もともと地域コミュニティが自己完結的に行ってきた機能が失われてしまった今、 それらを行政サービスで埋めていかなければならないという現実があります。 NPOの役割は、 行政には出来ないサービスをすることだと思います。 その違いは行政サービスが一方的に与えるサービスであるのに対して、 NPOのサービスはそのサービスを通じてお互いに対話が出来ることだと思うのです。
またNPOは行政とはまだ対等ではないというお話がありましたが、 やはりこれからは対等な立場でやらないと続かないと思います。
もう一つは、 まちづくり協議会についてです。 第1部で小森先生から、 まちづくり協議会は都市計画事業を進めるための手段になっているとの指摘がありましたが、 私もまちづくりの現場でそう感じることがあります。 そもそも白地地区のまちづくり協議会とか黒地地区のまちづくり協議会という言い方自体、 本来的にはおかしいと思います。 なぜなら、 まちづくり協議会は都市計画に従属するものでも都市計画を排除するものでもないからです。 それに対して、 中山久憲さんからいくつかの反論があり、 今後はまちづくり協議会の提案が都市計画に生かされるというお話でした。 これは復興まちづくりで得た成果だったろうと思います。
いずれにしても、 震災復興においては、 白地とか黒地といった区域内ばかりではなく、 その境界線上の地域で問題が発生することも多いようです。 例えばもともとのコミュニティを分断して別々の指定を受けることになったところでは、 相互の住民はいつまでも欠落感を抱いています。 そういう状況の中、 もともとのコミュニティはどんな役割を果たせたのかを、 あるいは果たせなかったのかを聞いてみたいと思っております。
また、 コンパクトシティの考え方についても、 区域のあり方がどう決まるのか、 コミュニティはどう連動していくのかをどなたかに答えていただければと思います。
まちづくりという言葉が何を意味するのかを私なりに考えると、 そこで心地よく暮らしていくために、 いろんな仕掛けをすることだろうと思います。 中でも、 今日のお話でたびたび指摘されたように「人づくり」が大事だということは、 私も実感できることです。 地域の中の人材という存在もあれば、 NPOのように地域外からやってくる人もいると思います。 今まで地域を盛り上げる人と言えば、 自治会や町内会のように活動範囲が地域内に限られた人たちだったと思うのですが、 これからは線引きしないでいろんなところからいろんな人がやってきて活動できることが必要ではないでしょうか。
私は今仕事で、 七つか八つのまちづくり協議会に関わる機会がありますが、 中村順子さんのご指摘のように同じ顔ぶれがいくつもの団体を歴任していると思います。 同じ顔ぶれだと気心も知れるから話し合いが楽チンなんだろうと思いますが、 やはりそれでは発展性がないのではないでしょうか。 ですから、 いかに人材を探していくかが大事だろうと思います。 そのためには、 立場が違っても気軽に参加できる仕組みを見つけていかないといけないと思っています。
今のまちづくり協議会のメンバーも、 けっこう従来の年齢や立場など縦割りで決められている感じで、 時間がない人や賃貸に住んでいる人、 若い人にはほとんど縁のない組織になっています。 そんな人たちも参加できる仕組みを見つけていくべきだと私は思っています。 今は無縁の人も「自分たちも街のために活動できるのだ」ということが分かれば、 きっと元気になるはずです。 住民が街に何かを提供し、 街も住民に何かを提供する関係性を幅広く実現していくべきだと私は考えます。
そのためにも、 今まちづくり活動をしているのだという情報を広くPRしていく必要があるでしょう。 知らなかったら参加のしようがないのです。 情報伝達の仕方で巧い方法があれば教えてもらいたいと思っているところです。
我々ハード系の人間は、 70年代後半から80年代には調査費がどんどん出て沢山の仕事をすることができました。 ところが、 中村順子さんのお話を聞いていますと、 今はそんな仕事がぜんぶNPOの方へ行っているようですね。 そんな時代ですから、 まちづくりについては我々ハード系の人間はいさぎよくNPOのようなソフト系の人間にバトンタッチしてもいいんじゃないかと思いました。 あるいは、 森崎さんのように従来型の専門家から脱皮していくのも、 これからのハード系の人間の行くべき道なのかなとも感じました。
どちらにしても、 まちづくりにはやはり行政との関わりは欠かせませんが、 行政も従来のありようから脱皮していかなければ、 対応できないと思います。 そこで中山さんには、 中村さんや森崎さんがおっしゃった行政への注文を聞いて、 行政のあり方についてどうお考えなのかを告白していただければと思います。
