阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク
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4 まちづくり支援のあり方

野崎

 ありがとうございます。

 5年間経って、 まちづくりを今後続けてゆくためのインセンティブについて、 「やっかいごと」という分かりやすい話もあったのですが、 それにしても誰がやるのかという話があります。

 今は、 まちづくりプランナーとか建築家とか、 いろんな人がアドバイザーのような形でやっているわけですが、 そういう色んな場面で育ってきた、 まちづくりプランナーとか「まちづくり人」を、 今後どういうふうに応援できるのか。 そして、 まちづくり団体も地元にたくさん出来ましたが、 事業地域の中で認定されている団体もあるし、 勝手にワアワアと作って認定もされていないところもたくさんあるわけです。 そういった団体をどう育てていくのかといった話を展開していこうと思います。


まちづくりの三つの課題

バリアをとりのぞく

高見沢

 今の問いに直接お答えするのではなく、 ごく基本的な話を三ついたします。

 まず重要なのは「バリアをとりのぞく」ということです。 昨日からいろいろお聞きしていると、 結局いろんな障壁、 特にコミュニケーションができないという問題があるのではないでしょうか。

 たとえば英国の貧困地区でのまちづくりの障害をテーマにした文献では「六つのバリア」が存在すると言っています。

 まず「お金が無い」。

 それから、 知り合いが少なくて「縁を作るきっかけがない」。

 縁は石東さんたちが実践しておられるような活動を通じて出来てくるものであり、 また媒介者がいて初めてバリアがとりのぞかれるのだと思います。

 また昨日の話のように、 インターホンが設置されていて新住民と旧住民の交流が全く無いというのも、 これに当てはまるでしょう。

 「スキルがない」。

 まちづくりもそのプランナーも、 失敗しながらスキルを身につけていくものです。 スキルがないと思われている市民の中にも、 実はこんな事が出来るんだという人が沢山いるわけですから、 それを生かさない手はありません。

 「地区のイメージ」。

 例えば神戸の西部は、 なかなか外から人が入らないという事で非常に苦労されています。

 「時間がない」。

 文献では、 これが一番大きなバリアだと言っています。

 昨日松本地区の中島さんが、 女性が代表にいないという質問に答えて「まちづくり協議会の代表として熟年男性が座っている事こそ今回の成果だ」とおっしゃったのを聞いて、 なるほどと思いました。

 大都市のサラリーマンは忙しくてコミュニティ活動をやろうと思っても時間がない、 あっても疲れててやる気にもならない、 というのが普通だと思います。

 そういう意味で、 これが日本でも一番大きなバリアになっていると思います。

エイブルさせる

 さて、 2番目はイネイブル(inable:できるようにする、 する力を与える、 持続させる)、 「エイブルさせる」ということです。

 以前のまちづくり支援は、 直接お金を与えたり、 直接俺がやってみせる、 という形でしたが、 今日の社会で必要とされている支援は「人々が自分で出来るようにサポートする」というものです。 ただ、 これはもう出来るようになってきたと言って良いと思います。

ライフポリティクス

 3番目は、 震災後というより今後の日本全体がめざすところは何なのか、 ということでちょっと刺激的な話を紹介させていただきます。

 最近「第三の道」ということが語られていますが「ライフポリティクス理論」というものがあります。

 今までのまちづくりは欠乏状態が基本で「無いからつくる」という仕組みになっていたわけです。 しかし今ではだいたい満たされたので、 じゃあ求められているのは何かというと、 自分達の生活を豊かにするにはどうしていけばいいかということです。 これが「ライフポリティクス」の意味です。

 おばあちゃん、 子供、 主婦、 サラリーマン、 町内会長さん、 誰もがそれぞれ自分なりの思いがあって、 それらをどうやって実現していくかという事です。

 しかしこれを実現してゆく仕組みが制度的にも政治的にもまだありません。 ですから「市民のまちづくり」を5年間やっていろんな成果があったわけですが、 より本質的な問題として、 この「第三の道」を実現するための制度やシステムをしっかりつくっていく必要があります。

