「J & Fハウス」の特徴は、 各室には専用設備はなく、 代わりに共用のリビング・キッチンやトイレ、 シャワールーム、 コインランドリーがあるという点だ。 この共用スペースが、 入居者同士のコミュニケーションの場として重要な意味を持つ。 だから設備共同のアパートや、 玄関ひとつで共同風呂の簡易ビジネスホテルは、 むしろうってつけの物件だったといえる。
まち居住研究会・定例研究会報告
ひとつ屋根の下で外国人と暮らす「J & Fハウス」の試み
荻野さん
まち居住研究会メンバーの荻野さん(写真右/イチイ産業専務)が、 今春から「J & F (Japanese & Foreigner)ハウス」という新たな事業展開をはじめました。 これはいわば“国際版コミュニティハウス”。 リビング、 キッチン、 シャワールームを共用する短期滞在型賃貸住宅です。 入居募集早々から満室御礼の人気商品となり、 荻野さんは連日、 新聞やTVの取材攻勢でひっぱりだこの多忙な日々を送っています。 さっそく、 このユニークな賃貸住宅を、 荻野さんのお話も交えながらご紹介します(報告=稲葉佳子)。
*本稿は平成12年10月24日のまち居住研究会定例会で、 荻野さんが講演した内容を中心にまとめました。
◆閑古鳥の老朽アパートが、 一転して超人気商品に
イチイ産業という不動産会社で外国人へのアパートあっせんに取り組んできた荻野さんは、 仲介だけではなく、 もっと積極的に外国人が住めるアパートを提供しようと思いたち、 「J & Fハウス」という新商品を企画した。 現在、 埼京線の十条、 新宿3丁目の繁華街の一角、 東武東上線の志木で供給されている。
十条の「J & Fハウス」平面図
いずれも新築ではなく、 古い設備共同の木賃アパートや開店休業状態だった簡易ビジネスホテルなどをリニューアルした物件である。 借り手や宿泊客がいなくなり営業不振に陥っていた物件が、 外国人向けの滞在型住宅として衣替えしたとたんに、 引く手あまたの人気商品に生まれ変わったのだから、 これはスゴイ!。
新宿「J & Fハウス」の内部。 共用のリビングキッチン |
個室 |
十条にある「J & Fハウス」の共用リビング |
荻野さんによると、 英語が勉強できるうえに部屋代はタダ、 経営までは無理でもマネージメントをしてみたい、 管理報酬は安くてもやりたい、 という奇特な人は結構いるらしい。 「住宅を提供する側は、 どんどん設備を専用化して、 きれいで設備がよくてオートロックがあり、 床がフローリングといった物件こそユーザーに求めれていると考えてきました。 しかしプライバシーを守ってあげると助け合い、 挨拶をする必要性もなくなってしまいます。 今の若い人たちの中にも、 お互いにふれあえる場所を求めている人がいるのではないか、 日本人にも異なるニーズがいろいろあるということに今回改めて気づきました」という荻野さんの話が印象的だった。
「外国人ハウス」を報じる新聞(2000.10.31朝日新聞夕刊) |
ついこの間まで入居者確保にさほど苦労したわけでもなかったアパートが、 あっという間に空家状態、 でもただ壊してしまうだけでなく何か“ちょっと”手を加えることで再生できないものか? こんな思いの人の目に飛び込んだのが今回の記事でした。
使わなくなった自宅、 寮生がいなくなった会社の社宅、 バリアフリーに改装できなかった我が家、 福岡に建ててしまった民芸風の木造一戸建て(以前は外国人3人がシェアーしていた)、 誰も住んでない古アパートなど色々なケースがありました。 また多くの方が何らかの形で外国もしくは外国人に関わりがある人であったのも、 今回の特徴だと思います。 何か忘れかけた、 もしくは捨ててきた“人と人とのふれあい”“昔の長屋”が懐かしくなったのかもしれません。