特に震災をきっかけに大きく変わりました。 中山さんが行政の立場で苦労していることは重々分かっていますが、 もう行政主導の時代じゃないよ、 と思いました。 やはりこれからのまちづくりは中村順子さんに代表されるようにNPOが主役になっていくのじゃないかと感じています。 中村さんのお話をうかがっていると、 私達がやろうとして出来なかったことを次々に具体化されているようです。 それは私達にとっても感激で、 まちづくりはいよいよ素晴らしい時代に入ろうとしているという印象を持った次第です。
まちづくりを単純に考えると、 お節介をする側と受ける側という見方が出来ると思います。 私も真野で20数年、 お節介をしてきたのですが、 やりすぎたと反省することがあります。 中村順子さんの所属するCS神戸もお節介をする側なんですが、 NPOとしてお節介をどこまで出来るのか、 すべきなのかの境界を見つけることが、 これからの課題になってくると思います。
小森先生のお話の中で、 アーバン・ガバナンス、 つまり共治という言葉が出てきましたが、 まちづくりの現場では一体誰が共治できるのか。 よく言われる「みんなでやる」というのは現実にはあり得ないわけで、 実際は誰かが牛耳らないと動いていかないんです。 中村さんが輝いて見えたのは、 多分中村さんが東灘の区長より区長らしい役割を果たしていたからじゃないかと思います。
誰かがお節介で牛耳ってしまう世界が、 これから求められているのかとも思いました。 中心市街地活性化法があっても、 それを生かせないのは地域の中で牛耳る人間が出てこないからです。 今までは商店街のおっさん連中が出てきて、 地域を牛耳ろうとして、 足の引っ張り合いをして、 結局何もできないという話になったのです。 中村さんが彼らと違うのはお節介を焼きながらいつの間にか牛耳っているところで、 それがこれからのまちづくりなのかと感じています。
烏合の衆じゃまちづくりは出来ないんです。 やはり牛耳る気迫がいるのです。 震災後の鷹取でも「野田十勇士」みたいな人たちが集団指導体制でまちづくりをひっぱっていて、 なかなか面白い展開をしています。 長田の御蔵地区でも、 ある奇特な社長さんが現れてまちをどうしようかと動いているうちに、 若者が回りに集まって、 まちコミュニティが出来つつあります。 まちづくり条例やまちづくり協議会にこだわるのではなく、 また地縁とか団体に関係なく新しい動きが出ているのです。 私はその動きに注目しています。
上田耕蔵(神戸協同病院院長):
今の宮西さんのお話は大変インパクトがございましたが、 きっと中村さんは内心「アホか」と思いながら聞いておられたんじゃないでしょうか。 中村さんがやっておられる活動は、 全然別の発想だと思います。
震災後に私もいろいろ考えたのですが、 結局今までのまちづくりは過去の遺産に頼るばっかりで、 新しく何かを生み出すものには至らなかった。 そもそも今までのまちづくりが男の発想で行われています。 「牛耳る」という発想そのものが男のものでしょう? これからはそんな発想で一時的にみんなを引っ張っても、 しょせんみんなを納得させることは出来ないと思うのです。 やはり、 古い男は退場せなあかんし、 それでもまちづくりをやりたいのなら中村さんの弟子になった方がいいんじゃないでしょうか。
宮西:
ちょっと待って下さい。 1人が独裁者になれとしゃべったつもりはないんです。 確かに僕みたいな独裁者はいなくなっていいと思うのですが。
上田:
いや、 宮西さんはまだ必要ですので、 しばらくはいてくださいよ。
司会:
では時間もそろそろなくなってきましたので、 最後にパネラーの方に一言ずつお願いします。
コメンテーターより
コミュニティのあり方について
都市調査計画事務所 田中正人
中村順子さんのお話をうかがっていると、 今後、 僕らハード系のまちづくりコンサルタントの仕事はなくなってしまうのじゃないかと、 つい危機感を覚えてしまいました。
幅広く参加してもらう仕組みが必要
ジーユー計画研究所 中川啓子
私も田中さんと同じようにコンサルタント会社で、 今は主にまちづくり協議会のお手伝いの仕事をしています。
「生活者の視点」が市民権を得る時代
石東・都市環境研究室 石東直子
私は30年前から都市計画コンサルタントの事務所で働いてきました。 私はずっと市民、 生活者の視点をもって仕事をしていたのですが、 「それは、 専門家の仕事じゃない」とバカにされる時代が少し前まで続きました。 今日のお話を聞いて「生活者の視点」がやっと市民権を得る時代になったと思います。
まちを牛耳るくらいの気迫を持ちたい
神戸・地域問題研究所 宮西悠司
まちづくりプランナーをしている宮西です。 私は30年ずっとまちづくりの活動を続けてきましたが、 今日の1部、 2部を通じてみなさんの素晴らしい発言をうかがい、 つくづく時代は変わってきていると感じました。
このページへのご意見は阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワークへ
(C) by 阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク
学芸出版社ホームページへ