 さらに言い方を変えるとFull Engagement societyです。

 これは、 決して「完全雇用状態がいい」とか「賃金が多いから良い」という社会ではなく、 まさに石東さんがおっしゃったような、 花作りを通じて生き甲斐を感じるというような「自分が世の中に関わって行く事で、 幸せを感じて、 皆で楽しく暮らしていける社会」なのではないでしょうか。


行政からの苦言

野崎

 続いて、 いわゆる「やっかいごと」による「市民まちづくり」を今後どういうふうに支援していかれるかをお伺いしたいと思います。

田中

 先程、 まちづくりに関わっている方が非常に苦労していると申しましたが、 それに関するアンケート結果を報告しますと、 定義があいまいですが、 まちづくりに関わってる方の7割は少額の報酬で、 うち3割は無報酬という非常に厳しい状況にあります。

 そこで県ではこういう厳しい事情を勘案し、 「まちづくり支援事業」として11年度には57地区に総額3千100万円の助成をしています。 また12年度には89地区で総額6千200万円くらいの要望が来たのですが、 実際には三分の二くらいしかお応えする事ができないという状況でした。 このように、 微々たる額ですが、 行政も努力をしているところです。

 この補助金については今日ご出席の皆さんによく考えていただきたい問題がございます。 それは助成対象となるコンサルタントの方が限られているという事です。 1年、 2年なら出せるけど、 5年、 10年とずっと同じ人に補助金を出すのは難しくなっています。 もう少し底辺を広くしていただきたいと思います。

 また最近「まちづくり」が流行りになり、 行政がその流行りに飛びついて「まちづくりなら補助金を出そうか」と何でもかんでもお金を出していくという傾向が見られます。 しかし本当にそこまで必要なのか、 行政が一体どこまでお金を出していくべきなのかが悩みです。

 二つ目は、 まちづくりをしている方々はどうしても自分のやってる事を正しいと思う、 という傾向があります。 だから「どうして俺達の言う通りにならないんだ」と言う方々が増えています。 こうなると補助金の圧力団体と変わらなくなってしまうのです。

 それから住民の側にもいろいろ問題が出ています。

 コンサルタントなどのまちづくり支援をしている方々が行政と同じ事を言うと「お前ら行政の手先か」と反発されることがあります。 より良いものを求めていった結果そうなることも多々あるわけですから、 その辺は住民の方に良く勉強をしてもらいたいと思います。

 あと一つは、 先程の報酬の話と絡みますが、 どうも日本人は全般的にソフトにお金を出すのをいやがる傾向があります。 いろいろ協力してきて、 じゃあこれからお金を出してくださいと言うと「もう来てもらわんでええわ」という事になります。 対価は対価でちゃんと必要だという事を社会に定着させていかないといけないのです。

 いろいろ言いましたが、 実は一番問題だと思っているのは、 皆さんが「まちづくりには成功の秘訣がある」と思っていることです。

 たとえば生野区の話が紹介されたとしますと、 その方々は特別な事をしているという認識が無いのに、 みんなが見に来て「どこがいいか」「何がいいか」と聞いて帰っていくんです。 そうではなくて、 まちづくりは地道にやっていく以外に無いと思います。

 コンサルタントの方もそうです。 「黒壁」が流行ると「自分の所でも何か古いものはないか」「守っていくものがないか」「じゃあこれを守っていこう」なんていうステレオタイプ的な報告書をすぐ書かれる。 そのような方には支援したくないと思います。

 ですから、 まちそれぞれのあり方についてぜひ現場で考えていただきたいのです。 それも自分独りで考えるのではなくて、 住民の方にうまく考えてもらう、 そういうまちづくり支援をされる方々に、 ぜひお金をいっぱい使ってもらいたいと思っています。

 また、 行政を突き上げてもらうことが必要です。 行政は、 住民の方のニーズがはっきりしないとお金が出しづらいので、 どんどん突き上げていただくのが一番です。

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