5番目

《「ない」本があった》

 お客さんに本の在庫をきかれた。 店を探した。 そして「ありません」と答えた。 しばらくレジを打っていたら別のお客さんがその探していた本をカウンターに差し出した。 おもわず、 「その本どこにありましたか」と聞きたくなった。

 こんな経験は誰にでもある。 そして自分の商品知識のなさを恥じたりするものである。 でもそれは考え過ぎ。 大切なことは、 何故自分の探した棚にその本がなくて、 別の棚にあったのかと言うことを考えることである。 すべての棚差しを自分でやっているのなら話は別だが、 たいていの場合一冊の本に複数の人間がかかわっている。 Aという本はBという棚に入るものだという固定観念は捨てるべきだ。 石原慎太郎の「弟」を陳列すべき棚はどこか。 これは結構難しい。 勿論文学が正解(?)なのだろうけど、 裕二郎がらみでタレント本コーナー、 もしかすると内容を知らないおやじが政治の棚に入れたりしてたら笑えるけど。 とにかくこの本はここだ、 と決めるのは難しいのだ。

 お客に在庫の問い合わせを受けたら、 最低2カ所ぐらいの書籍探査はするべし。 また新刊については問い合わせ頻度が高いので、 店内の新刊展示状況には常に気を配る必要がある。 新聞広告や書評に取り上げられた本が店内のどこにあるのか、 またはないのかという店内情報をキチンと整理しておけば、 お客の応対で赤面するシーンは少なからず減る筈。 それからお客の問い合わせに、 間髪入れずに「おいてません」とは言ってはいけない。 どんなに自信があってもだ。 必ずおいているだろうと期待して来た客に対して失礼である。 探すフリをしましょう。

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