今日の議論で抜けていたのは「我々が失ったものは何か」という議論です。 震災の結果我々は多くのものを得た。 しかし人命を含め多くのものを失った。 その失ったものを取り返すために一体何が出来たか。 それが、 この5年間の評価の一つの基準だと思うんです。
そういう意味では、 せせらぎもコレクティブも、 それぞれの地域、 それぞれの場所で失われたものを何とかして取り返す、 かつての生活世界、 特にこの下町的環境にあったもので失われたものを取り戻すための努力であると位置付ける事が出来るでしょう。 ですからその内容は場所によって違うわけで、 例えば山の手の住宅地では別の形の提言になると思います。
今回の震災の一つの問題は、 コミュニティが失ったものの評価が忘れられていることです。 個人が失ったものへの補償、 これは不充分ながら実際にはかなりの程度行われてきております。 また社会全体として失ったもの、 いわゆる社会基盤、 インフラストラクチュア、 これも国の支援によってほぼ取り返した。 ところが地域が失ったもの、 集団として失ったものをどうやって取り戻すかという視点が欠けていたんです。
後藤さんが指摘される通り、 何万戸の人が住宅を失ったから、 公営住宅を失った戸数だけ建てたらそれで済むかというと、 決してそうではないわけです。 復興住宅を建てたけど戻らなかったのは何か。 そういう事を検討すべきではなかったかと思います。
この点に対して神戸は興味深い論点を提供しています。 政府の復興委員会の委員長だった下河辺さんは「東京と神戸は違うんだ。 神戸の人は前に住んでいた所に戻りたがる」「神戸は特殊である」と言いますが、 私は逆に東京が特殊であると思っています。
先ほどシングルが全世帯の三分の一というお話もありましたが、 やはり東京が特殊で、 むしろ神戸の方が標準です。 前に住んでいた所に戻りたい人がこれだけ多いのは社会がそれだけ健全であり、 コミュニティが存在していた何よりの証拠ではないかと思うんです。
あわせてコミュニティという観点で言えば、 施設でカバーできるか、 です。 コミュニティの本質はやはりそこに住んでる人々のプライドにあります。 そこに属している、 その一員である、 そういう誇りをどうやって取り戻す事ができるのかが、 問題ではないかと思うんです。 そういう点で言えば、 今の後藤さんの問題提起とは少しずれますが、 私は決していずれかが間違っているのではなく、 両方の答えが、 どちらも興味深いまちづくりの目標について語っていると思います。
議論を聞いていて気になった点があります。 「5年間のまちづくりの経験」と言われますが、 私は5年間だとは思いません。 現に今日ご報告になった方々、 小林さんを始め多くの方々は何十年と神戸でまちづくりに従事してきた人です。 これも他の地域には見られない特色です。 私共はそれをありがたいと思うし、 またその方々がこの5年で何をしてきたかを記録していただくことは大変大事なんですが、 ただ5年だけをとって神戸の新しいまちづくりだと言うのではなく、 やはりそれ以前から引き続いてきたということを前提にしていただきたいと思います。
そういう意味では、 例えばまちづくり条例も、 一里塚に過ぎないわけで、 そのずっと前から続いてるわけなんです。
私は復興塾から発展した神戸まちづくり研究所のオフィスを旧吾妻小学校に移したいと思っていますが、 実はこここそ賀川豊彦がセトルメント運動を始めた由緒ある所なのです。 そういう意味でも私は神戸のまちづくりの伝統を現在に引き継ぐということに誇りを持っています。
と同時に、 こういう神戸の都市構造自体が、 実は居留地と深く関係しているわけです。 外国人に見せるためのまちづくりを一方で行ない、 そして貧しい人々を一ヵ所に閉じ込めてきたことが今日の神戸の都市構造を作ってきたのです。
ですから何故この街にこういう人々が住んでいるのか、 その人達が何を誇りにしてまちをつくってきたか、 やはりこういうことを深く検討することが、 これからの神戸のまちづくりの一番の特色に繋がるだろうと思います。
野崎:
全く違う見解が出ているように見えますが、 僕もあまり違わないと思います。 好文園コミュニティホールやココライフも、 単に住宅再建というだけじゃなく、 まちのコモンズ、 共有のスペースが必要になって取り組んだものです。 そういうものが小さなスペースであってもいくつか産まれてきたことが、 4、 5年目くらいの新しい流れだと思います。
7 我々の失ったもの
地域が失ったものは取り戻せたか
小森(神戸まちづくり研究所):
取り戻すべきは地域のプライド
小森:
5年間だけの蓄積ではない
小森:
このページへのご意見は阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワークへ
(C) by 阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク
学芸出版社ホームページへ