ケア付仮設住宅で「これまで体験したことのないような、 安らぎの場」を経験した高齢者にとって、 復興住宅に住めるようになっても、 馴染みのない地域と未知の人々の中で身体や病気の不調をかかえながら、 独りで生活することは“大きな不安”である。
まして、 芦屋市の復興公営住宅の7割814戸(県営414戸・市営400戸)は海を埋め立てた街シーサイドタウンのさらに沖合を埋めた南芦屋浜に建つ。 今後10年の歳月をかけて完成する街で、 現在公営住宅が建つ陽光町を除き、 まだ荒涼たる風景が広がっている。 市街地から遠く離れているにもかかわらず、 昼間のバスの発着は1時間に約2本程度である。 生活利便施設も小規模なものが一つ二つあるのみで、 医療機関は1年後の開設である。 生活の激変による体調不良が予測される最初の1年を高齢者はどのようにして過ごすのであろう。
住まいも鉄筋コンクリートで頑丈ではあるが、 住み慣れない高層住宅であり密閉性も高い。 室内にはハイテク機器が装備されているが、 順応性を失った高齢者がすぐに馴染めるとは思えない。 ケア付仮設から転居した高齢者は、 その多少はあっても心身に障害をもちケアを必要とする人たちであるからなおさらである。 一般仮設から転居した高齢者もほとんど似た状況にあるのではないか。
衰えていく身体、 老いゆえの寂寥と孤独、 未来に希望が持てない生活の中で不測の事態が起きる事も予測される。 自立を言うあまり高齢者が必要とするサービスを惜しんではならない。 ケア付き仮設の経験によれば、 必要なサービス提供と暖かい人間交流、 そして愉しい行事の中でこそ「いっそひと思いに死のうと思ったが、 生きていたからこそ、 こんなに愉しい思いもできるのだ」と自立への意欲を高めた人が多かった。
4 仮設住宅からの転居と課題
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