少し議論がずれてしまうかも知れませんが、 コンパクトタウンに関してひとこと。
先ほど神戸市の本荘さんのお話を聞いていて、 神戸市にコンパクトタウンの取り組みがあることを初めて知りました。 特に東灘区では六甲アイランドと渦ヶ森がモデル地区になっていると聞いて、 かなり驚いています。
と言いますのも、 六甲アイランドや渦ヶ森は専門家が考えて計画的に作られたところですし、 近代都市計画の中で完成しているまちだからです。 なのになぜコンパクトタウンを導入しなくてはいけないんだろうと考えてしまいます。 おそらく、 ソフトな意味での新しい問題があって、 それをコンパクトタウンという横文字の計画に込められているのだと思うのですが、 いかがでしょう。
本荘:
コンパクトタウンのケーススタディ地区は全部で10地区あります。 神戸のまちの多様性を考慮し、 地形や歴史、 文化が違うそれぞれの地区から10地区を選んでいます。 ですからニュータウンだけでなく、 下町的な地区としては兵庫南部、 灘中央を選んでいます。 門前町としては須磨寺、 農村地帯からは大沢町が選ばれています。
コンパクトタウンに取り組んだ背景には、 現在それぞれの地区が抱える問題や、 今後現れるだろう問題があります。 都心周辺ではインナーシティ問題、 農村では地域の過疎化問題があり、 それに加えそれぞれの地区の共通の課題として高齢化が無視できない大きな課題になっています。
これは神戸市だけの問題ではなく、 大阪の千里ニュータウンでも高齢化が問題になっています。 神戸では昭和30年代後半〜40年代(1960年代)に六甲山南斜面にできた渦森台団地がそうですし、 今後は鴨子ヶ原、 鶴甲、 高倉台などの団地も高齢化問題に直面していくでしょう。 ニュータウンは同じ年齢階層が入居しているので、 高齢化は地域の大問題です。
ニュータウンにおけるコンパクトタウンの取り組みは、 こうした問題の解決のヒントを与えてくれるのではないかと期待しています。
六甲アイランドについて言うと、 マンションタイプの住宅群ですからコミュニティ作りがやりにくいという面があります。 また、 地域にはいろんな資源がありますが、 今後それをどう維持管理していくのかという問題があります。 今はRICが維持管理してくれていますが、 将来もそれを期待できるのか。 できたら地域自らが管理できるような主体を、 今から育てていく必要があると思っています。 地元自身にもそんな意識があり、 ケーススタディの一つとして調査をさせていただいています。
地区が抱える問題には、 今顕在化しているものだけではなく、 今後顕在化しそうなものもあり、 両方の問題についてケーススタディ地区で調査をしていると言うことです。
後藤:
私も、 地区が抱えるいろんな課題については分かっています。 ただ、 ニュータウンや六甲アイランドは、 まちと呼ぶにはあまりにも短期間で作りすぎたことを問題にしたいわけです。 京都のように千年かけてこそまちは本物だと言うつもりは毛頭ありませんが、 震災復興のまちづくりが5年で出来たというのはあまりにも薄っぺらいと思います。 せめて10年、 20年かけて試行錯誤しながら作っていった方がいいのではないでしょうか。
近代都市計画のもとで作られたニュータウンや六甲アイランドが30年たって頭打ちとなり、 住民の人からも「もう一度まちについて見直そう」という声が出てくるのは私にとってはうなづけることです。 でも、 その時、 私が一番心配しているのは、 私達のまちのイメージ像が随分と貧弱なのではないかということです。
コルビュジエを中心に出てきた近代都市のイメージ、 たとえば「輝ける都市」は、 本当に都市のイメージ像として正解だったのでしょうか。 これは20世紀の時代、 都市はどんどん成長するという発想で出てきました。 私もそれを疑うことなく、 20年間ニュータウンの設計に携わっていました。 しかし、 今になって、 都市はもう成長できない、 あとは福祉や年金の方にお金をかけなければいけないということがはっきりしてきました。 そんな目で今までのまちづくりを振り返ると、 郊外やニュータウンを作りすぎてしまったと感じています。
