育てる環境とコミュニティ
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5 シルバーハウジングの現状と課題

改行マーク芦屋市はケア付き仮設の実践と、 これまでとは様相を異にする被災高齢者の状況を憂慮し、 シルバーハウジングに24時間体制で生活援助員(ライフサポートアドバイザー以下LSA)を複数で常駐させるLSA派遣事業ならびに全814戸のうち被災高齢者を対象にした自立生活支援事業を当法人に委託し、 98年4月より事業を開始した。

改行マークシルバーハウジングにおけるLSA業務の主要なものは、 (1)相談活動 (2)安否確認 (3)緊急通報への対応 (4)一時的家事援助 (5)高齢者自立生活支援事業である。 私たちは家庭訪問活動を積極的に実施することで、 相談活動・安否確認・一時的家事援助の充実を図っている。 これらの活動を通じて、 市営住宅400戸、 県営住宅414戸からなる南芦屋浜団地の実態が明らかになりつつある。

改行マークまず、 814戸のうちシルバーハウジングは230戸であるが、 要支援・要介護の高齢者は、 それにとどまらず200戸ある高齢者向け住宅、 その他の一般住宅にも及んでいるということである。 特に高齢者夫婦世帯は一方に痴呆症や身体的な障害があっても他方がカバーするということで生活の破綻が見えにくく、 問題状況が潜在化しがちである。 さらに一般住居の昼間独居の世帯については、 状況・問題点の把握そのものが困難である。 一方シルバーハウジング入居者の中には就労している方もあるなど多様であり、 LSA業務の対象はシルバーハウジング入居者に限定することはできず、 814世帯のうちの5〜6割を視野にいれなければならないというのが現実である。

改行マーク次に仮設住宅の問題としてすでに指摘されていたことであるが、 痴呆症、 アルコール依存症、 精神的不安定になっている方々のかかえる問題である。 環境の激変、 生活利便施設の不十分さ、 これまでの人間関係がなくなることによる孤独感などが増幅されているように見える。 「今日も誰も来てくれなかった」「話し相手がいない」など悲痛な叫びが聞こえてくる。

改行マーク反面、 比較的お元気な方々は、 仮設時代のサークルが再開されたり、 毎朝のラジオ体操のグループが生まれたりと積極的な面が出てきている。

改行マーク以下に事業開始後2か月目を迎えた5月度の「南芦屋浜団地シルバーハウジングLSA業務報告」をそのまま記したい。

 

5月度シルバーハウジングLSA業務報告 1998.6.1
 
〈1 基本業務〉

(1)訪問活動(安否確認)

延べ件数 そのうち面談できた延べ件数
市営住宅 1,060件 550件(51.9%)
県営住宅 1,199件 436件(36.4%)
合  計 2,259件 986件(43.6%)
1日当たりの訪問件数…72.9件 面談件数…31.8件
(再掲)シルバー以外の訪問件数293件(1日あたり9.5件)
全体の訪問件数の13.0%にあたる

(2)緊急通報

123件(誤報121件) 1日あたり4.0件
そのうち水量センサーの発報19件・シルバー以外の発報8件

〈誤報以外の内容〉
・室内で転倒し上腕部の痛みの訴え
・たまたま来所していたあしや喜楽苑の車輌で整形外科へ移送し、
受診したところ骨折と判明
・買い物に行こうとして廊下で転倒、 後頭部の打撲および裂傷、
 救急車の出動を依頼。 入院となる。 家族にも連絡。

(3)相談活動

来所相談 227件 その内シルバー以外93件

(4)一時的家事援助

30件(シルバー以外2件)
・通院介助…2件 ・クーリングオフ手続きおよび業者との交渉
・発熱時の買い物 ・買い物同行や入浴の準備
・歯が悪く公社の弁当がたべられないとお粥を作る など

(5)自立生活支援事業

ア 集会室の使用について、 自治会が発足するまで使用許可が出ないので、 県集会所談話室を使ってもらうことで、 5月18日に折り紙教室、 23日に書道教室の開催が実現できた。
イ 会話ボランティア1名が毎週金曜日に来所、 3軒程度訪問してもらっている。
ウ 閉じこもりがちな方、 軽度の痴呆の方等には集会所へ来るよう積極的に働きかけることで、 毎日あるいはしばしば来所される方が増えている。 また、 それらの方々を相互に紹介することで新しい人間関係も生まれ始めている。

