天川佳美
ガレキに花を
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芽が出た、 花が咲いた

 

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改行マークなんと凛々しく清々しいことでしょう。 楠丘のコスモスは6月上旬に芽がでて、 7月25日に初めての花が咲きました。 私達はこの花を“希望の花”と呼びました。 それから約3ヶ月コスモスは咲き続け多くの人々に希望をもたらしました。 梅雨の間はか細い茎が雨に打たれて折れないかと心配し、 夏が来ると炎天下に枯れてしまわないかと水をまくのに苦労しました。 この地域は倒壊がひどい地区で水道もガスも復旧が随分遅れました。 そのために空地になってしまった場所の道路の一角に神戸市の水道局が蛇口を作ってくださり、 地域の人がみんなで使えるようになっていました。 我が社の隣の印刷屋さんもコンテナハウスを設置して仮の住まいと仕事場にしておられ、 私達も倒壊を免れたコンクリート3階建の方で八人がひしめきあって仕事場にしていました。 水やガスのない毎日を送っていましたが、 この水道のお陰で随分助かりました。 水やりにもこれを使わせていただいたのは違法かも知れませんが、 すでに時効ですよね。

改行マークこの場所は住宅地の中で大きな道路からはひとつ中に入っていますので、 本来は通りからはわかりにくいのです。 しかし震災後はからーんと空地が拡がり、 夏の暑い日差しを遮るものもないのですが、 たくさんの人がわざわざここを通って目的地への道とされました。 コンクリートの仕事場の窓から道行く人を眺めていると、 この場所で立ち止まり、 汗をふきながらほぉーと一息つかれたり、 買物の袋を道に降ろしてコスモスを眺めておられる姿を何度もお見かけしました。 そんな時はハサミを手に出て行って「どうぞコスモス持って行ってください」と声をかけました。 「まあぁいいんですか、 きれいですね、 これを見せてもらえるからここを通るのが楽しみなんです。 ありがとう、 震災で亡くなった家族に供えます」。 わたしは何と答えていいのか、 笑顔でいるだけが精一杯で声になりませんでした。 また夕方、 自転車を止めてコスモスを黙ってじっと見ておられる男性もおられました。 おそるおそる「よかったら切りますからどうぞ持って行ってください」といいますと、 にっこりして「ありがとう」。 自転車の後ろの荷台に花束をくくってうれしそうに帰って行かれました。 その男性は2〜3日後にまた自転車で来られ、「私はクリーニング屋をしてるものです。 先日はありがとうございました。 近所のおばあちゃんがほしいというんで、 またもらっていいですか」と言われ、 また自転車の荷台にくくりつけて笑顔で行かれました。 ずーと後になって花畑に今の建物が再建されてからこの人が来られました。 自転車を押して、 何かを探すように。

改行マーク「何かお探しですか」と聞きますと「この辺りにコスモスの大きな花畑になってる所があったんですが、 御存じないですか」と。 うれしかったことのひとつです。 こんなことは、 ここだけでなく、 花の咲いた各地でたぶんいっぱいあったことと思います。

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芦屋からの手紙
改行マーク感激しました。

改行マーク1回目の種蒔きの時、 芦屋市朝日が丘町のこのお家だけお断りできなかった場所です。 ゲリラで耕し、 種を蒔きました(天川の無謀その2)。 夏のある日、 避難先の大阪からなつかしいご自身の家の跡地に立ち寄られ、 どんな思いでこのコスモスの花をご覧になったのか、 一通のお便りがそれを教えてくれました。

 
 

     芽が出て蕾がつき、 花が咲くのを、 そこに住んでおられた方々が時々訪ねてくださるようになればと願っています。
    『きんもくせい』第10号

    「ガレキに花を咲かせましょう」

 
 
 まさにこのとおりになりました。 そして、 この方は今、 この場所にお住まいです。

改行マーク反響といえば、 こんなことがありました。

改行マーク95年11月にこの「ガレキに花を」の活動資金としてHAR基金の第1回助成をうけました。 HAR基金というのは―市民まちづくり支援基金―阪神・淡路ルネッサンス・ファンドの略称です。 この助成事業は九五年の春頃から発案され、 「復興まちづくり」に取り組む様々な地元組織の活動と、 それに協力する専門家の活動を資金的に支援するためにその年の秋に設立されました。 この事業基金の募金を全国に呼びかけるためのパンフレットの中に「ガレキに花を」の呼びかけ文が使われました。

改行マーク全国町並みゼミで久しぶりにNHKの永井多恵子さんにお会いしました。 HAR基金のパンフレットを渡し、 こんなことをやっていますとお話しして、 よろしくとお願いしました。 その後震災1年目ということで1月19日に永井さんが朝のニュース番組に取り上げてくださり、 その日だけでも20件以上の問い合わせをいただきました。

改行マーク募金の問い合わせだけではなく、 「ガレキに花を」への問い合わせもたくさんありました。 中にはご自分の庭に木を植えてくださるという申し出もありました。 緑花再生プロジェクトの第1段階の種蒔きのあと第2、 第3の「木」に移行していく―お家を建てられるようになったら「思い出の木」を植えましょう―と進むつもりでした。 その活動はもはや私達素人だけではとても無理で、 ランドスケープの専門家の登場が必要でした。 漠然とした案として私が書いたものを読み返してみると、
 

     全国の緑花に関わりのある業界の方々や自治体にお願いして、 苗木を育ててほしいという呼びかけをしようと考えています。
     5年もたつと苗木が成長します。 それをたとえば子供達が1本ずつ持って、 神戸を訪ねてくださいませんかと呼びかけたいと思っているのですが。
 
というようなことを95年の10月ごろに、 日本造園コンサルタント協会関西支部発行の『ランドスケープ関西』36号という冊子でインタビューに答えています。

改行マークこのころはまだ頭の中に漠然とあるだけで具体的に考えていた訳ではなかったのです。 家を建てられる人に記念に1本プレゼントして、 そのかわりもう1本以上をその家の庭や周りにご自身で植えてください。 というように呼びかけて、 街の緑を増やしていきたいと思っていたのです。

改行マークまた、 生垣を勧めるのに「生垣助成という制度があります」とか、 植木屋さんのリストをお教えするといったことも、 このころ考えていました。 生垣助成のお手伝いはその2年後に実際にやりました。 移動式生垣という素晴らしい発明も造園業界の専門家(桑原章さん)の発案で実行し、 神戸市内に今もたくさん設置されています。

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これが桑原さん考案の画期的移動式生垣です 出典:『ランドスケープ関西』No.36
第10・11回神戸景観・ポイント賞特別賞受賞
 

改行マークこれらはいずれにしても、 「ガレキに花を」から発展し、 やがてランドスケープ復興支援会議/阪神グリーンネットへと育っていきました。

改行マークそしてこの1年後に安藤忠雄さん達の『ひょうごグリーンネット』が発足しました。

改行マーク蛇足のようですがここに関連の資料をつけておきます。 いろいろな方が取材をしてくださいました。

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