災害公営住宅におけるコレクティブハウジング導入の経緯
災害公営住宅の居住予定世帯(すなわち仮設住宅入居者)に高齢者単身世帯あるいは高齢者夫婦世帯が極めて多いのを考慮すると、 震災前と同様の公営住宅の供給では居住者の住要求に十分に応えることができないのは明らかである。 震災後、 早期に大量の住宅を供給しなければならない厳しい状況下ではあったが、 神戸市においては居住者ニーズを踏まえた住宅供給とするための種々の取組を模索し、 実施してきた。 コレクティブハウジングもその一つである。
公営住宅におけるコレクティブハウジングの発想の原点は「地域型仮設住宅」にあった。 神戸市における地域型仮設住宅も自立の困難な高齢者の居住・生活の確保に一定の寄与はあったが、 芦屋市におけるそれは共用スペースの充実とソフト面におけるサポートが適切であったこともあり、 快適な仮設住宅居住を実現できていた。 被災高齢者対応としての必要性はもちろんであるが、 きたるべき超高齢社会における公営住宅のありかたを考えるさいのモデルとしての取組みとしても有効であることから、 地域型仮設住宅の発展形としてのコレクティブハウジングに関し実施を前提とした検討を行うこととした。 一方、 復興の現場で直接に被災高齢者の支援活動を実践し、 被災高齢者の居住・生活問題に直面するなかでコレクティブハウジングの必要性・有効性を提案する動きも生まれていた。 1995年9月に第一回のミーティングが行われた石東直子氏(石東・都市環境研究室主宰)による「コレクティブハウジング事業推進応援団」は、 多分野からの賛同者を結集しタイムリイで内容豊かな活動を展開しつつあった。
コレクティブハウジング実施のための具体的検討はコレクティブハウジング研究会で行われた。 研究会は建設省、 住宅・都市整備公団、 神戸市住宅供給公社、 神戸市および石東氏・小林郁雄氏をメンバーとして構成され、 1995年9月に第1回、 その後5回開催された(途中から兵庫県も参加)。 公的住宅におけるコレクティブハウジング供給の可能性を追求し、 モデルプロジェクトの検討を行った。 その後1996年には宮西悠司氏を座長に千葉大学の延藤安弘教授や石東直子氏をメンバーとする「真野コレクティブハウジング研究会」を開催し、 神戸市の災害公営住宅でのモデルプロジェクトを真野地区で具体的に展開をするための検討を行った。 真野地区の住民やまちづくり協議会役員の参加を得てワークショップを実施するなど、 計画・設計・管理・すみかた・くらしのイベントなどソフト・ハードにわたる検討は「コレクティブハウジング ・浜添住宅基本計画」としてまとめられ、 事業実施への大きな推進力となった。
真野ふれあい住宅(コレクティブハウジング浜添)
◇住宅の概要
「真野ふれあい住宅」は神戸市における住民主体のまちづくりの先駆的地区である真野地区の中央部にある。 敷地面積1,214 m2、 延床面積2,508 m2、 RC造3階建て、 戸数は29戸、 うち21戸がシルバーハイツで残りの8戸が一般世帯用住宅となっている。 食堂・キッチン・談話室・多目的室・倉庫・トイレなどの協同スペースとしては200 m2があてられている。
◇ワークショップによる計画案
「真野ふれあい住宅」の設計には一般の公営住宅とは違う様々な工夫が凝らされている。 低層で分節化した建物形態は真野地区の下町の雰囲気に溶け込んだものであり、 溜まり場(道ばたで数人が話をできる空間)を持つ南側廊下は震災で消失した長屋街区における路地を再現しようとするものである。 これらの設計のアイディアは真野地区の仮設住宅入居者やまちづくり協議会役員などによるワークショップによるものも多い。 真野ふれあい住宅は災害公営住宅であり入居者は公募で決められるが、 現行制度上は設計前から入居者を確定することができないため「疑似入居者」によるワークショップとなったが、 延藤教授の巧みなリードと真野まちづくりの伝統の力があいまって、 多くの成果を挙げた。
◇グループ入居制度の導入
コレクティブハウジングの運営をスムーズに行うためには入居者のチームワークの良さが不可欠である。 公募に当たってはコレクティブハウジング事業推進応援団の協力により仮設住宅団地を訪問説明し、 コレクティブハウジングの趣旨・特殊性の理解の徹底を図るとともに、 仮設住宅で育まれた良き近隣関係をコレクティブハウジングでの生活に活かすためにグループ入居制度を導入した。 1997年2月27日から入居者の公募が実施された。 29戸に対して68名の応募があり、 倍率は2.3倍である。 グループの応募は5グループ24名であった。 PR期間の短さもあってか応募倍率は高くはない。 抽選の結果定まった、 入居予定者の年齢は、 60歳以上が70%、 70歳以上が48%、 最高齢者は男性が89歳、 女性は87歳であった。 入居は1998年1月からでありそれまでの期間を利用して入居前ワークショップを実施した。 茶話会、 壁新聞づくりから始まり協同生活のルールづくり、 協同スペースで利用する備品の決定などのべ7回の入居前の集いは公営住宅では初めての取組である。
コレクティブハウジングの展開
現在神戸市を含む被災地でのコレクティブハウジングは兵庫県営住宅で7団地-232戸、 神戸市営住宅1団地-29戸である。 入居後の生活については、 必ずしもコレクティブハウジングの特性を十分活用したものになっているとは言いがたい部分もあるが、 取組は始まったばかりである。 コレクティブハウジングが日本の都市居住を豊かなものにするための道具となりうるか、 判断をするためには今しばらく時間が必要である。