ドロテーさんの引っ越し顛末記(上)
[契約書のない部屋]
お 話:シブラ-ピュセル・ドロテーまとめ:河上 牧子
ドロテーさん |
カナダ出身の友人は、 古い一軒家の2階に住んでいた。 部屋はもともと一軒家だったものがリフォームされ、 広めの部屋割りになっている。 下の部屋が空いているからと、 彼女が大家に取り次いでくれ、 私は部屋の下見と所用をかねて訪ねた。
下見では、 電気のついていない部屋の中に5分だけ入れてもらった。 夕方ということもあって、 部屋の中はうっそうと暗く、 なんにも見えなかったが、 6畳と4畳半の2部屋にキッチン・トイレ・バス・シャワー・家具付き、 また電話線の設置もされており、 何より研究フィールドのど真ん中にすめるということで、 条件はそろっていた。
家賃は6万5千円。 文部省からの家賃補助1万2千円があるので自己負担は5万3千円。 これは契約だ。 そう思って契約書を請求した。
しかし、 契約の段階になって、 私は驚いた。 なんと大家が面倒くさいので、 契約書はだしてくれないという。 しかし、 文部省から家賃補助をもらうには何としてでも契約書が必要。 いろいろ交渉をしているうちに、 契約書をださない代わりに敷金礼金はとらない。 契約書がでないと家賃補助がもらえなくなる分、 家賃を5万円までにさげてくれるという条件を大家さんがのんでくれた。 古くて湿気が多いので、 敷金礼金なしということで、 私にとっては申し分なく、 契約書がないというのは少々おかしいとは思いはしたが、 かえって住みやすく嬉しかった。
電気・ガス・水道などの契約はその人の名前でして、 支払いは私がコンビニでやっていた。 トラブルがあれば、 私が会社に電話をして彼がお金を払ってくれた。 このパターンで1年くらい住み続けていた。
ポストには、 私と大家さんとの両方の名前が書かれていたが、 それでも前居住者あての郵便物が時々届くこともあった。 そのことを大家さんに報告すると、 前居住者の行方が分からないことや、 前居住者である外国人2人に、 その後部屋から逃げられてしまったこと、 などを教えてもらい、 入れ替わりの激しい部屋であることがわかった。 他にも、 彼らの手紙や写真、 書類などが残っており、 部屋にいると、 他の人の臭いを感じることもあったが、 特に気にせず毎日を過ごしていた。
そんな生活に、 契約書の存在と重要性を思い起こさせたのは、 98年5月頃の、 2階のカナダ人が起こした水道事件が発端であった。 そしてその後の展開で、 実はこの部屋の賃貸契約書が、 とある別の場所に存在することが判明し、 契約書をもたない私はあわやホームレス?の状況になるのである(つづく)。