入居者は自宅が全、 半壊したケアを要する障害者、 高齢者であるから30歳代の脳性麻痺の青年、 50歳代の精神障害や知的障害者、 80、 90歳代の痴呆症や身体障害者、 そして虚弱な方々など年齢と障害が多岐にわたっていた。
福祉先進国でも例を見ない世界初の年齢、 障害種別を越えたグループホーム的な住まいの出現である。
当初は医療がとぎれ、 食事を自力で作れる人が少なく、 これまでの栄養の偏りもあり、 救急車を要請する事態が続出した。 地震の恐怖、 家財の喪失に加えてPTSD(心的外傷後ストレス症候群)をはじめ精神的に不安定な状態の人が多かった。 保健婦も配置していたので医療とつなぎ、 多くのボランティアを組織化し、 ダイニングルームでの昼食づくりを定着させた。 夕食は市のハートフル福祉公社の配食サービスを利用できるようにした。
そして援助員による全てを受容し、 「一人ひとりの人間の尊厳を守るケア」の姿勢の徹底と頻繁に行うお茶会や外食ツアー、 一泊旅行や四季の行事などの愉しいとりくみを充実させ、 心のケアに努めた。 その結果、 見事に落ち着き、 酷暑の夏であったにもかかわらず元気に過ごされた。 特に社会からも家庭からも阻害されていた精神障害の方々4人はアットホームで安心なケア付き仮設の生活になじみ大変落ち着かれた。 主治医も驚くほどの改善が見られ、 環境とケアが整うと精神障害の人たちの社会復帰が可能であることを実証した。 以来3年余りが経つ。 95年10月に実施された神戸大学の児玉先生(当時)と学生による入居者調査において入居者の87%が満足と回答し、 高い支持をうけた。 21世紀の超高齢社会における理想の住まい方として全国からも注目され、 研究者やマスコミが殺到した。
この住まい方を分析してみると、 その第1はチーム方式による援助員の24時間常駐体制による“安心”とケアの即応性、 継続性、 総合性であろう。 第2は障害の違いは残存能力の違いでもあるので、 その残存能力をお互いに生かし合う共生の姿である。 第3は地域密着型であるから家族・友人・ボランティア等のインフォーマルなケアが高まること。 第4は「住宅」であるからヘルパーをはじめ在宅福祉サービスや訪問看護などの医療・保健サービスを活用できること。 第5は1棟14人と少人数であるから心身の異変を素早くキャッチでき、 予防に効果があること。 第6は、 一切の規制がなくこれまでと同じ生活の質が高く保たれ老人ホームより職員の数が少なくてすむこと。 第7はトラブルも含め適度な緊張関係があり社会性の維持、 生活意欲の向上がはかられ、 自治共生意識が次第に醸成されること、 などがあげられる。
多くの在宅福祉サービスを持つ特別養護老人ホームや保健・医療サービスなどを持つ拠点施設のまわりに、 このような住まいを点在させたいと思う。 ケアを要する状態になっても自立した暮らしが継続でき、 大災害が起こっても拠点施設が普段から地域の障害者・高齢者をよくみているので敏速な保護が可能になる。 グループホームだけでなくシニア住宅、 コレクティブハウス、 シルバーハウジングなど多様な高齢者の住まいも整備し、 各種サービスを段階的に、 有機的に連携させておくことがこれからの福祉のまちづくりであり、 防災のまちづくりであろう。
2 仮設住宅の取り組みと成果
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