阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク
英語へ
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

2 災害公営住宅とグループ入居制度

震災復興のための公的賃貸住宅

画像s076
災害公営住宅のタイプとタイプ別比率等
 今回の震災復興のために活用された公的賃貸住宅制度は、 (1)公営住宅(市営、 県営)、 (2)特定優良賃貸住宅、 (3)住宅・都市整備公団住宅、 (4)再開発系住宅(都市計画事業用受皿住宅等)、 (5)改良住宅の5種類である。 神戸市住宅復興3か年計画ではこれらの公的賃貸住宅供給主体の総力を結集し、 被災市民の住宅確保に全力を挙げることとしている。

 それぞれ施策目的が明確で収入や世帯要件等の入居資格も定められているが、 今回の震災復興に際しては法律改正や制度改正により入居要件の緩和が図られ(2)(3)(4)および(5)の一部には被災者であれば入居が可能となった。 しかし、 家賃(入居者負担額)はそれぞれ運営主体により低額化の努力がなされたが、 本来制度の制約のもとに決定されるため、 必ずしも入居者の収入に応じた家賃(入居者負担額)にはならず、 低所得者がこれらの住宅に入居する動きは大きなものではない。 具体的には、 震災直後から特定優良賃貸住宅の建設・供給は順調であったが、 この制度が求める住宅の水準(住戸規模、 設備内容)が高く、 その結果、 当然のこととして家賃は低廉なものとはならず、 低所得の被災者の入居を受け入れやすくすることにはならなかった。 (後に補助制度の改善により一層の入居者負担額の低減化が図られたが大きく状況を変化させることはできなかった。 )また低所得であることに加え、 被災者の中には高齢者が多く、 更には身障者を含む世帯・母子世帯など居住の確保や住宅そのものに特別の配慮を必要とする世帯も少なくはない。 このような被災世帯の住生活の安定のためには公営住宅の供給が最も有効であり、 現実にも強く求められた。 神戸市において「すまいの復興プラン」の策定を行い、 公営住宅の供給戸数の大幅な拡大を図ったことは、 こうした状況を端的に示すものである。


災害公営住宅の計画・設計

 供給戸数が膨大であること、 早期供用開始が求められていること、 居住予定世帯の属性が多様で要求される住戸性能も多様であることなど、 災害公営住宅の計画・設計には多くの課題が課された。

◇小規模住宅の大量供給と型別供給

 被災世帯には高齢単身世帯を始めに、 小規模世帯(少人数世帯)が多く、 供給する住宅も小規模なものを多くしている。 また居住世帯が特定タイプに片寄ることを避けるために、 中・大規模世帯向けの住戸も混在させた「型別供給」を行った。

◇標準設計の採用と住都公団への建設委託

 建設コストを削減し、 工期を短縮するために標準設計の活用を図った。 また再建分を含めて3年間で建設すべき公営住宅の戸数は7,500戸に及び、 この大量の工事発注・現場管理を神戸市住宅局だけでこなすのは困難であり、 相当部分を住都公団に委託することにした。 東部新都心地区における公的住宅の建設は、 神戸市営住宅はもちろん兵庫県営住宅も含めすべて住都公団の手により、 設計・工事発注・工事監理されている。 また、 「すまいの復興プラン」により追加された公営住宅は、 更に一歩進んで、 民間住宅や公団住宅の買い取りや借り上げによる供給に踏み込んでいる。

◇生活者に優しい住宅整備

 神戸市では震災前から、 「高齢者に優しい住宅整備」をさらに発展させ「すべてのひとに優しい住宅整備」をめざし、 設計基準のマニュアル化に取り組んでいた。 1998年3月には「神戸の住宅設計基準マニュアル」(KOBE HOUSING DESIGN STANDARD) として公表されたが、 今回の災害公営住宅の設計はこれを先取りしたものとなっており、 全住宅でバリアフリー化が実現している。 また特に身体機能の低下や健康に不安を持つ高齢者のために生活援助員による生活相談や安否確認、 緊急通報設備などのサービスのある「シルバーハイツ」を積極的に供給し、 居住者の相互支援により安心で充実した生活を送ることができるよう協同施設を整備した「コレクティブハウジング」もモデル的に取り組んでいる。


災害公営住宅の入居者募集

 募集住戸が大量であること、 また応募市民が市内外に建設された仮設住宅に居住し市単独の募集では情報の公平で迅速な提供が難しいことなどから、 公的賃貸住宅の募集は被災市一斉にかつ一元的に実施された。 兵庫県・神戸市などの被災市・住都公団・県市住宅供給公社のすべての公的賃貸住宅供給主体をメンバーとする「災害復興住宅協議会」が結成され、 募集事務および募集方法の統一、 一元化が図られた。 災害公営住宅の募集もこの枠組みのなかで実施された。

◇神戸市災害公営住宅の募集

 震災後はじめての募集は、 1995年7月実施された。 一元募集事務の調整前であり神戸市単独で行ったが、 738戸の募集に19,957世帯の申込みがあり27倍もの高倍率となった。 県下一斉の一元募集の第1回は1995年10月に行われ、 その後第4回まで一元募集が実施された(表5参照)。 1998年9月段階では、 公営住宅を希望しながら未当選または未応募で仮設住宅に残留している世帯は約1,400世帯である。 この段階で残された仮設住宅居住者の住宅に対する希望は、 通勤や通院等の都合により居住場所が制限されるなど、 特別の配慮を必要とするものが多く、 大量の住宅を一元的に募集する方法では限界がある。 神戸市の生活再建本部では個別の面談による斡旋の取組を始めている。


グループ入居制度

 災害公営住宅の募集に当たっては、 様々な工夫が講じられてきた。 大きくは、 「福祉優先枠」と「仮設世帯優先枠」の設定である。 「福祉優先枠」(戸数の30%)は高齢者・障害者・母子世帯などのいわば被災弱者を優先的に入居させるもので、 この考え方は避難所から仮設住宅への移転の際にも採用されたものである。 70歳以上の高齢者のみの世帯・70歳以上の高齢者と児童または中度以上の障害者を含む世帯、 重度障害者のいる世帯を第1順位とし、 ハンディキャップの程度に応じて、 第5順位まで設定された。 「仮設世帯優先枠」は居住環境の厳しい仮設住宅居住の早期解消を促進するため設けられた。 1996年7月の第2次一元募集の60%枠を皮切りに、 その後の一連の募集では県営住宅では100%まで(神戸市営住宅では最大80%まで)枠が拡大された。

◇グループ入居制度

画像s080
表5 災害復興住宅募集の申込み状況と結果(神戸市内分)
 高齢者が多数を占めるという居住者の偏りから、 仮設住宅入居当初は、 仮設住宅団地おけるコミュニティの欠如が指摘されたが、 全団地への「ふれあいセンター」の設置やボランティアによる懸命の支援活動によりコミュニティが形成されつつあった。 この貴重な人間関係を恒久住宅である災害公営住宅へそのまま移行できないかとの意見が多く出され、 これを具体化したものが「グループ入居制度」である。 第3次の一元募集で初めて実施された。 仮設住宅居住者のみを対象に2〜5世帯一グループによる応募を認めたものである。 第4次一元募集では対象団地を拡大しさらにグループ入居を促進したが、 応募グループは極めて少ないものであった。

英語へ
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見は阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク

(C) by 阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク

阪神大震災復興市民まちづくりへ
学芸出版社ホームページへ