まち居住通信6
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「まち居住研究会」活動報告

 

 

外国人と日本人が大久保で暮らすためのガイドブック

「きょうから大久保」が完成しました!

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これが「きょうから大久保」表紙です
 価値観や文化を異にする人が、 ひとつの地域でよい関係を築きながら生活していくにはどうすればよいか…。 まち居住研究会の活動は、 この問いの答えを探し続けることと言ってもよいでしょう。 そのひとつの(中間的な)成果として、 2年の歳月を経て今年の夏に完成したのが『きょうから大久保』という冊子です。

 大きさはB5判、 計60ページ。 研究会の主フィールドである新宿区大久保エリアで、 1組の外国人家族が不動産屋を介して部屋を探し、 賃貸借契約を行い、 生活を始めだすまでのストーリーを追う形で構成されています。 特徴は文字が少なく、 イラストが主体になっていること(そのほうが読みやすいですよね)。 大久保散歩と昼寝が趣味というオス猫「ニャントモ」が各シーンに登場し、 絶妙なセリフをぽつりとつぶやいて、 緊迫した雰囲気をやわらげています。

 後半には実際の生活に役立つ付録が納めてあります。 例えば、 ゴミの出し方などの細かい生活ルールを自分達のアパートやマンションに即して示せる「集合住宅の生活ルール連絡用紙」を日韓中英の4か国語で収録。 さらに関連する行政窓口やボランティア団体の連絡先も掲載するなど、 外国人ばかりでなく、 大久保に新しく引っ越してきた日本人にも役立つ内容となっています。

 この冊子は「大久保」を舞台にしていますが、 内容の骨子は他地域でも汎用できるものだと思います。 まだこの目で見ていない!という方は、 ぜひご覧ください。 そして、 忌憚のないご意見をいただければ幸いです。 (報告=宮本みきえ)

●『きょうから大久保』は以下の5つの流れで構成されています

コラム
新宿区主催のマンション管理セミナーで『きょうから大久保』を紹介!

 さる11月11日(土)、 新宿区主催のマンション管理セミナー「ルール違反者への上手な対処法」が行われました。 内容はマンション管理問題懇話会が立案構成しましたが、 マンション居住者のなかに外国人がいる場合、 ことばの障壁、 生活習慣や文化の違いからくるトラブルも取り上げられました。 その際、 パネリストとして当研究会メンバーの太田が、 まち居住研究会発行『きょうから大久保』を紹介し、 当日配布された資料には「集合住宅の生活ルール連絡用紙・4か国語版」が掲載されて、 大いに参加者たちの興味をひきました。 ただ、 会場が区役所の会議室だったので、 その場で販売できなかったのが残念!。
(報告=太田多圭子)

コラム
『きょうから大久保』に全国から反響が……

 まち居住研究会が総力を結集して取り組んだ『きょうから大久保』は、 お陰様で朝日新聞(平成12年10月12日・東京版)と、 共同通信の配信(ただいま現在進行形で、 各地の地方紙に掲載されているもよう…)で紹介され、 東京はもちろんのこと、 岩手、 山形、 福島、 千葉、 石川、 京都、 大阪、 兵庫、 広島、 岡山、 徳島、 香川から問い合わせがありました。 「日本人と外国人の共住」というテーマが全国的な関心事になっていることを再認識させられました。

 不動産屋さんや家主さん以外にも、 大学の留学生受け入れ担当者、 外国人研修生を受けれている団体、 国際交流協会、 多文化共生の活動団体、 都市整備公社、 昔住んでいた大久保が懐かしくなった方などからの問い合わせです。

 一方『きょうから大久保』は、 11月から新大久保駅北口の一伸堂書店(TEL. 03-3362-8009)にも置いてもらっています。 「これまでに10冊くらい売れたでしょうか。 買って行く人の7割は日本人。 外国人の場合は、 日本語の勉強をしている方が手にとって買っていきますね」と店主の清水さん。 この書店にある雑誌・書籍やCDは日本語のものが大半で、 お客も8割が日本人だそうです。 『きょうから大久保』については「これからでしょう。 じわじわと売れていくんじゃないかなあ…」と言ってくださいました。 今後とも応援よろしくお願いいたします!


