6番目

《本を見せてあげる》

 ショーウインドーにならんだ美しい洋服。 あるいはスタイルバツグンのマネキンの着た洋服。 おいしそうな匂いを撒き散らす食堂。 小売店はあらゆる手段をつかって客にものを買わせようとする。 購入意欲を掻き立てる工夫をしている。 そうした演出が下手なのは書店である。 書籍は目的買いであり、 多品種少量販売だから衝動買いをするケースは稀で、 過剰な演出は不要であるというような考え方をしていないだろうか。 ポップさえ立てておけばいいという事を考えていないだろうか。

 確かに書店人は多品種の商品を毎日目にしているけれど、 読者は1週間に一度くらいしか書店に立ち寄らない。 これでも熱心な読者といえるくらいだ。 さらにその熱心な読者ですら書店のすべての棚をみて回るわけではない。 本好きの人は見慣れた棚は飛ばしてみている。 その棚に新しい本が一冊入っていたとしても、 目に留まる可能性はは低いのではないか。 また何かおもしろい本はないかと探しに来る読者に対して、 読者の探査能力だけをあてにした展示をしていれば売れるものも売れなくなるのは当然と言える。

 ブックフェアー、 ミニコーナーとは、 日ごろ見せてあげられない本や目に留まりにくい本を、 テーマを決めて見せてあげることである。 日々入荷して来る大量の本の中から自分でおもしろそうだと思える本に出会ったら、 売れる(儲かる)という視点からではなく、 お客に見せてあげるという気持ちで展示してみることだ。
 自分の感性を信じること。 自分だけが好きなものはあり得ない。 自分の好きなものは複数の人間も好きなはず。 恋人を第三者と争った経験はあるはず。 私があの人が好きだ、 と思ったらその人を好きな人はあと一人や二人はいるはずである。 本もこれと同じ。 私が好きだと思ったら、 他にもその本が好きだと思う人がたくさんいるはずだ。 だからそういう本はお店の最高ステージにあげてたくさんの人に見せてあげるのが正しいやり方だ。

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