今日の話はほとんどが神戸からの発信ですが、 同じコモンスペースでも芦屋や西宮ではつくり方が違うでしょう。 同じ区画整理であっても、 地域ごとの違い、 地域ごとの進め方があると思うんです。
今議論になっていた「平成の長屋」も、 そのような暮らし方がある所だったらいいかもしれませんが、 他の所で同じ事をやっても、 そういう発想自体が受け入れられない場合だってあるわけです。
ですから、 越澤先生がおっしゃった記録の難しさは、 そこの地域性や歴史が一緒に記録されないと、 同じ事でも話が違ってくることに気づかないことがおこります。
例えば西宮で後藤さんがやっておられる「地区計画」だって、 神戸のものとは別の背景があって起こってきていると思います。 一方、 芦屋では「地区計画」などのまちづくりは起こっていませんが、 それはもともとの都市計画や開発指導要綱、 条例などがそこそこ厳しいからです。 だから「地区計画」をつくってさらに規制を上乗せするのではなく、 例えば景観であれ緑であれ、 もっと付加していくような、 手段としては都市計画ではないまちづくりを行っています。
このように背景によって全然違ってくるわけです。
だから、 神戸だけではなく、 例えば芦屋とか西宮とか伊丹とか、 そういったことも含めた議論が必要だということです。
野崎:
私も東灘をやってますが、 やはり同じ神戸でも東と西など地域によってかなり違います。
ただ、 それはディテールというかパターンの違いであって、 そこには普遍性みたいなものが必ずあるとは思うんです。 それをどう見つけていくのかということです。 それが逆に神戸から他の地域に発信する意味にもなっていくと思います。
これまでは皆それぞれの場で別々に活動してきたわけですが、 これからはやはりそういう普遍性を見つけていくべきだという気がします。
小浦:
何を「普遍」と考えるかがすごく重要だと思います。 今のように「場所の違い」だけで言ってしまって本当にいいのか気になります。
もちろん神戸のまちづくりは、 神戸の地域特性や、 その地域に住んでいる居住者属性などの土壌があって出来ているわけですが、 その神戸からの発信を受けて、 それを利用したり自分達で参考にしようというときには、 発信を受け取る側の姿勢が問題だと思います。
今、 全国からコレクティブを見にこられます。 初めは丁寧に案内していたんですが、 実は案内する必要はなかったんです。 真野のふれあい住宅を見に来たら、 自分たちの自治体の問題を解決するヒントがあるかどうか、 この部分だけちょっとつまみぐい出来そうとか、 そういう形でやってもらったらいいんです。
今日の報告もみんな地区名を挙げての限定したものです。 あとは受け取る側の責任だと思います。
私が「記録」といった意味は、 そのときにまとめてしまわないと、 後では分からなくなるからです。 それに考えが違っていたっていいんです。 後でご本人自身の考えが変わってもいいので、 ぜひお願いしたいと思います。
欧米は都市国家の民族ですから、 都市、 都市計画、 住宅については 歴史学や政治学を含め研究者も多く本も多いのですが、 それが日本の場合はなく、 例えば都市の博物館でも非常に展示が少ないのです。 だから社会全般にそういう知識が自然と入ってくる素地が日本の場合は少ないと言えると思います。
もう一つは、 2000年4月1日から地方分権が本格化し、 ほとんどの都市計画決定が市町村に降ります。 ですから県の役割は基本的には後見役となり、 いずれ消滅すると私は思っています。
また今回は都計審自体も「上乗せなり緩和は自主的にやってください」とハッキリ書いています。 ですから、 いずれは法律も絶対の制約とは言えなくなります。
そうなってくると、 市町村が自分で判断基準を持って全部やらないといけなくなるのですが、 実はこれが結構つらいんです。
地方分権において、 一番重要なネックはお金の問題ではないと思うんです。 やり方次第でいずれお金はおりてきます。 ネックは自分でやれるのか、 意志です。
また広い意味での都市計画、 まちづくり問わず、 都市の環境なり社会なりに広く関心を持つ方々が増えてきている中で、 お互いがどう切磋琢磨するのかが今後の課題です。 これも地方の市町村ではつらい。 正直に言えば大変お寒い状況が今もあります。
これからは大都市圏に住む人が、 広い意味で他の地域のことも考えながらやって行くという事になるのではないでしょうか。 小林さんが嘱託職員で1年間行くとかしないと、 各地の市町村は本当におかしな状況になると思います。
小森先生が先程「地域として失ったものは何か」というお話をされましたが、 例えば先程の復興住宅の話もしかり、 街なかのプレハブ住宅の話もそうです。 また、 どういう住まいをどういう人達が持てたかという事は、 まちづくりのテーマに入るべきだと思います。 むしろそのことを真正面から見ないといけないと思います。
私は「できなかったこと」として、 御蔵に人が戻ってこないということからどうしても離れられないんです。
今後神戸の経験を生かしてアウトプットするときに、 まずできなかったことを見据えてその改善策を出しておかないと、 変なことになるのではないでしょうか。 関係あるかどうか分かりませんが、 仮設住宅の居住環境がひどいという話がありました。 ところが台湾の震災のときに仮設住宅を届けているのです。
例えば海外に出よう、 国内に出ようという時に、 結局あの仮設住宅しかアウトプットできないということでは、 とても恥ずかしいことだと思います。
二点目は、 都市なり環境なりに関心を持った者同士の切磋琢磨というお話についてですが、 専門家の皆様はエキスパートであり、 様々な経験と知識をもってらっしゃいます。 まさしく神戸30年のいろんなものを凝縮して、 皆さんはもってらっしゃると思うんですが、 ぜひ、 もっといろんな立場の人が集まっていろんな議論ができるフィールドづくりを、 専門家の皆さんにも意識的にやって頂きたいと思います。
私にはこの5年間、 都市計画は限られた方々が議論をしている非常に限られた狭い分野と見えてしょうがなかったのです。 それでも心ある様々な方々に協力いただいてここまで来たと思いますので、 やはりこの道をもっともっと広げて行きたいし、 そのための事をもっとやっていただけたらと思います。
石東:
現時点でできなかった事はきちんと検証すべきですが、 「放ってる」と言われているようにも聞こえます。 私は、 出来なかったものは、 これからできるようにやっていくつもりです。
まずは、 各地で受皿住宅に戻れないという問題が出ていますから、 それにこれから取り組んでいくべきだと思っています。 コレクティブでも、 入ってみてこの住宅に合わないから出て行きたいという人もいるし、 出ていってもらった方があとのコミュニティのためにも良いという人もいます。 しかしここでも受皿住宅がないから出て行けないという事があるのです。
今の制度では、 いったん公営住宅に入居したら原則として他の公営住宅に移り住めないのですが、 この5年間もそういうものをちょっとずつ崩してきたわけです。 今の時点で出来なかったものを、 この先どんどん崩して行きたいと思います。
8 情報発信の意味
神戸だけで良いのか
小浦(大阪大学):
受け手が考えるべき
石東:
地方分権と大都市の責任
越澤:
できなかった事を問うべき
小野:
このページへのご意見は阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワークへ
(C) by 阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク
学芸出版社ホームページへ