19番目
《売るものがない》
書店に限らず小売店と言うのは、 当然、 物を売ってメシを食っているわけだから、 物が売れないということは、 論外のことである。 だからなんでもいいから売れれば、 儲かってみんなが幸せになれるということである。 だけど本当はなんでも売れる店をつくるというのは困難極まる事なのである。 文庫本ブームで文庫本を売りました、 コミックが売れるのでコミックを売りました、 パソコンブームでパソコン本と雑誌を売りました。 これはニーズを見据えた方向であり、 書店としては当然の行為だと思う。 だけどあれこれと追い掛けてそれだけで終わってしまっているような気がする。
本を買う人は、 ブームの本や話題の本が欲しい人だけではない。 売上を分析すれば、 売れ行き良好書の売上は、 全体のほんの一部であることがわかる。 ブームを追い掛けるのは、 店の基本がしっかりしていてこそである。 一時の動きですべてがその方向へ動くことの恐ろしさはブームが去った時に分かる。 「売るものがない」という言葉をこの業界でよく耳にする。 話題が売れ行きを左右することが前提の業界だからである。 しかし本当にそうなのか。 「売るものがない」と嘆いている書店の隣で、 きっちりと売上を上げている書店があるはずだ。 ブームが去っても客が離れない書店。 それはやはりベーシックな商品の品揃えをしている書店である。 そしてベーシックな品とは取次や出版社のいう基本図書ではない。 あなたのお店でしか売れないあなたのお店の基本図書のことだ。
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