都市の記憶
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詩 もーにんぐ 玉川ゆか

地震のあと あがった火の手は
数日間 燃えつづけ
トキやんの家の すぐ裏までせまった
 
男やもめには 家財道具もなく
家には 未練もなく
ふろしき包み ひとつかかえて
トキやんは
あんこの仕事に 出ていった
 
辛うじて波に耐えているドックの前で
トキやんは 仲間のヨッさんに
ふろしき包みを 渡した
 
なあ ヨッさんよ
ワイのいっちょらいのもーにんぐや
預かってくれへんか
ワイの家 燃えてまいよんや
 
ほうかいなぁ
よっしゃ 預かっといたろ
 
ヨッさんは トキやんのふろしき包みを
しっかりと 抱えた
 
もーにんぐ は
これで安心
 
二人は傾いた岩壁で
たばこを ふかした
 
翌日
ヨッさんは トキやんに頭を下げて
ぼそりと 言った
 
すまんな トキやん
ワイの家も 燃えてもた
もーにんぐも 燃えてもたがな
 
そうかぁ しゃあなあいなぁ
あのもーにんぐは 燃える運命やったんや
 
二人は納得して また
傾いた岩壁で たばこをふかした
 
三年経って
誰も トキやんとヨッさんを
見た者は ない
 
噂に聞くと
トキやんは
高速道路の工事現場で 事故死
ヨッさんは
持病の心臓病が悪化して
どこかの病院で死んだという
 
一張羅のもーにんぐを着る運命にはなかった
トキやんたちのことを
町は
もう 忘れようとしている

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