13番目

《本を「売る」書店》

 書店という商売は基本的には、 棚に本を並べておけば勝手にお客が買って行くというスタイルである。 「お客さん、 お客さん良い本ありますよ。 」暗い路地で擦り寄っていくような商売はしていない。 だから<売っている>という感覚よりも<売れている>という感覚が強くなる。 だけど工夫して陳列し、 お客が買い易いように展示するという努力を毎日しているのだから、 勝手に売れて行くというのはおかしくて、 やはり売っているのである。

 自信をもってほしいと思う。 ベストセラーを山のように積んだ。 お客はどんどんそれを買った。 ああ売れてるな、と思わないこと。 おれが売っているのだ、と思うこと。 ベストセラーだから誰が売っても売れると言うわけではない。 お客が来なければ本は売れないのだ。 そのお客が来るように毎日の仕事の中で努力しているからお客はベストセラーが出たらお店に買いに来てくれるのである。 毎日の努力は、 そうベストセラーが出た時に報われるのだ。 取次に言おう、 版元に言おう、 「あるだけくれ」。

 出版社の営業マンに、 最近は「売りましょう」という言葉を言ってくれる書店が少なくなったという話を聞いた。 たいていの書店で「とりあえず置いてみましょう」という意味の言葉ばかりが帰って来るという。 この言葉の深層には、 本は置いておけば売れるものという認識があるからに違いないのだ。 「ねえねえ買ってよ」という必要はない。 売ると言うことをその店の商品構成や展示などから積極的に発散するような店であればそれで良いのである。 そして「売る」という反対の言葉としての「売れません」という言葉をも自信をもって言えるような書店であってほしいと思う。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