まち居住通信3
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ドロテーさんの引っ越し顛末記(上)

[契約書のない部屋]

お 話:シブラ-ピュセル・ドロテーまとめ:河上 牧子

 

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ドロテーさん
改行マークフランス人のドロテーさんは1996年に来日した。 現在は大学院博士課程に在籍し、 東京のインナーシティ問題(低所得者等の受け皿となっているような地区)の研究をしている。 以前、 社会学の先生から指導を受けた時池袋のことを知り、 自分の研究テーマにぴったりの東池袋で学生生活を送りたいと思った。

改行マークカナダ出身の友人は、 古い一軒家の2階に住んでいた。 部屋はもともと一軒家だったものがリフォームされ、 広めの部屋割りになっている。 下の部屋が空いているからと、 彼女が大家に取り次いでくれ、 私は部屋の下見と所用をかねて訪ねた。

改行マーク下見では、 電気のついていない部屋の中に5分だけ入れてもらった。 夕方ということもあって、 部屋の中はうっそうと暗く、 なんにも見えなかったが、 6畳と4畳半の2部屋にキッチン・トイレ・バス・シャワー・家具付き、 また電話線の設置もされており、 何より研究フィールドのど真ん中にすめるということで、 条件はそろっていた。

改行マーク家賃は6万5千円。 文部省からの家賃補助1万2千円があるので自己負担は5万3千円。 これは契約だ。 そう思って契約書を請求した。

改行マークしかし、 契約の段階になって、 私は驚いた。 なんと大家が面倒くさいので、 契約書はだしてくれないという。 しかし、 文部省から家賃補助をもらうには何としてでも契約書が必要。 いろいろ交渉をしているうちに、 契約書をださない代わりに敷金礼金はとらない。 契約書がでないと家賃補助がもらえなくなる分、 家賃を5万円までにさげてくれるという条件を大家さんがのんでくれた。 古くて湿気が多いので、 敷金礼金なしということで、 私にとっては申し分なく、 契約書がないというのは少々おかしいとは思いはしたが、 かえって住みやすく嬉しかった。

改行マーク電気・ガス・水道などの契約はその人の名前でして、 支払いは私がコンビニでやっていた。 トラブルがあれば、 私が会社に電話をして彼がお金を払ってくれた。 このパターンで1年くらい住み続けていた。

改行マークポストには、 私と大家さんとの両方の名前が書かれていたが、 それでも前居住者あての郵便物が時々届くこともあった。 そのことを大家さんに報告すると、 前居住者の行方が分からないことや、 前居住者である外国人2人に、 その後部屋から逃げられてしまったこと、 などを教えてもらい、 入れ替わりの激しい部屋であることがわかった。 他にも、 彼らの手紙や写真、 書類などが残っており、 部屋にいると、 他の人の臭いを感じることもあったが、 特に気にせず毎日を過ごしていた。

改行マークそんな生活に、 契約書の存在と重要性を思い起こさせたのは、 98年5月頃の、 2階のカナダ人が起こした水道事件が発端であった。 そしてその後の展開で、 実はこの部屋の賃貸契約書が、 とある別の場所に存在することが判明し、 契約書をもたない私はあわやホームレス?の状況になるのである(つづく)。

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