21番目

《在庫は魔法》

 出版社の在庫というのは常に動いているものである。 今ある在庫は5分後の在庫ではない。 また在庫は減るだけではなく返品があるので増えることもある。 それから100冊の在庫は、 商品としての100冊の場合もあるし、 カバーを代えたり、 ちょいと磨いたりしないと商品にならない在庫もある。 それからカバーもなくなってしまったし、 在庫としてはあるのだが、 商品として在庫とは言えないから「品切れ」となっているものもある。 それから在庫僅少というのは専門書の場合だったら50冊の場合かもしれないし、 一般書だったら500冊のかもしれない。 また100冊の在庫はあるのだが、 100冊を越える注文が来たとき、 ちょっと困ったことになるから品切れにしとこうとか、 出版社の思惑がからんだ在庫もある。

 取次の在庫はもっと複雑だ。 常にオンラインでコンピュータに受注情報が入って来る。 100冊の在庫が瞬時に在庫ゼロに変わることは頻繁起こり得る。 しかもコンピュータ表示が100冊のときに現実の在庫は既に在庫ゼロということもある。 取次に在庫はあるはずなのになかなか入荷しないのは、 在庫に対する出荷の順番にからくり(詳しくはここでは言わない)があったりする。 コンピュータによる在庫管理システムが進んで、 一見在庫は丸見えになったように見えるが、 実は見えているのはデータだけであって現実の在庫ではない。 100冊あるはずの在庫が、 実はネズミがションベンをかけていて出荷不能であるなんて笑えない話もある。
 在庫の数字ってやつは魔法なんだと割り切ることが肝心である。

 おいおい、 ほんとかよー、 という声がいろんなところから聞こえてきそうだけど、 実際に店頭でコンピュータのオペレーションをしている人に聞いてみたら。

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