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3 真野地区
―密集事業とまちづくり

神戸・地域問題研究所 宮西悠司

密集事業

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密集事業が行われている地区(神戸市)
 私に与えられたテーマは密集事業と真野地区のまちづくりについてです。

 密集事業は震災前から木賃総合事業の対象とされていた地域と、 旧コミュニティ住環境整備事業の対象地域(宮本・吾妻、 東垂水、 長田東部、 真野)、 そして震災後に新たに加わった三つの地域(神前と新湊川、 長田東部)で行なわれています。

 住宅市街地総合整備事業(住市総)もそうですが、 密集事業がかかると何か特典があるのかというと、 特別なことがあるわけではありません。 事業がかけられた黒地地区、 なにも優遇されなかった白地地区、 その中間の灰色地区と言われますが、 灰色は実際には限りなく白に近い灰色です。 その灰色に密集事業の地区は分類されています。

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密集住宅市街地整備促進事業の補助項目
 図は密集事業の補助制度の内容を表わしたものです。 例えば整備計画の作成や地区整備に補助があり、 受け皿住宅(コミュニティ住宅)にも補助が出ます。 その中で住民に直接関係があるのが、 老朽建築物の除却、 買収です。 今回の震災では建物がほとんど潰れていましたから、 通常なら道路の拡幅にともなう除却費が出るのに、 ほとんど出ませんでした。 さきほどの限りなく白地に近いということは、 こういう場合にお金が出てこないということです。

 この密集事業は法律で決められた事業ではなく、 建設省の制度要綱で進められていますので、 大臣承認を取らなければなりません。 そのために整備計画を作成します。 それに基づいて国が補助金をくれることになっているのですが、 実はこの整備計画を我々は見たことがありません。 役所と建設省が密かにやり取りしているようです。

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事業手法の変遷1
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事業手法の変遷2
 密集事業は震災の1年前の平成6年に始まっています。 遡ると、 昭和51年に「転がし事業」と呼ばれる過密住宅地区更新事業ができ、 これが57年には木造賃貸住宅地区総合整備事業、 いわゆる木賃になりました。 また住環境整備モデル事業は住宅改良事業の一般市街地版と言われていますが、 真野は昭和57年にモデル地区の指定を受けています。 震災のずっと前のことです。

 震災後に密集事業が適用された神前地区で住民がつくったまちづくり構想図によると、 最初はミニ区画整理をやろうということでした。 しかし、 それだけでは駄目だということで全体に拡げ、 コミュニティ住環境整備事業を入れることになりました。

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住民によるまちづくり構想図(神前地区、 平成8年6月) 密集住宅市街地整備促進事業・神前地区・整備計画図(基本構想図) 同(別記)
 

 この構想を受けて、 大臣承認を取るために神戸市が整備計画をつくっています。 また別記で整備計画の概要があり、 そこに例えば地区の面積などのほか、 合併事業として、 住宅市街地総合整備事業、 震災復興土地区画整理事業、 住宅地区改良事業など、 計画の内容が具体的に書かれています。

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神前地区(神前3丁目道路整備)施工前と施工後
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震災後の建替事業(密集事業補助によるもの)
 また地区計画も準備されましたが、 まだ決めていません。

 ここで密集事業でしかできないことを挙げると、 一つは道路を新築できることです。 もう一つは共同建替について補助金が出る点です。 住市総や色々な制度でも補助金が出るのですが、 建替が行なわれた90地区のうち、 15地区が密集事業の補助金により行われています。


真野地区

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建物安全調査による被災建物の分布(真野地区) 被災建物の解体除却状況(真野地区) 解体除却後の建物の復興状況(平成10年6月24日)
 

 95年2月の始めに建築士360人の協力で地区全体の悉皆調査を行ないました。 おそらく被災地で悉皆調査が出来たのは真野だけでしょう。

 2千700戸のうち600戸が再建不可能といわれる全壊でしたが、 実際に公費で解体除却されたのは、 修理すれば継続して居住が可能なものを含めて700戸です。 神戸の中には文化財として残しておきたい建物が、 修理可能なのに潰された例が随分ありますが、 真野の場合は長屋がほとんどですからそういう問題はありませんでした。 ただし、 借家人が過剰な除却で追出されている可能性はあります。

 平成10年6月の更地調査によれば、 潰された700戸のうち600戸は再建されています。 しかし駐車場や資材置場を含めるとまだ130〜140カ所ぐらいは空地が残っていました。

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真野地区の復興状況
 震災前から真野地区が取り組んできた密集事業の成果を見てみると、 例えば区画道路の拡幅が挙げられます。 これは都市計画道路ではありませんから、 5mの道路を8mに拡げたり、 3mの道路を新しくつくるような作業ですが、 20年かかってようやく5割から7割が出来上がったという状況です。

 またいくつかの町に街区内道路を入れるなど細かい作業も同時に行っています。

 次に市営住宅ですが、 真野地区には震災前に130戸くらいの市営住宅がありました。 震災後100戸ちょっと増えて、 現在約250戸になっています。 これには高齢者用のシルバーハイツ東尻池、 真野ふれあい住宅、 共同建替二ヶ所の他、 公団が建てて神戸市が買い上げたものやマンション借上げの市営住宅、 特優賃住宅などが含まれています。

 真野地区は全体で2千500世帯ですので、 約1割が市営住宅に住んでいることになります。 これは郊外の市営住宅がたくさん建っている地域を除くと、 市営住宅がもっとも集中している地域ではないかと思います。

 市営住宅は入居者が高齢者ばかりなので住民から敬遠されていますが、 これから空家募集が出た際に若い人に入ってもらえると、 地域のためにも役立つと思います。

 また最近は公園にあった仮設住宅も撤去されて、 公園が戻ってきてます。

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これまでの密集事業の成果1(パンフレット)
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これまでの密集事業の成果2(パンフレット)
 このような震災前後の真野のまちづくりの成果をパンフレットにまとめていますが、 そこで31のものづくりを紹介しています。 その中で密集事業の成果は事業用分譲住宅である真野ハイツや真野東住宅、 共同建替、 通りの拡張など13ヶ所です。 それ以外の事業、 例えば小学校や保育所の建て替え、 ディサービスセンターや地下鉄苅藻駅、 真野ふれあい住宅などは密集事業ではありません。 また市営住宅を一戸潰して消防団の詰め所をつくるといったこともやっていますが、 これも密集事業ではありません。 建設省ばかりがまちづくりをやっているのではないのです。 建設省にこだわらずにいろいろなものを引き込んでまちづくりをやってきた点に真野のしぶとさがあると思っています。

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