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10)借家人も住み続ける多様な住宅供給をめざした共同化(真野地区)

立命館大学 乾 亭、 柴山建築研究所 柴山直子

「きんもくせい」28号、 30号

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立江地区における共同建替計画地域
 この共同建替の事業地である真野地区東尻池町7丁目立江地区は、 地域消防団と住民の必死の消火活動によって火災の拡大は免れたものの、 地域内では、 43戸、 約1,600m2が焼失した。

 焼失した一帯は、 真野地区に多くみられる典型的な戦前長屋地区で、 戸当たり敷地面積は約10坪程度と狭小であり、 地域内の道路は幅員2m内外の「路地」であった。 このため、 個別に再建しようとした場合、 条件の良い敷地を除けば、 建築面積が約6坪程度しか確保できず、 住居としての利用可能な住宅の設計は困難である。 さらに、 居住者に高齢者が多く、 加えて権利関係は錯綜している。

 この共同建替事業は、 3名の地主(借家経営者)と5名の持地持家の地権者が共同して、 約730m2の敷地をまとめ、 12戸の借家と6戸の持家、 計18戸(うち2戸は店舗付き住宅)の共同住宅を建設し、 区分所有する計画である。

 この共同化事業は、 もう一度、 路地やお地蔵さんを中心としてコミュニティを再建しようと、 立江地蔵にあやかり、 立江地区と呼んでいる。

 ほとんどの権利者は、 再建資金があまり豊かではないため、 幾つかの公的支援制度を組み合わせる必要があった。

 このため、 建物建設は住宅・都市整備公団事業とし、 賃貸部分12戸及びオーナー住宅1戸は、 公団の制度である「民営賃貸用特定分譲住宅制度」、 持家部分については「グループ分譲住宅制度」をそれぞれ活用する。

 「民営賃貸用特定分譲住宅制度」を適用する部分については、 今回の震災復興のためにつくられた神戸市の制度である「特定目的借上公共賃貸住宅制度」を適用し、 神戸市住宅供給公社が、 20年間借り上げ運営する。 これより、 賃貸経営者の収入が安定し、 国と市による家賃補助が行われるため、 家賃をおさえて賃貸住宅を供給することが可能になる。 また、 罹災証明をもつ従前借家人の優先入居を認めているため、 現時点では7世帯の従前借家人が、 再建される賃貸住宅に、 戻り入居することになっている。 また、 神戸市の「密集住宅市街地整備促進事業」に基づく、 共同化助成を受け、 その他、 住宅再建のための利子補給制度などを活用し、 できるだけ地権者・借家人の負担の軽減を図った。

 この結果、 従前居住していた持家の5世帯と、 従前借家の7世帯が、 元の場所で生活を再建できることとなり、 地主もこれまでどおり賃貸経営が再建できるのである。

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配置計画図
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共同建替・完成イメージ
 この立江地区・共同建替の目標は、 単なる建物の再建だけでは不十分であり、 借家人も含めて、 もともとそこに住んでいた人々が、 再び住み続けられるような再建、 つまり生活の再建を目指している。

 住宅・都市整備公団が、 この事業に対して積極的に取り組む姿勢を示したことにより、 ようやく実現の可能性が見えてきたのであった。

 この事業では、 賃貸住宅をつくる「民賃制度」と持家の共同化を支援する「グループ分譲制度」の一体的な運用により、 賃貸住戸と分譲住戸が1つの建物に混在する。 加えて、 借家経営は、 神戸市住宅供給公社の管理する「特目賃」の住宅である。 通常、 2つの異なる公的機関が関与し、 1つの建物の中に持家と賃貸が混在することは、 管理上の問題から行われない。 しかし、 今回の震災復興においては、 このような総合的な運用を避けては通れないという判断を、 公団・公社がとったことが、 事業の促進につながった。

 一般的には、 「共同建替」は、 ある程度の余剰床が生み出され、 それによって権利者の再建費用の負担が軽減されるような経済的メリットがあって、 はじめて実現し得ると言われている。 しかし、 この事業では、 ほとんど余剰床をつくることは不可能であった。 加えて、 権利者・借家人とも高齢化が著しい上、 震災で多くのものを失って資金力が低い。 それでも、 ほとんどの権利者にとって住み続けていくためには、 「共同建替」がほとんど唯一の可能な選択と考えられた。

 真野地区では、 住民主体のまちづくりを続けてきた経過があり、 共同化がどのようなものであるかを、 住民が理解できる土壌があった。 そのため、 「共同化」に対する抵抗感が少なかったことが共同化が進んだ1つの要因といえる。

 また、 みんなが住み続けていくことができる「まちづくり」としてこの再建事業をとらえ、 これを支えていこうとする周辺の人々の支援の力が大きい。 また、 「ここに住み続けたいと願う人がみんな住み続けていける再建」をやろうという思いを、 共有できた。 とりわけ、 地主が、 損はしないにしろ決して割のよくない事業であることを承知の上で、 従前借家人が戻ってこれるように借家経営の継続を決意してくれたことの意味は大きい。

 資金計画や家族数から、 おおよその間取り構成、 広さが調整され、 身体の状況からできるだけ1階で生活した方がいい世帯については、 1階に住戸を配置することについて、 自然と他の住民のコンセンサスが得られた。 これまでの近所つきあいに根ざした生活再建をめざしていった中で、 従来のまちの構造に少しでも馴染むような生活の場を再建する住宅計画が、 様々な支援制度の組み合わせによって可能になった。

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