日本の賃貸借契約をグローバルスタンダードに!?

「日本の住宅賃貸借契約システム改善提案」をまとめました。

報告書の目的

 まち居住研究会では、 1998年度に諸外国の賃貸借契約システムを日本と比較する勉強会を行いました。 その勉強会やメンバーの議論を通じて、 “日本の賃貸借契約システムの改善すべきところ”が何となく見えてきました。 そこで、 過去の研究会の調査研究成果も活用しながら、 私たちで賃貸借契約システムの改善方針を描いてみよう、 と考えたのがこの報告書づくりのきっかけです。

 ここでは、 「外国人」という視点を通しながらも、 日本人・外国人にかかわらず家主側・賃借人側が納得でき、 グローバル・スタンダードとなり得るような合理的な賃貸借契約システムとするための方針や提案を示すことを目指しました。 特に、 市民活動グループという立場を活かして、 できるだけ現実の生活実感を伴った具体的な提案を盛り込もうとしたものです。

 今後、 行政や業界団体が賃貸借契約システム全体の改善を図っていく上での資料として、 あるいは現実に外国人への賃貸借を実施したり検討している不動産業者・家主の方々の参考資料として、 大いに活用していただくことを願ってまとめています。

*日本の賃貸借契約システムは地域による違いがあるが、 ここでは主に首都圏の事情をもとに改善提案を作成。

*2000年3月より新たに「定期借家権」が導入され、 日本の賃貸借事情も今後大きな変化が予想されている。 しかし、 従来の「借家権」による賃貸借契約システムも存在し続けること、 また「定期借家権」導入による影響は未知数であることから、 ここでは従来の「借家権」に限定して課題の抽出や改善提案を行った。


報告書の概要

 報告書の『総論』の部分について、 以下に概要を紹介します。

1。 賃貸借契約システムの国際比較からみた日本の特徴

 日本の賃貸借契約システムを欧米3カ国(フランス、 ドイツ、 アメリカ合衆国)と比較してみると、 入居時の礼金等の慣習的な仕組みや、 入居後には家主からの解約や更新拒否が難しい点など、 いくつかの特徴が浮かび上がってきた。

2。 外国人賃借人をめぐる問題点

 日本で外国人が住宅を借りる場合の“賃貸借契約システム”に関連する問題点について、 ・の日本の特徴を踏まえながら整理した。 賃貸借契約システムの慣習的な仕組みや不合理な部分が、 入居する外国人にとって問題になると同時に、 家主や不動産業者にとっても問題であることがわかった。

・外国人に対する入居差別
 民間賃貸住宅では「外国人」の入居を拒否している物件が少なくない(外国人だけでなく、 高齢者や小さい子どものいる世帯、 障害者世帯なども資格制限を受けやすい)。

・保証人を探すのが困難
 外国人にとって「保証人(連帯保証人)」探しが困難。 その結果として、 トラブル時の連絡先や仲介役としての機能を果たせない人が、 単なる名義貸しで保証人になってしまうケースなどは、 かえって家主側にとっても問題。

・日本語力を含む入居審査の厳しさ
 入居審査のため多様な書類が必要とされる。 入居資格を「日本語を話せること」に限定している場合もある(家主や不動産業者にとっては自分で外国語に対応することは難しく、 言葉のサポート体制もほとんどない)。

・敷金と連帯保証人による債務保証の問題
 債務の担保として、 賃借人は家主に敷金(一般的に家賃の2カ月分くらい)を預け、 連帯保証人も必要。 実際の訴訟は通常3カ月以上の家賃滞納があって初めて成り立つことから、 一般の敷金額だけでは家主はリスクを抱える。 連帯保証人も、 日本では法的手段に訴えるケースが少なく、 主な役割はトラブル時の仲裁役や連絡先となっているのが実情。

・慣習的に行われ目的が不明確な「礼金」「更新料」
 礼金や更新料は、 慣習的に行われ目的が不明確で、 賃貸管理に関わる業務も含めた不動産業者への報酬とされる場合もある。 近年の不動産仲介・管理業務の変化・多様化にもかかわらず、 その業務や報酬の仕組みが慣習的なままであることが問題の根底にある。

