今回の大都市直下型地震は、 神戸・阪神間の既成市街地の中心部である「インナーシティ」を直撃した。 木造の老朽化した低層住宅が密集するインナーエリアの多くは、 住商工が混在する下町的な市街地である。 この阪神淡路大震災の特徴は、 この下町的環境を破壊し、 多くの住宅が失われたとともに、 働く場や商店などの日常生活の場が失われた「インナーシティ災害」であった。
そこでは、 暮らしと地域の機能が密接に関連し、 住宅再建により人々はまちに戻り、 再び暮らしが始まらないと、 商業活動や生産活動も成り立たない。 また逆に、 まちの活動やコミュニティが再生されないと、 生活再建が難しい。 長田では、 工場や店舗が仮設であっても再開されているが、 まちに人がまだ戻ってきていない。 地場産業は、 工程の各部分を担う町工場がネットワークされることで成立しているし、 人々が戻ることで商店街も商売になる。 工場も商店も再開はしているものの、 経済的には厳しい状況が続いている。
このようなインナーシティでは、 基盤整備が不十分のまま、 住宅が密集している地区が多く、 また、 長屋や木賃、 文化アパートなどの民間借家住まいが多い。 高齢化も進んでいた。 このため、 暮らしの自力再建が困難がケースが多く見られる。
多くの被災者は、 住んでいたエリアに戻りたいという希望があるが、 密集した既成市街地内で、 低家賃の住宅供給を担う災害復興住宅建設の用地を確保することが難しく、 インナーエリアでの十分の公的住宅の供給ができない。
また、 借家経営が再建されたとしても、 再建に伴い家賃が高くなる。 都心に比較的近いことから、 土地が売られてマンションが建てられるケースもある。 これまで、 都市の流動性の高い人口や高齢者の住まいを支えていた低家賃の民間借家の供給がほとんどできないのが現状であり、 都市生活の多様性を支える基盤が消えつつある。