9番目

《即返品か陳列か》

 売れない本を作る出版社は皆無である。 すべての出版社は『売れるぞ、 売れろ』と声をかけて新刊を送り出す。 しかし結果として売れないこともある、 という事を理解したい。

 毎日毎日新刊がギッシリ詰まったダンボール箱が取次店から送られて来る。 箱を開けた途端にそこからは各版元の願いが飛び出して来る、 「売れろ、 売れろ、 売れろ」。 この新刊の箱を開ける瞬間が書店人として最もワクワクする時のはずだ。 だが現実は一度も店頭に並ばずに返品されるもの(配本されるとすべてが書店の店頭に並ぶと信じている業界人もいるようだけど)、 陳列されたが、 数日で書店に別れを告げるものもある。 この状況ははまさにTVタレントのデビュー戦のようである。 この熾烈な戦いは毎日行われるのだ。 書店人は限られたスペースの中でどれを棚あるいは平台でデビューさせるのかを決めなければならない。 つまりタレント発掘の名人でならなくてはいけないのだ。 こいつは売れるぞと見抜く力がなくてはならない。 そして本からきこえる版元の「こいつは売れるぞ」という思いを見抜かなければならない。 そしてなぜ売れるのか、 またはなぜ売れないのかという理由をキチンと整理しなくてはならない。

 「スピーチの仕方」という本と「スピーチ講座」という本が新刊として入荷した。 両方はいらないからひとつだけ選ぶことにした。 タイトルか装丁か内容か、 いろいろと吟味したうえで「スピーチ講座」を選んだ。 そのとき、 自分の意志や版元の声が聞こえたはずだ。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