・契約期間のバリエーションのなさ
 首都圏では2年以外の契約期間のバリエーションがほとんどない(日本では賃借人からの解約が比較的簡単・自由であり、 家主にとって短期で退去されると空室発生のリスクが高まるため、 礼金が担保となっている面もある)。

3。 賃貸借契約システムの改善提案の概要

 1.2。 の整理を踏まえ、 賃借人側・家主側の双方が納得でき、 グローバルスタンダードとなり得るような賃貸借契約システムの改善提案を検討した。 その際の視点は、 大きくは、 1)保証人・敷金・礼金・更新料等の目的を明確化する、 2)慣習のまま固定化するのではなく、 システムに柔軟性を持たせる、 3)契約期間や債務保証の方法などの選択肢を拡大する、 の3点である。

 ・保証人の機能を再整理し、 各機能ごとに代替手段を認めるなど柔軟に対応……保証人による「保証」の目的は、 実際には「債務保証」「人物保証」「連絡先・仲裁役」等に分類され、 保証人が見つからない場合には、 それぞれの目的に応じた代替手段を用意し認める。 (例=「人物保証」:家賃完済証明やクレジット歴、 「連絡先・仲裁役」:債務保証を伴わない個人・学校・所属機関も可能とする)

 ・敷金の増額や共済・保険等による現実的な債務保証の仕組みをつくり、 その採用を認める(例=連帯保証人の負担を軽減する共済・保険等の仕組みを採用、 連帯保証人がいなくても敷金額を増やしたり、 共済・保険等で代替可能とする)

 ・入居審査基準について一部代替手段を認める(例=収入証明:家賃完済証明、 クレジット歴、 金銭的保証〈敷金・共済等〉の増額)

 ・礼金・更新料をなくす仕組みをめざし、 当面は礼金・更新料を分割して支払う方式を選択可能とする……礼金・更新料は国際的に見てもほとんど例のない不明瞭な仕組みであり、 契約期間の固定化や管理業のあいまいさなどにも影響を及ぼしていることから、 礼金・更新料はなくし、 家主と賃借人の双方が納得できるシステムづくりを目指す。

 ・途中退去のペナルティを含めた仕組みをつくり、 契約期間のバリエーションを増やす……2年以外(例えば1年)の契約も認め、 期間に合わせて礼金等を含めたシステムをつくる。 家主にとっての途中退去のリスクを考慮し、 途中退去の場合のペナルティも含めた仕組みを検討する。

 ・不動産仲介・管理業務とその費用負担のあり方を明確化する……不動産業、 特に不動産管理業務の内容を明確化し、 家主と不動産業者の双方が納得の上で必要に応じて家主から管理会社へ委託する方式とする必要がある。

4。 外国人賃借人をめぐる居住の総合的な支援に向けて

 外国人の民間賃貸住宅での受け入れを推進していくためには、 「賃貸借契約システム」の改善とともに、 外国人賃借人や家主、 不動産業者に対して、 国や地域行政、 不動産業界団体等が連携し、 外国人賃借人をめぐる居住を総合的に支援していくことが必要である。 そのために、 市民活動グループ「まち居住研究会」の立場から、 これらの課題に取り組むための提案・要望をまとめた。

1)賃貸借全般に関わる環境整備
2)外国人居住をめぐる総合的な支援
(文責=塩路安紀子)

*この報告書の発行は2000年5月、 まとめは荻野政男および塩路安紀子が担当しました。

 

●『日本の住宅賃貸借契約システムの改善に関する提案』目次

1. 本報告書作成の背景と趣旨
  (1)背 景
  (2)本報告書作成の趣旨
  (3)構 成
2. 賃貸借契約システムの改善提案
2-1 総 論
  (1)賃貸借契約の国際比較からみた日本の特徴
  (2)外国人賃借人をめぐる問題点
  (3)賃貸借契約システムの改善提案の概要
  (4)外国人賃借人をめぐる居住の総合的な支援に向けて
2-2 各 論
  (1)敷金     (2)礼金
  (3)更新料    (4)保証人
  (5)契約期間   (6)入居資格・審査
【補足】定期借家権について
    資料:賃貸借条件の国際比較
 

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