〈2。 この間の入居者の特徴〉

(1)「寂しい」「話し相手が欲しい」等の訴えがある。
(2)訪問時に「体調が悪かった」「入院していた」等の話が出ることがある。
(3)痴呆症、 アルコール依存症および精神的不安定な人が予想以上に多い。
(4)自転車での転倒が2件あった。
(5)シルバー住戸入居者の中には就労している方もあり多様である。
(6)要支援・要介護の方は高齢者住戸、 一般住戸にも及んでいる。
(7)一般住戸の昼間独居の高齢者は、 状況、 問題点の把握が困難である。
(8)高齢者夫婦の場合も問題状況が潜在化しがちである。
(9)比較的健康な方々は仮設時代のサークルの再開や、 毎朝のラジオ体操のグループが生まれたりと積極的な面がある。
(10)安否確認の訪問については概ね受け入れられている。 ただ、 一部拒否的な方と、 再三来てほしいと言われる方がある。

 

 現状と課題が見えてくるとともに、 切羽詰まった状況にありながら隠れているニーズ発見にLSAが日々走りまわっている状況と本来業務よりかなり踏み込んだ援助を要していることが分かる。 なおLSA体制は昼間は市営・県営のコミュニティプラザに各2人ずつを配置、 夜間は市営のコミュニティプラザに2人の配置と決められている。 委託費の中で人件費をまかなうためにはコーディネーターを含む正職員のLSA 2人と非常勤のLSA 9人が限界である。 しかし、 この人数で24時間体制を確保するためにはかなり厳しい労働実態を余儀なくされている。 全戸の移転が終了し、 対象戸数が増え、 時間も経過していくなかで不測の事態が起きないように支援するためには、 訪問活動をさらに密にする必要があり、 LSAの配置を豊かにすることが必要である。

改行マーク今後の課題は住民の実態に見合った多様な福祉サービスを整備充足させること。 住民同士の交流の場を幾重にも作り、 人間関係・生活関係を広げていくこと。 団地内の生活問題の理解とその解決・軽減に向けた努力、 さらにはそれらの政策化を通じて住民の自治=民主主義が定着していくこと。 その力で医療・保健・福祉などの行政レベルのネットワークに住民が主体的にかかわり、 福祉活動・事業を積極的に展開し、 福祉の町づくりに発展させていくことであろう。

改行マーク最後にシルバーハウジングのハード面での問題点を若干指摘しておきたい。

改行マーク(1)シルバー住戸ならびに老人世帯向け住戸が、 各住棟に垂直配置で縦積み重なっているため、 将来ケアを必要とする人たちが増加した場合、 ケアサービスを提供したり団欒や共生を育むことができない。 また防犯上、 エレベーターが各階に停止するよう設定されているので高層階の住戸からの通報の際にはLSAが階段を駆けのぼらざるを得ない。

改行マーク(2)市営と県営で非常通報システムのメーカーや機器が異なっているため、 LSAが戸惑い非効率である。

改行マーク(3)住居内で骨折するという事故があった。 原因は洗面所の引戸に付けられた手すりに体重をかけたら戸が動きバランスを崩したというものであり改善を要する。

改行マーク(4)コミュニティプラザが、 市、 県ともに各々400世帯対象のものとしては非常に狭い。 また、 住棟全体が見渡せず視覚、 聴覚とも死角となり、 老人世帯住戸の通報が聞こえない。 通報が廊下へ向けて発報されるのではなく、 シルバー住戸と同じくLSA室につなぐべきである。

改行マーク(5)県営住宅から西端の商業施設までの歩行動線がスムーズではない。

改行マーク(6)近い将来、 サテライト型デイサービスセンターの頻度を増やさざるを得ないと思われるが、 スペースがあまりにも狭く、 仕様も目的に沿ったものになっていない。

改行マーク(7)コミュニティプラザ内の配置が、 LSA室と談話室、 集会室が一体となったつくりなので、 LSAの執務に支障をきたすことがある。 またすべての住民の苦情処理的な業務に追われることも多い。 本来業務に専念できるような設計の工夫が欲しかった。

改行マークなお、 これらハード面での問題点は、 現産業技術短期大学の児玉善郎先生の指摘とLSAが感じている問題とを重ね合わせたものである。

改行マーク以上、 シルバーハウジングについてソフト、 ハード両面からの率直な現状報告を行ったが、 市営住戸400戸の高齢化率が55%、 平均年齢62.8歳の超高齢社会の厳しい実態のなかで、 LSA業務や在宅福祉サービスの量と質をどのように整備すればよいのか、 または住民の自治と連帯がどのように構築されれば、 安心して住み続けることができるのか、 などが明らかになってくるだろう。 そしてこれらの経験こそ、 21世紀に超高齢社会を迎える日本の試金石になるはずだ。 官民あげて南芦屋浜団地の実践に真剣にとりくむべきであろう。

(市川禮子/高齢者総合福祉施設あしや喜楽苑 総苑長)

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