 各国の文化や価値観の中から生まれていることがわかった。 だから国によって異なるのは当然だが、 考えてみれば、 東京の中でも地域によって違うはず。 例えば純然たる住宅地と24時間都市新宿に隣接する大久保では、 ルールの内容や基準が異なって当たりまえ。 また、 木造のアパートか遮音性のよい構造のマンションか、 単身者ばかりか、 ファミリーの多い集合住宅か‥‥でも違ってくる。 どうやったらその地域にふさわしいルールが作れるのか、 そこが大切なのではないか。とはいえ最低限のルールがあるはず
お互いの生命財産を侵すようなことや、 ゴミ・騒音など、 集合住宅で共同生活を営む以上、 最低限守るべきルールはあると思う。 その最低限(=最重要?)のルールとは何か、 外国人の意見も聞きながら整理してみたらどうか。「迷惑」って何だろう?
日本人は「他人に迷惑を掛けないように‥‥」という考え方が強いが、 何が迷惑で何が迷惑ではないのか? どの段階から迷惑になるのか? 個人差が大きい。 極端に言えば、 親しい隣人のピアノの音は音楽だけど、 挨拶も交わさない隣人のピアノの音は騒音だと感じる。 「迷惑」って何だろう?
多様な人が行き交う都市だからこそ隣人を知る必要がある
日本人はもちろん、 外国人ならなおさら、 引っ越したときに隣近所に挨拶するだけで、 お互いの印象が良くなり、 その後の関係もうまくいきやすい。 都市生活に匿名性を求める人もいるが、 今後は、 単身や夫婦のみ世帯が増え、 多種多様(国籍・民族・文化・価値観・職業などなど)な人が暮らし、 人の入れ替わりが激しい地域ほど、 隣人がどういう人か知ることは、 犯罪防止という意味からもとても大切になってくる。 生活ルールを補うソフトの部分も併せて考えていきたい。
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