22番目

《本の覚え方1》

 「書店人は本を知らない」、 という言葉をよく耳にするが、 それは出版事情を知らない人の言葉で、 そんな事はまったく気にしなくていい。 年間に数万点も出版される新刊の総てが覚えられるようなら世間から、 天才という名を欲しいがままにできるというものである。 でもね、 覚えられないから覚えないというのでは、 批判を受けてもしょうがない。 覚えられないけど覚える努力はおしまないように。

 例えば一日1点の新刊の名前(書名)と顔(装丁)を覚えると1年間に365点の本が頭の中に収納されることになる。 あなたのキャリアが5年なら1825点については頭の図書館にはいっていることになる。 しかし現実は人間は忘れる動物であり、 コンピュータではない。 忘れることは人間である証拠である。 恥ずかしがらなくてもいい。 忘れていても思い出すことがあるからだ。

 さて覚え方の実践法であるが、 やみくもに棚の片っ端から覚えていけばいい、 というものではない。 覚えるのはまず新刊からだ。 新刊は問い合わせの頻度が高いので、 読者の問い合わせが多い。 それに答えられたら、 それだけで自信がつくというものだ。 それから〈夏目漱石の坊ちゃん〉が自分の店のどこにあるのか知らない人はいないと思うけど、 もし知らないのなら、 名作のありかを覚えるのも楽しいものである。 これらの場合必ず本に触ること。 見るだけではだめ。 必ず棚から出して、 本に触ること。 頭で覚えようとすると、 忘れたとき思い出せない。

 1点でも覚えて、 読者からの問い合わせにすぐに答えられたらあなたは本を良く知っている人ということになる。 たった1点しか知らなくてもである。 読者とはこういうもので、 その店の信頼性はグーンとあがる。

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