育てる環境とコミュニティ
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

1 話のはじまり

改行マークプランを放棄したプロセスプランナー、 小林さんの壮大な夢が1年を経て今、 目の前に現れようとしている。 彼の夢の片棒を担ぐ機会を与えられたことにまずは感謝しよう。 この1年の試みが何であったのか、 これから徐々に明らかになっていくのだろうということにようやく気がついた。

改行マークことの始めからすべての震災復興住宅の入居者すなわち仮設住宅の居住者に対する「暮らしの再建支援」というプログラムは、 小林さんの頭の中にあったのだ。 そして確かに現在この南芦屋浜のプロジェクトを足がかりとして被災地全域で入居予定者の事前交流事業という形で入居者への暮らしづくりの支援は実現している。

改行マークそのために必要なものはワークショップであれアートであれ何でも使えるものは使おう、 ということだったのだと思う。 そしてこのプロジェクトはワークショップの可能性を広げる意味でも貴重なフィールドとなった。

改行マーク今回のプロジェクトで学んだ最も大きな発見は、 プロジェクトに対する理解あるいはその受容プロセスはそれ自体「創造的なプロセス」になりうる、 ということだった。 受容的創造性は、 協同性を育む契機となる可能性を持っているということである。

改行マーク世界鷹取祭の会場での立ち話の中で小林さんが語った言葉を覚えている。 「問題はしだいに減っている仮設住宅に残された人たちだ」。 この時期仮設住宅は2年目を迎え、 元気な人から仮設をあとにし、 残された人の生活にも疲れが色濃く現れていた頃だ。 小林さんはワークショップを生活のトレーニング、 元気づくりに役立つと考えていたようだ。 何かを作るわけでもないのにワークショップで何が可能だろうか? 漠然としたこの疑問は多くの人を巻き込みながらこのプロジェクトに持ち越された。

改行マーク1996年12月20日、 公団復興本部の会議室に集まった人たちにとって「暮らしのワークショップ」も「コミュニティ・アート」も何のことだかさっぱり共通イメージを持てないヤッカイなことであったに違いない。 「どうしてこんなことをやらなくてはいけないのだろう???」。 たくさんの資料や説明を受けて、 ぼく(伊藤雅春)が『育む』をテーマにどうにか全体のイメージをつかみメモを作ったのが3月になってからである。 実際のワークショップは、 5月25日に第1回を迎え11月までの間に6回が行われた。 すでに建設が始まっているプロジェクトに対してしかも入居者がいまだ最終決定していない団地を対象にして何を話し合うのか、 話し合った成果をどう反映していくのか関係者の悩みはつきない。

改行マークワークショップには、 実際にその場にいないと伝えられない現場情報が多い。 ワークショップの事例報告を読んでも何がそんなに面白いのか読んでいる方にはわかりにくいのが常である。 このワークショップのわかりにくさは、 ワークショップの最終的な目標がまだまだ明確に発見されていないことにも関係していると思う。 いわく「ワークショップをやればよいというような風潮がある」「ワークショップではよいデザインはできない」「デザイナーの役割が分からない」。 これらは単にワークショップを住民サイドの情報提供としか見ていないことに結びついた疑問である。 もしそうであるならばすでに建物の計画変更が不可能な現実の中ではワークショップの実質的な目標は失われてしまう。

改行マーク今回のワークショップの明確な目標は何か? そのことが最大の課題であり、 また新しい発見の源泉であった。 コミュニティ・アートの舞台である外構計画(庭づくり)も現実にはアーティストの仕事であり、 一緒に計画案を作り上げるというような機会にはなりえなかった。 何かを生み出したり、 計画やデザインしたりするのではないワークショップの創造性とは何か。 その「創発」プロセスはそもそも可能なのか不可能なのか? 根本的な疑問を抱えたままのスタートとなった。

改行マーク各回のワークショップの記録を振り返って、 参加者の「意識」の中にこの答えを探ってみよう。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見は南芦屋浜コミュニティ・アート実行委員会

(C) by 南芦屋浜コミュニティ・アート実行委員会

阪神大震災復興市民まちづくりへ
学芸出版社ホームページへ