ですから、 21世紀を迎えた今、 私達にふさわしいまちのイメージ像を考え直す必要があると思います。 なぜ今、 都市の中で犯罪が頻発するかを考えると、 都市の中に適度な密度の空間が少なくなったからだと思えて仕方がないのです。 ですから、 駅前に大きな公園を作るのはもう止めた方がいいと私は考えていますし、 都市の中にある程度の視線の密度が必要で、 そうしたまちづくりの方向に進むべきだと思っています。
私が取り組んでいる東灘の岡本、 深江、 青木南は、 いずれも計画的につくられたまちではなく、 普通のまちです。 なぜまちづくりに取り組む必要があったかというと、 これらのまちには、 放っておくとラブホテルとパチンコ店しか出てこなくなるという危機感があったからです。 まともな土地利用計画がないまま空き地が放置されていると、 まちの環境はどんどん悪くなってしまいます。 ですから、 住民はまちづくりに取り組んだのです。
しかし、 私達の目標は、 再三強調していますが、 東部新都心のような作り込んだまちではありません。 もっと自然で、 J・ジェコブス的に古い建物や小さい建物がいろいろ混ざったようなまちを目指しているのです。 このやり方は近代都市計画では排除されてきましたが、 そんな20世紀的な価値観でまちづくりをするのではなく、 これからの価値観でまちづくりを進めたいと思っています。
そのようなまちづくりを進めるときに、 まちづくり協議会が何ができるかについて言及しておきます。 空き地にパチンコ店やラブホテルを建てさせないということは、 個人の私権の制限に立ち入ることになります。 そこまでしないとまともなまちの姿は保てないという認識を持つことが、 神戸型まちづくりの出発点であり、 まちづくりをする者の義務なんです。
そこで、 若い山本さんに少々厳しいことを言っておきます。 住吉浜手地区で、 まちづくり協議会を「まちづくりの会」に名前を変えただけではダメだと思います。 バザーをやったりコンクールをやったりするだけでは、 同好会じゃないですか。 それで本当に、 まちづくり協定や地区計画ができる団体になれるんですか。 まちづくりを進めるのは生半可なことじゃないんですよ。
私が思うに、 まちづくり協議会が出来ることと言えば、 近代都市計画を否定した新しい価値観に基づいてあるべきまちの姿を提示し、 J・ジェコブス的なまちを作ることだろうと思っています。 それをやっていくために私権の制限までするのですから、 自治会や各種団体、 企業と仲良くやっていく姿勢が必要です。 協議会は、 反対意見の人ともとことん話し合っていく場なのです。 気の合う人とだけ集まっていては同好会に過ぎず、 いつまでたってもまちのルール作りはできません。 ですから、 まちづくりにおける重要なポイントは、 反対意見を聞く度量を持つことだと申し上げます。
そんな話ができるプラットホームなり機会なりが必要だと、 年寄りである私は思いますが、 若い山本さんには、 今の話への反論がありませんか。 地区計画や建築協定をめざすのがまちづくりだという後藤流の考え方は古いということでしょうか。
山本:
今日は会場に住吉浜手まちづくりの会の方も来ていらっしゃいますので、 頑張って答えてみます。
まちづくりの会の名前については、 すでに呉田地区協議会という名前の組織があって、 地区の人もよく混同されていたので、 間違われないために名前を変えたといういきさつです。
確かに私達が今までやってきた活動は、 利害関係が伴わない親睦会のようなことばかりです。 本当は私達も認定団体になってまちづくり構想を進めたかったのですが、 無理矢理に押し通して周囲と摩擦を起しながら事を進めていくよりも、 自然な流れの中でまちづくりの話が出来るようにしたほうがいいのではないかと考えました。
当初はまちづくりの会と地区協議会がぎくしゃくしたこともありましたが、 いろんな活動を経て、 ようやく最近では地区協議会の人もこちらの役員会に参加していただく流れになってきました。 まちづくりの話し合いの舞台がやっとできたという感じです。
ですから地区計画や建築協定を古いというわけではありません。 これからを見ていただきたいと思います。
まちづくりが今、 目指すべきこと
近代都市計画をきちんと反省したのか
後藤:
まちづくりは遊びではない
後藤:
無理矢理進むより、 自然な流れで
司会:
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